第13話 洋子、ファーストキスを強奪される。~『ネトラレ』は脳破壊が基本だよね♪~編

 卒業式が終わり、簡単なホームルームを済ませ、すぐ下校となった、その日の放課後。


 時刻は午前11時少し過ぎ。


 部活でお世話になった先輩達に別れの挨拶を済ませるべく、多くの生徒達が教室を後にする中、俺、大神士狼は――




「終わらなぁぁぁぁぁい!? ちくしょぉぉぉぉぉぉぉっ!?」




 ――体育館内で1人、使用したパイプ椅子を片付けていた。




「600脚ぜんぶ1人で片付けろってか!? ふざけんな、日が暮れるわ!?」




 ムキーッ! と怒りに身を任せながら、パイプ椅子を片付けていく。


 何故俺様がこんな事をしているのかと言えば、理由は簡単!


 この片付けが生徒会の仕事だからだ!




「だというのに、他のメンバーときたら!?」




 古羊姉妹と大和田ちゃん、そして司馬ちゃんは、ホームルームが終わるなり、卒業生に呼び出され、告白ラッシュを受けており、今この場には居ない。


 うさみんと元気に至っては、卒業式に五月蠅うるさくし過ぎたらしく、ヤマキティーチャーに連行されて、消息不明。


 結果、俺は1人でこのパイプ椅子の軍勢を相手に孤軍奮闘するハメに……ふぁ●く。




「いいよ、やってやんよ! 俺、やってやんよ!」




 俺は心の中で『ガンバレ♪ ガンバレ♪』と自分を鼓舞しながら、再びパイプ椅子と格闘を再開し――




「――コレ、片付けるの……?」

「えぇっ。しかも1人で、ですよ? もう何の罰ゲームだって話ですよ!」

「分かった、手伝う……」

「いいんですか!? ありがとうございます、メバチ先ぱ――」




 …………えぅっ!?




「えっ、メバチ先輩!? メバチ先輩じゃないっすか!?」




 振り返るとそこには、相変わらず片目が前髪で隠れている本日の主役、魚住メバチ先輩が立っていた。




「久しぶり、大神くん……」




 元気だった? と、花がほころんだような笑みを浮かべる、メバチ先輩。可愛い♪




「ほんとお久しぶりです、先輩! 自由登校になってから先輩、全然学校へ来なかったんで、心配してたんですよ!」

「ごめんね……? 予備校で最後の追い込みしてた……」

「いえいえっ! 元気ならソレでいいんですよ!」




 2人して会話に花を咲かせながらも、いそいそと鉄パイプを片付けてくれる先輩。優しい♪


 どうやら本当に手伝ってくれるらしい。


 おいおい?


 惚れてまうやろ?


 俺にマイ☆エンジェルが居なければ、告白して温かい家庭を築いている所だ。




「ところで、他の生徒会メンバーは……?」

「主にサボりと、卒業生(男)たちから絶賛告白されている最中です」

「あぁ~……。それは大変だぁ……」

「えぇ、大変です。とくにマイ☆エンジェルよこたんに告白している野郎共の心臓を、第二ボタンごとえぐり取りたい衝動を抑えるのに苦労してます」

「あっ、ソッチ……?」




 あぁ、心配だ!


 ちゃんと告白を断っているだろうか、俺のマイハニーは?


 なんて事を考えていると、不意に隣から強烈な視線を肌に感じた。


 見ると、メバチ先輩がどこか試すような視線を俺に向けていて……えっ?


 どうしたんですか、先輩?




「その様子だと、噂は本当みたいだね……」

「噂? 何の噂です?」

「大神くんが庶務ちゃん――ううん、副会長ちゃんと付き合い始めたって噂……」

「あっ、その件ですか。いやぁ、お恥ずかしい♪」




 テレテレ♪ と、クールな俺様らしくもなく、頬が緩んでしまう。


 そんな俺を見て、メバチ先輩は表情1つ変えずに、祝福の言葉を口にした。




「おめでとう、大神くん……」

「あ、ありがとうござます。へへへ♪ 何だか照れますね、コレ?」

「それで……?」

「はい?」

「それで2人はどこまで進んだの……?」




 どこか切迫した様子で、俺に詰め寄ってくるメバチ先輩。


 あ、あれ?


 せ、先輩?


 ちょっと怖いですよ?


 メバチ先輩は『嘘を吐くことは許さん!』と言わんばかりに、まっすぐ俺の目を見据えて、




「もうセックスはしたの……?」

「セッ!?」




 とんでもねぇ爆弾を投下してきた。




「いや、してませんよ!? そういうのはもっとこう、雰囲気を大切に――」

「じゃあキス。キスはしたの……?」

「し、してません……」

「そっか……。よかった……」




 ほっ! と安堵の吐息を溢す、メバチ先輩。


 何が『よかった』のだろうか?


 はて? と小首を傾げる俺に、メバチ先輩は1歩距離を詰めて来た。




「ねぇ、大神くん? ワタシ、今日、卒業なんだ……」

「あっ、そうだった。ご卒業おめでとうございます、先輩! 何だか、寂しくなりますね?」

「寂しい……? ワタシが居なくなると、大神くんは寂しいの……?」

「当たり前じゃないですか!」

「ありがとう……。ワタシも寂しい、大神くんに会えないのは……」




 そう言って、さらに半歩、俺との距離を詰めてくるメバチ先輩。


 何かもう、今にもキス出来そうな至近距離で俺を見上げてくるんですけど、この人?


 流石にちょっと距離感がおかしいな? と思い、1歩うしろへ後退しようとするが……先輩のまっすぐな視線がソレを許さない。


 な、何だろう?


 今のメバチ先輩、ちょっと怖い。




「だから寂しくないように、プレゼントが欲しい……」

「プレゼントですか? それは所謂いわゆる【卒業おめでとう!】的な奴で?」




 コクンッ! と頷く、メバチ先輩。


 プレゼントか……プレゼントを渡すことに抵抗は無いが、如何いかんせん、何も用意していない。




「すいません、先輩。俺が今、先輩に渡せるのは、甘い言葉に甘いマスク、そしてこの甘い時間くらいなモノで……」

「大丈夫。大神は何もしなくていいから……」




 メバチ先輩はニッコリ♪ と微笑み、




「ワタシが勝手に貰うから……」

「えっ?」




 それって、どういう?


 と、俺が口を開くよりも早く、体育館の扉が勢いよく開いた。




「ご、ごめんね、ししょーっ!? 1人でお片付けさせちゃって!? 遅くなったけど、ボクも手伝う――ッ!?」




 額にほんのり汗が浮かんだ爆乳わんが、元気よく体育館へと入って来て……その場で固まった。


 我がマイハニー、ラブリー☆マイエンジェルよこたんの視線の先。


 そこには――




「…………❤」

「~~~~ッ!?」


「――はっ?」




 そこには、メバチ先輩が俺の唇を奪って、ご満悦な笑みを浮かべている姿が映っていた。

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