第26話 悪魔の猟師がやってきた! ~インチョメ、断罪編~
「久しぶりだね、2人とも。元気だったかな?」
「佐久間、テメェ……」
「そんな目で睨まないでくれよ、大神くん? 久しぶりの再会をもっと祝おうじゃないか」
前回会った時とは違い、実に軽薄極まりない口調と表情で肩を竦めてみせる佐久間。
だが人を小バカにした態度は変わらないようで、目の奥がこれでもかと言わんばかりに俺たちを見下していた。
「テメェ、なんでココに? もう約束を忘れたのかよ?」
「『約束』? はて、なんのコトかな?」
「ッ! 動かないでください!」
佐久間が1歩俺たちの方へ足を踏み出そうとした瞬間、芽衣の切り裂くような声が公園内を駆け抜けた。
芽衣は佐久間にもハッキリ分かるように、自分のスマホを奴に見せつけながら、
「ソレ以上近づけば、あの写真を全世界にウェブで発信します」
脅しでも何でもなく、本気でそう口にする芽衣。
途端にピタッ! と動きを止める佐久間。
ギロリッ! と凄まじい目つきで芽衣を睨む。
が、すぐさま微笑みを顔に張り付けた。
相変わらず化けの皮を被るのはお手の物らしい。
「そう怖い顔して睨まないでくれよ、芽衣。むしろソッチこそ、そんなコトをしてもいいのかなぁ?」
だがそれよりも先に、男達の間から見知った1人の森実校生が……小鳥遊大我が背中を押されながら俺たちの前に現れた。
「……
「タイガーっ!?」
申し訳なさそうな顔を浮かべるタイガーの髪の毛を、佐久間がグッ! と握りしめながら、天使と見間違うほどの爽やかな笑みを浮かべて、こう言った。
「おっとぉ、下手に動いちゃダメだよ? そうなったら、君たちの大事な生徒会仲間が大変な目に遭っちゃうからねぇ?」
うぐっ!? と、佐久間に髪の毛を引っ張られ、呻き声をあげるタイガー。
そんな佐久間の胸元で、うっとり♪ した様子のインチョメ。
ヤバイ薬をキメていると言われたら、信じてしまいそうな
その証拠に、俺の隣で芽衣がドン引きしていた。
「さぁ、芽衣? 彼を傷つけたくなかったら、その僕の写真を削除するんだ。今、ここで」
「会長、悪いコトは言わないから、ここは言う通りにした方がいいんじゃないのぉ?」
勝ち誇った笑みを浮かべる、佐久間とインチョメ。
そんな2人を前に、芽衣は……これみよがしに溜め息をこぼしてみせた。
「ハァ……村田さん? わたし先ほど、ちゃんと言いましたよね? もう忘れたんですか?」
はぁ? なにを? と言わんとするインチョメの言葉を奪うように、芽衣は佐久間に頭の毛を引っ張られているタイガーに視線を向けた。
目尻に涙の
そんなタイガーをまっすぐ見据え、
「もうそんな演技はしなくていいんですよ、小鳥遊くん?」
「……こ、古羊? な、何を言って……」
「わたしは言ったハズですよ? 『もう素性は全て調べ上げている』って」
「…………」
苦しげに
その苦悶の表情が一瞬で鳴りを潜め、あの感情が伴っていない無表情へと切り替わる。
目尻に浮かんだ涙の奥、そこにはコチラの存在を全否定するような、俺の嫌いな瞳が鈍く光りを放っていた。
タイガーはパシッ! と、乱暴に佐久間の手を払いのけると、乱れた髪の毛を直すようにブルブルと頭を左右に振った。
そんなタイガーを尻目に、佐久間は「あらら」と言わんばかりに目を見開いた。
「もしかして芽衣、正体に気づいてる?」
「それは佐久間くんが【シックス・ピストルズ】の1人だということに対してですか? それとも彼、小鳥遊大我が【東京卍帝国】の総長である――ということに対してですか?」
「……チッ、なんだよ。
タイガーは面倒臭そうにガシガシッ! と頭を掻きながら「ふぅぅぅぅ~」と吐息を漏らした。
刹那、タイガーの身体から尋常ならざる殺気と敵意が溢れかえった。
ビリビリッ! と肌を刺す気迫を前に、あの芽衣ですら額に冷や汗を流す始末だ。
「……おい、佐久間? やっぱり喧嘩狼に近づいたのは、ちょいと不味かったんじゃねぇのか? 一瞬で正体がバレたぞ?」
「問題ありませんよ。どうせ遅かれ速かれ、僕たちの存在は勘づかれていたハズです」
それに、と俺達をいやらしく舐めるように見つめていた佐久間が、ニチャリ♪ とほくそ笑んだ。
「この状況を作る事こそ、当初の目的と言っても過言じゃりませんしね」
佐久間がそう口にした瞬間、周りに居た男たちの気迫が公園内を支配した。
鳥肌が立つほどの気迫を前に、思わず生唾を飲みこんでしまう。
あぁ~……こりゃ全員、かなり腕が立つな?
