第5話 変態大失格

「今日の晩御飯当番はメイちゃんだけど……本当にボクが作っていいの?」

「アタシがお願いしてるんだから、いいのよ。もちろん士狼も食べて行くわよね、ウチの晩御飯?」

「よっしゃーっ!? 人生初、彼女の手作り晩御飯ダゼ☆」

「……ほんと自分の欲望に素直な男ね、コイツ?」

「そ、そんなに喜ばれると、かえってプレッシャーが……」




 何とも不安気な表情で、狂喜乱舞する俺を見守るラブリー☆マイエンジェル(かわいい♪)


 芽衣ちゃんのお説教が一通り終わった、午後7時少し過ぎ。


 我らが爆乳わん娘は、俺の放送室ジャック事件の責任を負うべく、今晩の夕食当番を芽衣と代わる事で手打ちとなった。




「うぅ~……ッ!? そ、そもそも、ししょーが起こした事件なのに、なんでボクが……」

「文句を言わない。彼氏の責任は彼女の責任! いいから黙って、美味しい夕飯を頼むわよ?」

「きっと食べたら衣服が弾け飛ぶ、すっげぇ上手い料理が出てくるんだろうなぁ! 楽しみだなぁ!」

「あ、あんまりハードルを上げないで、ししょーっ!? 料理はメイちゃんの方が得意なんだから……」




 実に不安気な足取りで、キッチンの方へと移動していくマイ☆エンジェル。


 制服の上から真っ白なエプロンを羽織りつつ「え~と」と、冷蔵庫の中を物色し始める、俺の彼女。


 裸エプロンじゃないのが、悔やまれる所だ。


 今度お願いしたら、やってくれねぇかな、アイツ?


 おっとぉ、こうしちゃいられない!


 俺はさっそく制服エプロンの爆乳わんをローアングルから見守るべく、キッチンへと吸い込まれるように移動し――




「ぐぇっ!?」

「はい、ストップ~。士狼はここでアタシとお留守番よ」




 ――ようとした矢先、芽衣に襟首を引っ張られた。


 まるで飼い犬に『ステイ!』とでも言うご主人様のように、俺の襟首を握りしめる会長閣下。


 そ、そんなっ!?


 すぐそこにJKの制服エプロンがあるというのに、拝謁はいえつする事すら出来ないと言うのか!?


 彼氏なのにっ!


 俺、彼氏なのにっ!?




「くぅ~ん、くぅ~んっ!?」

「そんな甘えた声を出してもダメよ。ほらっ、料理が出来るまでアタシと一緒に待機よ」




 そう言って、ズルズルとリビングのソファーの方へと俺を引きずって行く、芽衣。


 芽衣は1度、キッチンへと視線を寄越よこし、




「さて、一応姉として確認はしとかないとね。……それで?」

「???『それで』とは、なにが?」

「だ、だからっ! アンタはその……本気で洋子が好き……なの?」

「大好き。愛してる」

「……即答、ね」




 考えるまでもない質問に、間髪入れず頷いてみせた。


 が、何故か芽衣は一瞬だけ、つらそうな表情を浮かべた。


 あ、あれ?




「芽衣……? 大丈夫か? 顔色が悪いぞ?」

「……そう? 士狼の見間違いじゃない? アタシはいつも通りよ」




 場の空気を洗い流すかのように芽衣がニカッ♪ と、あっけらかんと笑った。


 そこにはさっきまでの悲し気な彼女は居らず……ありり?


 芽衣の言う通り、見間違いだったのかな?




「あっ、ごめん士狼。ちょっとアタシ、洗面所へ行ってくる。すぐ戻るから、アンタはここで大人しく待ってなさい。間違っても洋子の邪魔をしちゃダメよ?」

「あいあーい」




 俺の返事もそこそこに、早口でそうのたまった芽衣が、スタコラサッサ♪ とリビングから飛び出て行った。


 まるで俺から逃げるかのように、顔を逸らし、素早く移動する会長閣下。




「芽衣……」




 リビングから消える彼女の後ろ姿を眺めながら、俺は心の中で語りかけた。


 分かっている。


 芽衣の言いたい事は分かっている。


 もうかれこれ1年近く一緒に居るのだ。


 彼女の気持ちくらい、簡単に察する事が出来る。


 芽衣、おまえ……




「あの日、か……。始まったんだな」




 俺は出来る男なので、ソレ以上の追及は避け、ソファーに腰を下ろした。


 これが彼女の持ちの男の余裕である。




「さて、料理が出来るまで暇だし、何をしようかな? ……うん?」




 ソファーに身を預けながら、近くのクッションを抱き寄せようとして、ハタッ! と気がつく。


 あれ?


 なんか、このクッションの下に何か挟まっているような……?




「なんぞ、コレ?」




 俺は「はて?」と小首を傾げながら、ズボッ! と、クッションの下に挟まっている『ナニカ』を引っ張り出した。


 妙にスベスベしていて、手触りがいい。


 う~む?


 ハンカチか何かかな?


 引っ張り出すと、そこには俺の予想通りのスカイブルーの布切れが握られていた。




「まったく。だらしのない姉妹だ。洗濯物のしまい忘れか?」




 しょうがない姉妹め。


 俺は心の中で苦笑を浮かべながら、握っていた布切れを両手で広げ、





 ――瞬間、俺は全てを察した。





「なん、だと……っ!?」




 それは断じてハンカチなどではなかった。


 ソレはハンカチと言うには、あまりにも小さ過ぎた。


 小さく、スベスベで、愛らしく、ドスケベだった。


 ソレはまさに、女の子の――




「――ぱ、パンティーだった……っ!?」

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