第7話 デキる姉は今日も憂鬱

 うっかりラブリー☆マイエンジェルに、パンツを被っている姿を目撃された、5分後のリビングにて。


 俺はお説教体勢へと突入したマイ☆エンジェルの前で、静かに正座していた。




「な、なるほど……。ソファーにボクのパンツが落ちていたから、思わず被っちゃったと……そういう事なんだね?」

「シュゴ―、シュゴ―……」

「そ、そりゃ洗濯モノを落としたボクも悪かったケドさ? 女の子のパンツを無断で被るのも、どうかと思うよ?」

「シュゴ―、シュゴォォォ……」

「ししょーはさ? もう少しデリカシーを学んだ方が――」

「シュゴォォォォォォォォッ!!」

「――あ、あのぉっ!? いつまでボクのパンツ被ってるつもりなのかなぁ!? いい加減、頭からパンツを外してよぉ! というか、なんで服を脱いでるの!? 意味わからないよ!? さっきまで着てたよね!? いやそれ以前に返してっ! ボクのパンツ返して!」




 ムガ―ッ! と、顔を真っ赤にして怒り出すマイ☆エンジェル。


 どうやら裏表のない誠意を表現しようと、パンツ1丁になったのが、気にくわなかったらしい。




「待ってくれ、よこたん。色々と言いたい事はあるだろうが、まずはコレだけ確認させてくれ」

「か、確認?」




 なに? と、コテンと小首を傾げる爆乳わん


 その姿に心と股間が熱くなるが、俺は何とか理性を総動員させ、本来の目的を思い出す。


 そうだ。


 俺が今、確認しないといけないのは、ただ1つ!


 俺は目の前でフリフリ♪ 揺れる、マイ☆エンジェルの制服のスカートに視線を寄越よこしながら、ハッキリと言ってやった。




「このパンツが俺の手元にあるという事は、だ? よこたんよ……今、ノーパンか?」

「デリカシーッ!? 言ったそばからデリカシーがないよ、ししょーっ!?」




 レディーに向かって何て事を聞くのさ!? と、スカートのすそを押さえ、怒ったような声をあげる爆乳わん娘。


 流石は俺のマイハニーだ。


 怒っていても、超プリティー♪


 プリティー過ぎて、うっかり想像妊娠するかと思った。




「待て待て、よこたん? そう声を荒げるんじゃない。大丈夫。俺、そういう趣味にも理解がある方だから。それに昔の人は履いてなかったって言うし。ノーガード戦法の何が悪い?」

「違うよっ!? ボクは別に『そういう』趣味なんか持ってないよ!?」

「分かってる、全部分かってるから。別に恥ずかしがらなくても大丈夫だぞ? スカートの下が暴れん坊将軍で何が悪い? 男はなぁ、そのギャップがたまらねぇんだ。『おいおい? 澄ました顔をしてるクセに、スカートの下は暴れん坊将軍かい? 松平健かい!?』みたいなさ」

「分かってない!? ししょーは何1つ分かってないよ!?」

「いつまでノーパン談義をり広げるつもりなのかしら?」

「――ッッ!?」




 突如背後から、ドン引きした女の子の声が俺の肌を叩く。


 この虫ケラを見るような冷たい声音は……間違いない、奴だ!


 俺は確信にも似た想いで背後へ振り返ると、そこには予想通りの人物が、予想通りの冷たい瞳で、俺を見下している姿があった。




「め、芽衣っ!? いつからそこにっ!?」

「ついさっきよ。……ったく。どういう状況よ、コレ?」




 あきれた瞳のまま、パンツを被るパンツ一丁の俺と、可愛く憤慨するマイ☆エンジェルを眺める会長閣下。


 流石の会長閣下の洞察力をってしても、事ここに至る経緯までは推察できないようだ。


 そうだなぁ。


 芽衣にも分かるように、簡単に説明すると――




「――俺の被っているパンツが、現役女子高生の脱ぎたて生パンツがどうか分かる瀬戸際、と言ったトコロかな?」

「言い方ァ!? 言い方がいやらしいんだよぉっ!? あっ、コラ!? ダメっ! 臭いを嗅がないで、息をしないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

「落ち着け、よこたん。パンツがクサい女は、ポイントが高いぞ?」

「そんなポイントいらないよ!?」

「相変わらず、ナチュラルに気持ち悪いわね、この男?」




 涙目で憤慨する爆乳わんと、とんでもねぇド変態と遭遇した時のような冷たい瞳を浮かべる女神さま。


 惚れられたかもしれない。




「返してっ! ボクのパンツ返して!?」

「悪いな、よこたん。それは出来ない。コレは我が家の家宝として、大切にたてまつらせて貰う」

末代まつだいまでの恥……」

「だ、ダメダメっ! そんなのダメだよ、ししょーっ!? 親御さんが泣いちゃうよ!?」

「一向に構わんっ!」

「そ、そんなぁ~っ!?」

「この茶番、いつまで続くのかしら……?」




 何故か呆れたようにかぶりを振る芽衣。


 心なしか、その表情はちょっと疲れているように見える。


 どうしたのだろうか?


