第4話 変わらなかった、その先で……

【よこたん独占宣言】から丸1日が経過した、その日の放課後。


 放送室の無断占拠により、我らがマッスル☆ティーチャー・ヤマキに生徒指導室へ拉致監禁されること10時間。


 場所は打って変わって、みんな大好き森実高校から高級住宅街にて。


 そこにデンッ! と、きょを構えるマンション様のとある1角のお部屋で、俺は『ある美少女』へ向かって土下座を敢行(かんこう)していた。




「このたびは、私的に生徒会の名を使ってしまい、誠に申し訳ありませんでした!」

「ほんとよ、もう! おかげでアタシの評判に傷がついたじゃない!」




 腰に手を当て体中から怒気を発散させる、この美少女の名前は、みなさんご存じ、我らが生徒会長閣下にして、学校1の美人姉妹と名高い『双子姫』の姉君、古羊芽衣さまである。


 サラサラとした亜麻色の髪に、濡れた紅玉のような瞳。


 スラッ! とした手足に、グラビアモデル顔負けのビックパイパイ!


 まさに時代が違えば、傾国の美女と呼ばれていたであろう女の子。


 ……だが、俺は知っている。


 この日本海溝を彷彿とさせる谷間は、実はフェイクで、冗談みたいにバカデカい胸パッド、いや超パッドで盛りに盛っていることを!


 本物のパイパイは、それはもう涙が出そうなくらい綺麗な地平線をしていて――




「おい犬? どこ見てんだ、コロスゾ?」

「サーセンッ!」




 満面の笑みで生徒会長に殺害予告を口にされる、午後6時30分。


 いやぁ、流石は生徒会長さまだ。


 ほら見て? カタギがしていい瞳じゃないよ?


 アレでも女子高生なんだぜ?


 もうね? 前世は大量殺人鬼、もしくは大量虐殺の妖精だと言われても信じちゃう位、力強い眼光なんだよね?




「ね、ねぇ、メイちゃん? 何でボクまで正座させられてるの? ボク、関係ないよね?」

「連帯責任よ。ペットの失態は飼い主の失態。コイツの監督不行き届けという事で、洋子も正座していなさい」




 意義は認めない! とばかりに、俺の横で同じく正座していたラブリー☆マイエンジェルが「そんなぁ~っ!?」と悲し気な声をあげた。


 う~ん、泣きそうな顔のマイハニーもカワイイなぁ♪




「そんな顔してもダメよ。 彼氏の不始末、彼女がつけるべし! いいから洋子も一緒に反省しなさい」

「む、無茶苦茶だよ、メイちゃ~ん!? ……あれ? ……あれ!?」




 目尻に涙が『コンニチハッ!』していたマイ☆エンジェルの瞳が、驚きに見開かれた。


 おっ?


 どうした、どうした?


 あの日か?


 始まったのか?




「な、なななな、なんで!? め、メイちゃん、どうしてボクとししょーが付き合ってるって知ってアババババババババッ!?」

「はいはい、落ち着きなさい。そこのバカが今朝けさ、校内放送で元気に『古羊洋子は俺の女だ!』って言ってたじゃないの。もう忘れたの?」

「ハッ!? そ、そうだった……。んもうっ! 酷いよ、ししょーっ!? アレだけ『ナイショにして!』ってお願いしたのに、何でバラしちゃうのさ!?」

「天井のシミ、この間よりも増えてない? ちゃんと掃除してる?」

「聞いてよ!? あと、ちゃんと掃除はしてるよ!」




 ぷんぷんスコスコッ! と、分かりやすく憤慨ふんがいするマイ☆エンジェル(かわいい♪)


 もう少し我が恋人をイジり倒したい所だったが、流石にそろそろ本格的に泣きそうだったので、本題へ入ることにした。




「まぁ待て。よこたんの言い分も分かる。が、こればっかりはハッキリ周りに彼女宣言しないと、後々面倒になると思ったんだ」

「面倒になる?」




 コテン? と首を傾げる、爆乳わん娘。


 その目の前で、仁王立ちしていた芽衣が「あぁ~、なるほど」と小さく頷いていた。




「士狼にしては、珍しく頭が回るわね?」

「バカ野郎。『珍しく』は余計だい」

「??? えっ、えっ? なになに? どういう事なの? メイちゃんは分かったの?」




 疑問符でいっぱいの瞳を姉に向ける、よこたん。


 芽衣はそんな妹に苦笑を浮かべながら、俺が言いたかった事を代弁し始めた。




「簡単に言ってしまえば、士狼は不安だったのよ」

「ふ、不安? な、なにが?」

「洋子が他の男にアプローチされて、アッサリ士狼を捨てるかもしれない未来が」

「す、捨てる!? 捨てないよ!? ボク、ししょーを捨てないよ!?」




 なんでそんな発想になるの!? と、父親がバーチャルの世界で美少女の皮を被っている【バ美肉おじさん】として活躍している事を知ってしまった息子のように、大いに狼狽うろたえるマイ☆エンジェル。


 そんなマイ☆エンジェルに、芽衣は「分かってないわねぇ~」と肩をすくめてみせた。




「いい、洋子? アンタはモテる。モテるのよ」

「きゅ、急にナニ? メイちゃん……?」

「まぁ聞きなさい。……男っていうのはね、イイ女が居たら、声をかけずには居られない生き物なのよ。狩猟民族のDNAだから、コレばっかりは避けられない」




 イイ女、特に若々しいエロい肉体をしたメスが、つがいも無しに道を歩いていたら、そりゃもう自分のモノにしたくなるのが、雄という生き物なの。


 しょせんアイツらは、下半身でしかモノが考えられないケダモノだから。


 と、口にする会長閣下。


 酷い言われようだ。


 が、全くってその通りだったので、何も言い返せませんでした、まる!




「そんなワケで、士狼は洋子に自分以外の他の雄が寄り付かないように、釘を刺しておきたかったのよ。ねっ、士狼?」

「うん。その通りなんだけどさ? ちょっと男心を理解し過ぎじゃない、芽衣ちゃん? ほんのり怖いんですけど?」




 モテない男心検定2級はありそうな理解度に、正直恐怖を隠せない。


 なんでこの女は、いつも俺の心の中を覗いたように、適確に俺の気持ちを言葉に出来るの?


 もしかして、実は男だったりしない?


 少年みたいな『まったいら』な胸をしているし、実はポコチンが生えてたりは――ぷぎゃっ!?




「うふふっ♪ 誰の胸が全力少年だって? もう1度言ってみろ、この犬❤」

いだだだだだだだだだっ!? な、何も言ってない!? 犬、何も言ってません!」




 俺の顔面を鷲掴みにした芽衣の指先から、メキメキメキッ! と、人体が発してはいけない音が鳴り響く。


 こ、この腕力、間違いない!


 やっぱり芽衣は、メスチ●ポが生えたゴリラに違いなぐわぁぁぁぁぁぁぁっ!?




「そ、そっか。ししょーはボクが他の誰かのモノになるのが嫌だったんだ……えへへ♪」

「いや『えへへ♪』じゃなくて!? 助けて、よこたん!? チミの大事な彼氏クンの頭が、ミンチになる寸前だよ!? 笑ってないで、お姉さんを止めてぐわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「アタシのこの手が真っ赤に燃えるぅぅぅうっ!」




 爆乳わん娘がクネクネ♪ と身体をクネらせている間に、芽衣のゴッドフィンガーが俺の顔面へと食い込み続けた。


 結局、よこたんと恋人関係になろうとも、俺達のやる事はいつもと変わらなかった。

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