第14話 ズキュウウウン!?

「…………❤」

「~~~~ッ!?」


「――はっ?」




 やけにハッキリと、爆乳わんの不機嫌な声音が聞こえる。


 が、正直ソレどころではなかった。


 えっ?


 何で俺、メバチ先輩とキスしているの?


 というかコレ、俺のファーストキスじゃね?


 いやいや!?


 そんな事より、よこたんの前で他の女とキスをするのは、マズくないか!?


 コレって、浮気に入るのか!?


 というか、先輩の唇やわらけぇ~♪


 数多の思考が、煮えたぎったマグマの如く、浮かんでは消えていく。




「――♪♪♪」

「ッッ!?」




 突然。


 突然である。


 メバチ先輩の愛らしい舌が、にゅるっ! と俺の口の中に入ってきたかと思うと、




 ――ちゅるるるるるるるる~❤




 と爆音を響かせ、俺の口の中を全力で吸ってきた。


 その暴力的なまでの快感に、目の前が真っ白になる。


 俺は今、何をされているんだ?




「な、ななななっ!? なにをやってるだぁ~~~っ!?」




 瞬間、俺の意識をぶった切るように、顔を真っ赤にしたマイ☆エンジェルが大きな声をあげた。


 途端に、俺の唇に吸いついていたメバチ先輩の唇が、



 ――きゅぽんっ♪ 



 と小気味よい音を響かせ、俺の唇から離れた。


 それとほぼ同時に、あまりの快感に腰が砕けた俺が、その場で膝から崩れ落ちそうになる。


 メバチ先輩は、そんな俺をギュッ❤ と抱きしめながら、体育館前の入口で立ち尽くすマイ☆エンジェルを、勝ち誇った笑みで迎え入れた。




「庶務ちゃん――ううん、今は副会長ちゃんだっけ? 久しぶり、元気だった……?」

「う、ううう、ウオズミ先輩!? 何をやっているんですか!?」

「何って……コレの事?」




 そう言って、憤慨ふんがいする爆乳わんの目の前で、メバチ先輩は再び俺の唇に吸いついた。




「~~~~~ッッ!?!?」

「❤❤❤」

「あっ、あっ、あっ~~~~ッッッ!?!?」




 ちゅるるるる~♪ と、俺の唇に吸いつくメバチ先輩を見て、よこたんは今にも泣き出しそうな顔で、地団駄を踏み始めた。




「またやった!? またやった!? むぅぅぅぅぅっ!」

「(きゅぽん♪)――プハッ! ごめんね、副会長ちゃん……? 大神くんと付き合って、まだ数日だろうけど、もう別れて貰うね……? 副会長ちゃんは大神くんの彼女に相応ふさわしくないよ……」