多分、実力はさっき始末した野郎共とは比較にならない位、強い。
俺は芽衣を背中に隠すように、男達の視線を一身に浴びながら、全身の筋肉を緊張させる。
まさにほんの少しの刺激で爆発してしまう液体のように、一触即発の空気が俺たちの間に充満していた。
「……さてっと。それじゃ改めて自己紹介だ、シロウ。オレの名前は小鳥遊大我――【東京卍帝国】の総長にして、【シックス・ピストルズ】を従える『無敵のタイガー』だ。そこんとこ
「タイガー……結局、そっち側にいくんだな」
「……なんだよシロウ、そんなに驚かねぇんだな?」
「……事前に芽衣から聞かされていたからな」
俺がそう口にした瞬間、タイガーが少しだけ目を見開いた。
「……へぇ、いつから?」
「タイガーが俺の代わりに生徒会役員になってから」
「……ってコトはアレか? シロウはずっとオレが【東京卍帝国】の総長だって知っておきながら、いつも話をかけに来てたってコトか?」
無言のままコクリと頷くと、タイガーが至極面白そうに「くっくっくっ」と唇から声を漏らした。
「……いやはやっ! ほんとテメェは、お人好しを通り越してバカだよなぁ。自分の居場所を奪った人間と仲良くするか、普通?」
「動かないでください、小鳥遊くんっ! 少しでも余計な動きを見せれば、この佐久間くんの写真がネットの世界へ羽ばたきますよ?」
ピシャリッ! と言い放った芽衣の言葉に、タイガーが至極不愉快そうに眉根を寄せた。
「……おいおい古羊? そっちこそ自分達が今、どういう状況に置かれているか分かってんのか? ……佐久間ぁぁぁ!」
タイガーを佐久間の名前を呼んだ、その時だった。
――佐久間が何の
「「……はっ?」」
「かぴゅっ!?」と変な声を漏らしながら、インチョメの牛乳瓶のようなメガネが割れる。
その突然過ぎる行動に、俺も芽衣も、果ては当事者であるインチョメですら、
「ブフッ!? い、
「五月蠅いですよ、ブサイク?」
黙れっ! と言わんばかりに、もう1発インチョメの顔面に拳を叩きこむ佐久間。
途端にインチョメの鼻から『メキョッ!?』と嫌な音がし、見ているコチラが心配になるレベルで鼻から血が溢れた。
瞬間、俺の全身の毛穴という毛穴がブワッ! と開き、皮膚の下で一瞬の間に血が沸騰した。
「佐久間テメェ!? インチョメに何してんだ!?」
「……動くなシロウ。次、変な動きを見せたら、あの女の指を折る」
ハッタリじゃないぞ? と、タイガーが佐久間にアイコンタクトを送った。
その次の瞬間には、佐久間がインチョメの人差し指を優しく握りしめ……
――ポキッ♪
逆方向へとへし曲げた。
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