第6話 どの世界線に居ようとも、大神士狼のやる事は変わらない

 俺は魅惑の三角形からなる、1枚の扇情的サブティカル補助・エロ道具・アイテムを凝視しながら、驚きに目を見開いていた。


 正直、我が目を疑っていた。


 パンティー。


 またの名をショーツ。


 女性の股下を覆う、面積の少ない下着。


 女の子の魅力を底上げする秘密兵器リーサルウェポンにして、男の子が生涯をかけてまで探求しようとするロマンの欠片。




「そのロマンの欠片が、今、我が手中にある……だとっ!?」




 お、落ち着け、シロウ・オオカミッ!


 状況から分析するのに、コレは古羊姉妹のパンティーであると推測できる。


 問題……。


 そう問題は――果たしてコレは『どちら』の下着なのかという事っ!




「違う違う違う違うっ!? そうじゃないだろ、俺!? 落ち着け、俺!?」




 この際、下着が『どちら』のモノかなんて関係無いだろ?


 そう、今、1番大事なのは……この下着を俺が持っているという事実っ!




「こ、こんな場面トコロを芽衣にでも観られて見ろ。人生終わるぞ!?」




 事は緊急を要した。




「……よし、誰も見てないな」




 辺りをキョロキョロ見渡しながら、小さく安堵の吐息を溢す。


 よこたんはキッチンで夕飯の準備中。


 芽衣は洗面所でワチャワチャ♪ している。


 ならまだ時間はあるハズだ。


 その間に何とか証拠を隠滅しなければっ!




「それにしても、女の子の家で、家主がこの場に居ない事をいいことに、絶妙な角度でパンティーをつまみ上げながら、鼻息を荒くするピチピチの17歳の少年……か」




 うん、間違いなく事案発生案件だね!


 事件は会議室で起きてるんじゃない、リビングで起きてるんだっ!


 今にも大捜査線が踊り出しかねない雰囲気の中、俺の中の天使と悪魔が、猛烈な勢いで戦い始めた。


 悪魔は言った。




『誰も見てないんだし、コイツで楽しんじゃおうぜ!』




 なるほど、一理ある。


 天使は言った。




『……ふふふ♪』

「…………」

『……ふふふ♪』

「…………」

『……ふふ、ふ』

「…………な」




 な、何も言わねぇ!?


 この天使、何も言わねぇぞ!?


 ただ笑顔で『うふふ♪』言ってるだけだ!?


 なんて思っていると、天使(俺)の目尻に、一筋の涙が走った。




『た、楽しむ以外に何も思いつかなくてぇ~……(ぐすぐす)』

「確かに」




 俺天使の実に天使らしい判断に首を縦に振っていると、


 ふわっ♪


 持っていたパンティーから、凄くイイ匂いが鼻腔びこうをくすぐった。




「……どうせ誰も見ていないし、このパンティーに鼻先を突っ込んで匂いをクンカクンカしても、誰にもバレな――クソぅ!? 俺の中の悪魔め! なんて恐ろしい事をささやくんだ!?」

『えっ!? 俺、なにも言ってない……』




 言いがかりだ……とでも言いたげな瞳で俺を見てくる悪魔を無視して、俺は1人呼吸を整える。


 悪魔の言う通りにするのは少ししゃくだが、俺天使もGОサインを出してくれているし、うん!


 そんなワケで、このあとメチャクチャ匂いをごうと思いました、まる!


 なぁに、大丈夫だ!


 芽衣たちが戻ってくるまでに楽しんで、元の場所へ戻せば……ほらっ! 


 完全犯罪の完成だ!




「シロウ、イッきまぁぁぁぁぁ――すっ!」




 俺は何ら躊躇ためらうことなく、男としてさらなるステップアップを試みるべく、スカイブルーのパンティーに鼻先をうずめた。




 ――瞬間、俺の中でフローラルな香りが爆発した。




「ふわぁぁぁぁぁっ!? な、なんだ!? この圧倒的なまでのフローラルな香りはぁぁぁぁぁぁあっ!?」




 意外としっかりした生地のスカイブルーのパンティーから漂うのは……そう、幸せの香りだっ!


 しかも、やたら押しつけがましいトイレの芳香剤とは一線をかくするほどの、甘く、優しい、清潔感のある至高の香りだった。




「まるで花畑を抜けてきた春の午後の風のような、優しく甘い、上品なフローラルな香り……クソっ!? どっちだ!? コレはどっちのパンティーなんだ!?」




 果たして我が最愛なるガールフレンド、ヨウコ・コヒツジのモノなのか?


