第3話 男子高校生なんだが校内放送を切り忘れたら伝説になってた ~俺の女に手を出すな~編

 よこたんと仲良く学校へ登校して1時間。


 時刻は8時30分少し前。


 もう数分も経たない内に、朝のホームルームが始まろうかとしている、この時間。


 俺はいつものように、1時限目の準備をする――




「よし、元気。ソッチはどうだ?」

「あと少しや! 配線完了まで、あと10秒や!」




 ――ことなく、ホームルームそっちのけで、放送室を親友と占拠ジャックしていた。




「急げ! ヤマキティーチャーに気づかれるぞ!?」

かすな、急かすな。あとはコレを……よしっ! 出来たで、相棒!」




 放送室にある、よく分からん機材をいじっていた我が偉大なる親友、猿野元気がグっ! と親指を突き立てる。


 俺はソレに小さく頷きながら、マイクの電源をОNにした。




「あ~あ~っ? マイクテス、マイクテス。聞こえてる、コレ?」

「大丈夫や、相棒。全校舎に、相棒の美声が響いとるで!」

「ОK、それじゃ始めようか」




 若干ザワザワし始めた校舎の空気をガン無視して、まずは謝罪の言葉を口にした。




「みなさん、おはようございます。生徒会庶務の2年A組、大神士狼です。朝のいこいの一時ひとときをブチ壊してしまい、誠に申し訳ありません。生徒会から大事なお知らせです」




 もちろん【生徒会からのお知らせ】は嘘っぱちなので、今頃、芽衣あたりが教室でギョッ!? と目を見開いているに違いない。


 すまん、芽衣。


 放送室のカギを借りるのに、生徒会の名前は実に都合が良かったんだ。


 あとで謝るから、このあと一緒に怒られような?


 と、心の中で腹黒虚乳に謝りながら、俺は言葉をつむいでいった。




「まず始めに、同じく生徒会副会長の2年C組、古羊洋子さん。最初に言っておきます、ごめんなさい。どうやら朝の約束は、守れそうにありません」




 えっ、それってどういう……? と、教室内で戸惑っている爆乳わんの姿が、ありありと想像できた。


 俺はそんな彼女のオロオロッ!? している姿を思い起こしながら、




「わたくし、大神士狼は生粋の独占どくせん処女厨しょじょちゅう。スーパーユニコーン系男子です。惚れた女の背後に、男の影がチラつくだけで発狂する自信がある、モンスター童貞です。故に、こういう事はハッキリ言っておかないと、後々面倒になるので、生徒会の名を借りて、今ハッキリと言っておきます」




 なんせ我が恋人は【双子姫】と呼ばれるほどの、男女問わず学校内でファンが多い女の子なのだ。


 だからこそ、そいつ等を牽制するためにも、俺はハッキリと宣言しなければならない。






「わたくし、大神士狼と古羊洋子は今――付き合っている!」






 瞬間、校舎内が水を打ったように静かになった。




「そんなワケで、皆の衆には俺達の恋路を生暖かく見守って欲しい。そしてっ! 金輪際、俺以外の男は古羊洋子に、俺の女に近づかないように! 以上、生徒会からでした!」


『『『『『…………』』』』』




 耳が痛くなるほどの無音が、森実高校を支配した。


 数秒の静寂。


 もはや時が止まっていると錯覚しそうになるほどの、静かな時間。


 だが人間、永遠に時を止める事は不可能である。


 なんせ、あの承●郎さんでさえ5秒が限界だったのだ。




『『『『『……はぁっ!?』』』』』




 刹那、地割れのように森実校舎に怒声と困惑の声が木霊した。




『おい待て!? 今の放送どういう事だ!?』

『えっ、嘘!? 寒いギャグとかじゃなくて!?』

『騙されるな、みんな! オレ達のマイ☆エンジェルが、あんな腐れ雑草ゴミムシと付き合っているワケがない! これは何かの陰謀だ!』

『嘘つきぃぃぃぃっ!? ししょーの嘘つきぃぃぃぃぃっ!?』




 防音対策がしっかりしているハズの放送室からでも、生徒達の祝福の声が、扉越しに聞こえてくる。


 みんな、俺とラブリー☆マイエンジェルの幸せの門出を応援してくれているのが、ヒシヒシと伝わってくる。


 ありがとう、みんな。


 俺、絶対に幸せになるよ!




「繰り返します! わたくし、大神士狼と古羊洋子は今――付き合っている! だから、他の野郎共は俺の女に近づくな! 特に【古羊クラブ】の2年A組、三橋みつはし倫太郎りんたろう! おまえはマイ☆エンジェルの半径10メートル以内に近づく事を禁止する!」




 沸き上がる校舎。


 飛び交う野郎共の悲鳴。


「ここを開けなさい!」と、放送室の扉をダムダムッ! 叩く、教師陣。


 そんな奴らに向かって、俺はもう1度だけ、ハッキリと宣言した。




「古羊洋子は俺の女だ。俺の女に手を出すな!」




 かくして、後に『森実高校のパールハーバー事件』と呼ばれるようになる、奇襲的かつ奇跡的な先制の1手【よこたん独占宣言】は、俺の思惑通り、瞬く間に学校中に広まったのであった。

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