第10話 さぁ、キサマの罪を数えろ ~乙女の純情を弄んだ罪は重い~編

 大和田家の居間に足を踏み入れた瞬間、血走った後輩から刺股さすまたで襲われた。


 しかも、刺股の先っちょは妙にトゲトゲしていて!?


 危ない!?


 俺が危ない!?




「加速装置っ!」




 奥歯を噛みしめ、横へ転がるようにダイブした、その瞬間。



 ――ビュンッ!



 と、俺が立っていた場所に、刺股のトゲが通過した。ひぇっ!?




「チッ、外したか……」

「えっ、なになに!? 何事!?」




 もう意味が分からない。


 どれくらい意味が分からないかと言えば『巨根ショタ』『床上手な処女』並みに意味が分からない。


 何で俺は大和田ちゃんに襲われたんだ?


 大和田ちゃんは、本当に心の底から忌々いまいましそうに「チッ」と舌打ちを溢すと、見ているコチラが怖くなるほどの満面の笑みを浮かべて、




「いらっしゃい、シロパイ♪ 遅かったね?」

「えっ、この状況で会話のキャッチボールを始めるの?」




 無理だよ?


 ソレが許されるのは殺し屋、もしくはアマゾネスさんだけだよ?




「実はクラスの女の子達の間で話題のクッキーを買って来たんだ。シロパイ、一緒に食べよ♪」

「待って? シロパイね、その前にさっきの『刺股の件』を聞かないと、怖くてクッキーが喉を通らないよ?」




 さも当たり前のように日常会話に戻ろうとする大和田ちゃんに、やんわり制止をかける。


 いやほんと、さっきの蛮行ばんこうの説明をプリーズ!?


 大和田ちゃんは、相変わらずニコニコ♪ 頬に笑みをたたえながら、




「いやぁっ! ゴキブリが部屋に出たから、駆除しようと思って」

「ご、ゴキブリ……?」

「そう、ゴキブリ❤ 逃がしちゃったケドね」




 そう言って、大和田ちゃんは持っていた刺股を壁にかけた。


 普通、ゴキブリを退治するなら、刺股じゃなくて殺虫剤じゃないの?


 という言葉が喉まで出かかったが、慌てて飲み込んだ。


 理由は分からない。


 が、これ以上は『深掘りしてはいけない!』と本能が警報を上げていた。




「そ、そっかぁ! ゴキブリかぁ!」

「うん。すっごい大きなゴキブリ♪」




 大和田ちゃんは倒れている俺を無視して、スタスタと押し入れの前へと移動した。




「しかもね? そのゴキブリ、すっごくたちが悪いの」

「質が悪い?」

「そっ。人畜無害そうな顔で近づいて来たかと思ったら、アッサリ人の領土を土足で占領せんりょうしちゃうの」

「…………」




 ご、ゴキブリの話だよね?


 何故か俺の背筋を北風小僧が走り抜けていった。




「でね? 占領したクセに、そのあとは放置。んで、今度は別の領土を占領しに行くの。酷いと思わない?」

「そ、それは酷い話ですなぁ」

「でしょ~?」




 大和田ちゃんはケラケラ笑いながら、




「ほんと――純情な乙女心をもてあそんだ虫ケラは、駆除するべきだよね?」




 ――バンッ!




 大和田ちゃんが勢いよく押し入れの扉を開いた。


 押し入れの中には、未来の猫型ロボットの代わりに、釘バット、鉄パイプ、メリケンサックに改造モデルガンが陳列ちんれつしていて……おやおやぁ~?




「お、大和田ちゃん?」

「ねぇ、シロパイ。知ってる? 翼さんが言うにはね? どんな屈強な男でも、釘バッドをお尻にねじ込むと、泣いて謝るらしいよ?」




 アカン、ねじ込む気だ!?


 この子、俺の下半身の四次元ポケットにアレ釘バットをねじ込む気だ!?


 なんて恐ろしい事を考えるんだ、このプチデビル後輩は!?




「待って、大和田ちゃん!? 話し合おう! まずは落ち着いて、俺と1回話し合おう! 大丈夫、人間は分かり合える生き物だから! だから落ち着いて、まずは俺と話し――」

「――合わない。さぁ」




 我が愛しのプチデビル後輩は、右手にローションを左手に釘バットを装着すると、満面の笑みで俺の方へ振り返りながら、




「おまえの罪を数えろ!」




 悪魔のような笑みを頬にたたえながら、俺の方へと近づいてくる大和田ちゃん。


 イカン、聞く耳を持ってくれない!?


 このままじゃ、俺の肛門括約筋が必要のない特技を覚えてしまうっ!?




「クッ……いたし方ない!」




 俺は間髪入れずに、背後の窓ガラスめがけて走り出した。


 まったり開けている余裕はない。


 突っ込むしかない!


 多少肌が切れるかもしれないが、しょうがない。


 お尻が切れるよりはマシだ。


 イクぞっ!




「エンダァァァァァァァァァァァぁ――――ッッッッ!」

「嫌ぁぁぁぁぁぁっ!? ウチの窓ガラスがぁぁぁぁぁっ!?」




 雄叫びと共に、窓ガラスをブチ破る。


 パリーンッ! という音と共に砕け散る、大和田家の窓ガラス。


 そして聞こえる、大和田の兄上の悲鳴。


「待て、逃げるな! この女の敵!」と怒声を上げる、プチデビル後輩。


 俺はそんな大和田兄妹の悲鳴と怒声のハーモニーをBGMに、魔王の館から逃げ出した。

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