 シロウ、心配だなぁ。




「フハハハハハっ! もう誰も俺を止められない! 今宵の俺は素敵に無敵、そうスーパー士狼クンなのだぁ!」

「うぅ~っ!? メイちゃ~ん!?」

「はいはい。……士狼? ちょっとそこへ立ってくれないかしら?」

「むっ? 別にいいけど?」




 俺は言われた通り、正座を止め、その場へ立ち上がる。


 芽衣はそんな俺を眺めながら、ポケットからスマホを取り出すと、内蔵カメラレンズで俺の姿を捉え、



 ――パシャッ!




「うん、綺麗に撮れた♪ 士狼も見てみる?」

「あの、芽衣さん? なんで急に写真なんか撮ったの?」

「ねぇ、士狼? この写真を今、蓮季はすきさんに送ったら、アンタ、どうなっちゃうんでしょうね?」




 芽衣は俺の疑問に答える事なく、スマホの画面をコチラに見えるように差し向けた。



 ――そこにはビシッ! と、ボクサーパンツ1枚に、頭をパンティーで武装したイケてる知的な17歳が、画面いっぱいに映し出されていた。



 完全な変態へと完全変態した俺が、見つめていた。




「……ふむふむ、なるほどな」




 同級生の女の子の家で、ほぼ全裸で美少女2人と向かい合っている状況の中。


 頭にはパンティーを被り、性義のヒーローと化したナイスガイな俺。


 しかも頭部に被るパンティーは『王冠スタイル』ではなく、まさかの股間部分が鼻・口を完全におおっている『変態仮面スタイル』である。


 そこから導き出される結論は――1つだ。




 ……今コイツを見逃せば、次に会う時は間違いなく法廷だ。




「どうやら、やっと自分の立場というモノが理解できたようですね?」

「クッ!? 汚ねぇぞ、芽衣!?」

「大丈夫。今の士狼の姿よりは、汚くはないから」




 サラッ! と俺を罵倒してくるあたり、今日の会長閣下は絶好調のようだ。




「何が望みだ? 身体か!? この魅惑の魅力的ドスケベボディか!? ……いいだろう、好きにすればいいさ!」

「えっ、いいの!?」

「落ち着きなさい、洋子。士狼のいつもの冗談だから」

「あっ……冗談……そっか」




 シュン……と肩を落とす爆乳わん娘。


 なんだろう?


 今、よこたんの瞳が凄い怖かったんだけど?


 なに? あの一瞬見せた満面の笑みは?


 大好物を前にした猛獣のような笑顔だったよ?


 もしこの場に芽衣が居なければ、確実に俺は何かを失っていただろう。


 ……何かは分からないが。




「いいか、最初に言っておくぞ? 俺の魂は不当な圧力にくっする事はない! 絶対にだ!」




『くっ、殺せ!』と、快楽堕ちが確定している爆乳女剣士のような面持おももちで、古羊姉妹を睨みつける。




「そう。じゃあ早速、この写真を蓮季さんに送っちゃおっと♪」

「すいません。何でもするんで、それだけは勘弁してください……」

「屈しちゃったよ、ししょーの魂……」




 額を床に擦りつけ、秒で土下座をしていた俺に、よこたんが何とも言えない顔を浮かべる。


 惚れ直したのかもしれない。




「なんでも? 士狼、アンタ今『何でもする』って言ったわね? その言葉に、嘘はないわね?」

「……男に二言はありません」




 瞬間、芽衣の口角が耳まで裂けんばかりに、いびつな三日月状に吊り上がった。


 あっ、ヤバい。


 ロクな事を考えてない時の表情だ。


 後悔したところで、いつもアフター・フェスティバル。


 芽衣はニンマリ♪ と歪な笑みを深めながら、満足気に小さく頷いた。




「よろしい。なら、この写真は特別にアタシ達の胸の中に仕舞っておくわ。そ・の・か・わ・り~♪ さっそく1つ、言う事を聞いて貰うわよ?」

「チッ……わかったよ。行けばいいんだろ? 合コンの数合わせに」

「……アンタ、この状況でよく自分の欲望を口にできるわね?」

「ししょ~?」




 芽衣が呆れを通り越して、ドン引きした表情を浮かべた。


 その隣では、我がラブリー☆マイエンジェルが地の底から響くような声を上げながら、ジトォ~と湿った瞳を俺に向けていた。


 おっとぉ?


 これは……やっちまったか?




「合コンとか、ボク、絶対に許さないからね?」

「も、もちろんさ、マイハニー? 硬派な俺が、そんな所に行くワケ無いだろ? ハハッ!」




 千葉県の某埋立地うめたてちに存在するする『夢の国』のマスコットキャラクターのような、甲高い声が俺の唇からまろび出る。


 落ち着け、俺?


 気を抜いたら『夢の国』どころか『黄泉の国』へ出航するぞ?


 気を引き締めろ、俺!




「そ、それよりもっ! 俺に何をさせるつもりだい、芽衣ちゃん!?」




『あっ、誤魔化したな?』というマイ☆エンジェルの視線をあえて無視して、我らが会長閣下に水を向けた。


 芽衣は、その白魚のような綺麗な人差し指をピンッ! と立て――





「――再来週の日曜日、洋子と結婚しなさい」





 瞬間、世界から音が消えた。

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