第22話 ばれんたいん~? 日本人なら米食え、米!
小鳥遊大我が生徒会に加入して、もうすぐ2週間。
季節はすっかりバレンタイン一色とばかりに、校内では男子生徒たちが妙に色めきたっていた。
まぁ気持ちは分からなくもない。
なんせバレンタインデーとは、男としての価値が試される審判の日でもある。
俺のように半年前からすでに諦めているヤツとは違い、他の男子生徒の気合の入れようといったらもう……凄まじいぜ?
少しでも女の子との接触時間を多くするために、特に打ち合わせもしていない、ほぼ全学年の男子生徒がビックリするぐらい早く登校してんのね。
俺が知り得る限りでは、もう朝の6時の段階で
8時じゃないのに全員集合である。
いやもう、ほんと凄いよ?
なんせ校舎に足を1歩踏み入れた瞬間、全身のうぶ毛と言ううぶ毛が、緊張感のあまり逆立ったからね?
しかもソレが教室へと1歩、また1歩と近づくにつれて二次関数バリに緊張感が膨れ上がっていく始末っていうね。
もう互いに相手の下心が透けて見えているせいか、いつものような賑やかな会話はどこのクラスにも発生しておらず、各教室ドラゴ●ボールの世界観のような異様な緊張感に満ち溢れていた。
とくに推薦入試を決めたごく一部の3年男子達は、全員が色気づいて、異様に身支度を整え過ぎた結果、何故か全員示し合わせたかのようにヘアスプレーでパッキパキに固めたベッカムヘアーで登校して来たときは、さすがの俺もド肝を抜かれたものだ。
しかも全員の髪がやや長かったこともあり、正面から見ればジャパンが世界に
さらにそれに追撃をかけるかのように、数時間後には全員やたらブルーになって『永沢くん』の再現度を跳ね上げていたときは、思わず動画で撮影してしまったほどだ。
さてそんなおかしな空気に呑まれつつある森実高校において、ごく1部の生徒のみが時代の流れに逆らうかのように殺気を漲らせていた。
そう我らが2年A組男子一同である。
本来であればアマゾンを筆頭に、今頃お互いに足の引っ張り合いを繰り広げているところなのだが、そうは問屋が卸さない事情があった。
そうなのだ、我々には小鳥遊大我から森実高校の女子生徒を守るという義務、いや宿命があるのだ!
『はぁん? ちょこぉ~? 日本人なら米食え、米!』というキャッチフレーズと共に、大我さんの脇を常にSPよろしく男たちで固め続けた。
そんな生活を2週間ほど続けた結果、俺、大神士狼は――
「――タイガァ~っ!? 大変だタイガァーっ! たたた、タイガァァァァァァァッ!?」
「……またウルセェのが来やがった。なんだよシロウ、朝っぱらから?」
「タイガー、いや大我さん、いや大我さま! 一生のお願いです、古文の予習ノートを俺に貸してください!」
「……はぁ、またかよ? というか、昨日も『一生のお願い』を使わなかったか?」
「じゃあ来世の分を使うからぁ! おねがぁ~いっ! 古文のノートをプリーズッ!?」
「……それは
――
いやぁ、監視目的で近くに居たらいつの間にか仲良くなってたよね!
シロウ、ビックリ!
タイガーは「……たくっ」と憎まれ口を叩きながら、机の中をゴソゴソと漁るなり、
「……ほらよ、古文のノート。次からは自分でやってこいよ?」
「サンキュー大我! 愛してるぜ!」
愛しのタイガーから古文のノートを受け取ったその瞬間。
――バキィッ!
とタイガーの真後ろから、何かがへし折れる音が鼓膜を揺さぶった。
「……『バキィ?』」
ん、なんだ?
グラップラーか?
それともハンマか?
俺はタイガー越しから、ひょいっ! と後ろを確認し……やめた。
いやね? なんかもう今にも『スーパー地球人に目覚めるんじゃねぇの?』ってくらい身体中から謎の圧力を放出する爆乳わん
手元に持っているペンが真っ二つに折れているコトから察するに、どうやらさっきのは
俯いていて顔はよく見えないが、耳を澄ませば、
「愛してる……愛してる? ふふっ……ししょーは相変わらず冗談が上手いなぁ」
「……」
うん、や~めた♪
やはり『親しき仲にも礼儀あり』だよね!
