第8話 結婚式は突然に

 結婚、それは自由の終焉、人生の墓場。


 楽しき独身生活に別れを告げ、家庭にお金を入れるだけの生きるATMと化す、まさに地獄の契約書。


 結婚したら最後、お金どころか人としての尊厳さえ奪われ、家庭のために働き続ける社畜になるから、結婚だけはやめとけ?



 ――とデリヘル嬢と麻雀に入れ込み過ぎて、嫁さんが実家に帰った近所兄ちゃんが言っていたのを、何故か今思い出した。



 というか、アレ?


 なんで俺、結婚の事を考えているんだっけ?




「け、結婚ッ!? ししょーと結婚!? どういう事、メイちゃん!?」




 いきなり【洋子と結婚しなさい】発言に、素っ頓狂な声をあげる爆乳わん娘。


 ハッ、そうだ!?


 確か芽衣がいきなり『再来週の日曜日、洋子と結婚しなさい』とか言い出して、ソレで思考がバグったんだった!




「落ち着きなさい、洋子。ちゃんと説明するから」

「ちょっと待て、芽衣!? 結婚はやぶさかではない、むしろ望むところだが、俺は17っ! せめてあと半年はしないと、日本国内で合法的な夫になる事は難しいぞ!? どうするんだ!? 政界へ進出するのか!? 手伝おうか!?」

「相変わらず走り出したら止まらない男ね、コイツ……」




 何故か辟易へきえきした様子で「いいから、人の話しを聞きなさい」と、ペシッ! と俺の額を指で弾く会長閣下。




「実はね、今、地域活性化プロジェクトの1つとして、結婚式場と結婚相談所を兼ねた『MORIMIブライダルサロン』なんてモノが開設されたの」

「「結婚式場?」」

「そっ。若い女性向けの結婚相談まで行う、本格的な式場のね。ほらっ、駅前に無駄に大きなビルが出来たでしょ? そこよ、そこよ」




 そこまで言って、俺とマイ☆エンジェルは「あぁ~」と声をハモらせた。


 あぁ、あのショッピングモールも兼ねたバカデカい高層ビル様か!


 へぇ~。アソコ、結婚式場にもなるのかぁ。




「そこのオープン記念広告に使う花嫁の写真のモデルに、アタシが抜擢されたんだけど……用意して貰ったウェディングドレスのある一部分が、ちょっとサイズに合わなくて」




 そう言って、気まずそうに目を逸らす芽衣。


 サイズが合わない……あぁ、胸か!


 でも、おまえの超パッドなら調整は自由自在だし、問題ないんじゃねぇの?


 と口にしようとしたが、芽衣が『ソレ以上言ったらコロス!』と目で訴えかけてきたので、止めた。




「そこでっ! アタシの代わりに洋子には、花嫁のモデルをやって貰いたいのよ! ほらっ、洋子ならルックスは問題ないでしょ?」

「う、うん……。それは別に構わないけど……ウェディングドレスを着るだけでいいんだよね?」

「そうね。ウェディングドレスを着て、広告用の写真を撮って、結婚式の手順紹介用のVTRも作るから、簡単な式の真似事をするくらいね」

「全然簡単じゃなかった……」

「大丈夫よ、すぐ終わるから。ちょっと6時間ほどで式の真似事をすれば終わるから」

「全然『ちょっと』じゃないよ、メイちゃん……」




 ケラケラ笑う会長閣下を尻目に、俺はラブリー☆マイエンジェルのウェディングドレス姿を脳裏に思い描いた。


 ……うん、良い。


 最高に良い!


 まさかこの歳で、もうマイ☆エンジェルの晴れ姿を見ることが出来るとは!


 これはが非でも花嫁のモデルをやって貰わなければ!




「ちなみに士狼には、新郎役として洋子とバージンロードを歩いて貰う予定だから」

「なるほど。そういう事か」




 他の男じゃなくて良かった!


 もし別の野郎が新郎役でマイ☆エンジェルの横を歩こうモノなら、俺はその式典をぶっ壊して、確実に花嫁さんを強奪するだろうし、うん。


 俺が新郎役で本当に良かった!




「それで、どう2人とも? アタシの顔を立てると思って、引き受けてくれないかしら?」

「「…………」」




 自然と俺と爆乳わん娘の視線が絡まる。


 もう1年近い付き合いになるのだ。


 彼女が何を言いたいのか、一瞬で分かった。


 だから俺は、満面の笑みと共に、親指を突き立て、こう言ってやるのだ。




「よしっ、じゃあ結婚すっか!」

「うんっ!」




 そう言って笑う爆乳わん娘は、やっぱり世界で1番可愛かった。

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