「な、何を勝手な事をっ!?」

「安心して……? 大神くんはワタシが幸せにしてあげるから……」

「ちっとも安心できません!」




 何やらメバチ先輩とマイ☆エンジェルが言い合っている気配がするが、頭がフワフワ♪ していて、上手く思考がまとまらない。


 唇がけた鉄の棒を押し当てられたように熱い……。


 ぽけーっ! としている俺を他所よそに、エキサイトし始めるメバチ先輩と爆乳わん




「ダメです、許しません! ししょーの彼女はボクですよ!?」

「副会長ちゃんが何と言おうと、大神くんはワタシが貰う……。これは確定事項……」

「む、無茶苦茶です!? 言ってることが無茶苦茶ですよ、ウオズミ先輩!? 別れませんよ!? ボク、ししょーとは絶対に別れませんからね?」

「……そうだね。未練を残したまま別れたら、副会長ちゃんが大神くんのストーカーになっちゃうかもしれないし……うん」




 決めた、とマイ☆エンジェルの台詞に耳を傾けようとしないメバチ先輩が、ハッキリとこう言った。




「副会長ちゃん、勝負をしよう……」

「しょ、勝負……ですか?」

「うん、勝負……。勝った方が相手の全てを手に入れる事が出来る勝負……」




 副会長ちゃんが勝ったら、ワタシの持っている物を全部あげる。


 お金も、持ち物も、時間も、自由も、文字通り全部あげる。


 ただし――そう言ってメバチ先輩は、獰猛どうもうな肉食獣を彷彿とさせる瞳で、よこたんを見た。




「副会長ちゃんが負けたら、副会長ちゃんが持っている物を全て貰う……」




 お金も。


 持ち物も。


 時間も。


 自由も。


 そして――




「――男も。全部ワタシが貰う……」

「そ、そんなふざけた勝負、乗るワケないじゃないですか!?」

「だったら大神くんは、このままワタシのモノ……」

「うぐぅっ!?」




 苦々しい表情で、言葉に詰まる爆乳わん娘。


 そんなマイ☆エンジェルを嘲笑あざわらうかの如く、「くすっ♪」と微笑んだメバチ先輩が、むぎゅっ! と俺の身体を強く抱きしめた。


 途端に、先輩の柔らかい身体が、あちこち密着して……おっふ!?


 瞬間、よこたんの目尻がキッ! と吊り上がった。




「~~~~~ッ!? ……分かりました、やります。やってやりますよ!」

「そうこなくっちゃ……♪」




 メバチ先輩は獲物が罠にかかった事を察した狩人のような瞳で、にたぁ~❤ といやらしく笑った。




「勝負は明日――と言いたい所だけど、心の準備もいるだろうから、明後日にしよう……。場所は10時に駅前の銅像前に、水着持参で集合ね……?」

「水着持参……ですか?」

「うん。……もしかして、怖くなった? 大神くんに、そのだらしない身体を見られるのが怖い……?」

「こ、怖くありませんよ!? 怖くもなければ、だらしなくもありません! いいでしょう、水着持参ですね? 分かりました!」




 ふんっ! と、鼻息を荒げるマイ☆エンジェル。


 そんなマイ☆エンジェルを尻目に、『計画どおり』とほくそ笑む、メバチ先輩。


 あ、あれれ?


 なんか、俺の意思を完全に無視して、話が進んでいませんか?




「決定だね……。あっ、そうだ。安心していいよ……? ワタシが勝ったら、来週の花嫁のモデルも、副会長ちゃんの代わりにワタシが出てあげるから……。もちろん、大神くんと一緒にね……♪」

「ッ!? ど、どうしてその事を知って!?」

「ふふふ……さぁ? どうしてでしょうね?」




 メバチ先輩はニヤッ! と不気味に微笑むと、




「じゃあ明後日、また会おうね……? バイバイ♪ せいぜい残り少ない恋人気分を味わっておく事だね……」

「負けません! ボク、先輩にだけは絶対に負けませんから!」




 むぅ~っ!? と頬を膨らませ、精いっぱいの威嚇をしてみせるマイ☆エンジェル(かわいい♪)


 メバチ先輩は、そんな爆乳わん娘の放つ敵意など、そよ風のように受け流しながら、ゆっくりと俺の身体を離れ――




「最後にもう1回だけ……❤」




 ――そう言って、再び俺の唇に吸いついてきた。




 今日3度目のディープキスである。




「~~~~~ッッ!?!?」

「❤❤❤」

「あ、あぁ~~っ!? またやった!? またやった!? 許さない! もう絶対に許さない!」




 ちゅるるるるるる~♪ と、淫靡いんびな音色を奏でながら、メバチ先輩に吸われる俺の唇。


 まるで魂まで吸い取らんとするメバチ先輩とのキスに、意識がゆっくりと遠ざかっていく。


 意識が途切れる寸前で、俺が見た最後の景色は、恍惚こうこつとした表情を浮かべるメバチ先輩の笑みと、顔を真っ赤にして怒り狂う、爆乳わん娘の姿であった。

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