 それとも我らが偉大なるキング・オブ・ボス、メイ・コヒツジのモノなのか?


 ソレがハッキリしない限り、これ以上の行為は怖くて出来ない。


 いや我がラブリー☆マイエンジェルだったら、彼氏という免罪符をフルに活用すれば「もう、しょうがないなぁ~」と言って笑って許して貰えるだろうが……芽衣はそうはいかない。


 おそらく生まれてきた事を後悔するような、精神的苦痛をこれでもかと俺に与えてくるに違いない。


 確率は2分の1……か。


 へへへっ♪ 受けて立ってやるよ、この闇のゲームをな!


 俺は『確率を越えろ。奇跡を起こせ!』をキャッチフレーズに、このパンティーの主を特定するべく、再び鼻先を股間部分クロッチに突っ込んでゆっくり息を吸い込んだ。




「フンフンッ! ふわぁぁぁぁぁぁぁ~っ!? この暴力的なまでのフローラルな香り……チクショウ!? 一体どんな洗剤を使えば、こんな天使のような香りに仕上がるっていうんだ!?」




 アタ●クか!?


 ボ●ルドか!?


 それともビ●ズか!?


 ……ハッ!? さては意表を突いてのアリエ●ルだな!?




「クソっ、分からない!? 一体どんな洗剤を使って――」




 違う、落ち着け俺!


 今、重要なのは洗剤じゃない!


 このパンティーの主だ!




「いや、よそう。もう自分の心に正直になろう」




 そうだ、もう御託ごたくはいい。


 このパンティーが古羊姉妹のどちらのモノかなんて、もうどうだっていい。


 俺はただ、純粋に、心の底から――




「――このパンティーを、頭に被りたい」




 そう理解した瞬間、パンティーが吸い込まれるように俺の頭部へと装着された。


 しかも頭部装着型ではなく、鼻と口を股間部分クロッチで覆う『変態仮面スタイル』での装着だ。


 俺を襲う興奮と高揚感は、もはや饒舌じょうぜつに尽くしがたいモノがある。




「ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!? の、登った、登ったぞ!? 今、明らかに俺は何かしらの階段を登ったぞぉぉぉぉぉっ!?」




 もしかしたらコレが大人の階段なのかもしれない。


 なるほど。


 世の男たちは、こうやって大人の階段を上っているワケか。


 すごい、大人は凄いぞ!


 これからは道行く大人の男性を見かけたら、全員問答無用で変態だと思うようにしよう。




「この身体から溢れ出てくる、明日への活力。下半身から感じ無限のエネルギー。そして、お腹を痛めてまで生んでくれた母親への、申し訳なさ……。これがパンティーを被るという事か」




 生まれて17年と半年。


 ずっとゴミ捨て場の生ゴミを漁る負け犬同然の生活をしていた俺は、今、あきらかに同世代が追いつけもしない、遥か高みへと足を踏み入れた。


 コレが至高の領域……か。


 す、すごいッ!?


 世界が輝いて見えるぞ!




「聞こえるか、世界よ! これが大神士ろ――」

「ししょー? ちょっとコッチ来てぇ~?」

「んっ?」




 俺の決め台詞にカットインするかのように、キッチンから爆乳わんの声が、リビングへと木霊した。


 むぅ……今、良いところだったのにぃ。




「どうしたぁ~? 何かトラブルかぁ~?」

「いや、ちょっと味見して貰おうかと思って。……ダメ、かな?」




 マイ☆エンジェルの不安そうな声音が耳朶じだを叩く。


 ふむ、味見か。


 そういう事ならしょうがない。


 俺はソファーから立ち上がると、そのまま爆乳わんが居るキッチンへと移動した。




「俺で良ければいくらでも協力するぜ、マイハニー☆」

「ほんと? 助かるよ。ありが――うぇぇぇえええっ!?」




 笑顔で俺の方へ振り返ったマイ☆エンジェルが、人の顔を見るなり、素っ頓狂な声を上げた。


 どうした?


 俺の顔がイケメン過ぎて、驚いたのか?


 イケメンでゴメンね?


 と、心の中で謝罪していると、よこたんは最愛の彼氏である俺の顔を指さして、ハッキリとこう言った。




「そ、それ!? ボボボボボ、ボクのパンツ!? なんで被ってるの!?」

「……あっ」




 ヤッベ☆


 パンツ(頭)ぐの忘れてたわ♪

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