女の子の独り言を聞くなんて、趣味が悪いし!
決してビビったとか、恐怖を覚えたとか、そんなんじゃないからね?
か、勘違いしないでね?
誰に言い訳するでもなく胸の内でそう呟いていると、スクッ! とタイガーが席を立った。
「あれ? どこ行くんだよ、タイガー?」
「……トイレだよ、トイレ。シロウもさっさと自分の教室に戻れよ」
そう言って2年C組を出て行くタイガー。
そんな親友の背中を見送りながら、時計を確認すると……確かにもうすぐホームルームが始まる時間だった。
おっとぉ、こうしちゃいられねぇ!
俺も急いで教室へ戻らなきゃ――
「――ねぇししょー? なんで最近はボクじゃなくて、タカナシくんにばっかりノートを借りるの?」
瞬間、目の前に「ゴ ゴ ゴ ゴ」の文字が浮いているように見え、俺は自然と声のした方向へと――我が愛すべき弟子の方へと視線を向けた。
そこには何故か目尻に涙の粒を作り、うるううるっ!? と瞳を潤ませている小動物が居て――ってぇ!?
「ちょっ!? な、なんで泣きそうになってんだよ、よこたん!? どうした!?」
「だ、だって……だってぇ~っ!? い、いつもならボクに予習ノートを借りるのに、ここ最近は、ずっとタカナシくんばっかりなんだもぉ~んっ!?」
えぐえぐっ! と、今にも泣き出しそうなマイ☆エンジェルに、思わずクール&タフガイであるところの俺が、慌てふためいてしまう。
えっ? えっ?
どういう事だってばよ?
もう師匠の頭は混乱の極みですよ?
だが混乱の極みに達しているのは俺だけではないらしく、よこたんもまた同じように混乱の極致へと足を踏み入れていた。
ひぐっ!? うぐっ!? と、
そんな事などお構いなしとばかりに、よこたんはその桜色の唇をプルプルと震わせ、
「も、もしかして、ししょー……ボクに飽きちゃったのぉ!? 前までは、あんなに激しく求めてきてくれたのにぃぃぃぃぃっ! そんなにタカナシくんがいいのぉぉぉぉぉ!?」
「――全員動くなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「「「「「ッ!?」」」」」
俺の怒声にも近い
俺はゆっくりと彼らを見渡しながら、スコープ越しで獲物を狙う狙撃手のように極めて穏やかな口調を心がけながら口をひらいた。
「よしよし、いい子だ。まずはその手にしたスマホをゆっくりと地面に置いて貰おうか。話はそれからだ」
「チッ……」と、ラブリー☆マイエンジェルのクラスメイト達が、しぶしぶと言った様子で、スマホを床に置いていく。
あ、危なかった……。
あと少し反応が遅れていれば、国家権力を特殊召喚されているところだった。
だが、まだだ。
まだ安心できない。
なんせ現段階で、この2年C組での俺の立ち位置は『大神士狼はヤリチンクソ野郎で、古羊洋子の爆裂ダイナマイトボディに飽きて、小鳥遊大我(♂)に走ったガチホモクソ野郎』なのだ。
もし今、通報されようものなら……警察どころかSWATが出動しかねない。
事は慎重を要した。
「え~、コホン。どうやら、皆は多大なる誤解をしているようだが、違うんだ。俺は――」
「ご、誤解!? ひ、酷いよ、ししょーっ!? あの夜、あんなにボクを求めて来てくれたのに……アレはお遊びだったって言うの!?」
「「「「「――ッッ!!(カタカタカタカタッ)」」」」」
「ちょっと待ってぇ!? 言葉のチョイスに悪意を感じるよぉ!?」
みな一斉にスマホを地面から拾い上げると、鬼気迫る表情で画面をタップし始める。
俺が何度も「待って、みんな!? 俺の話を聞いてくれ!?」とお願いしても、スマホをタップする手を止めない2年C組のクラスメイト達。
ダメだっ!?
もう生徒会役員じゃねぇから、誰も俺の言うことを聞いてくれねぇ!?
というか、よこたん?
なんで今、そんな際どい台詞をぶっこんできたの?
嫌がらせなの?
そもそもの話『あの夜』って、どの夜なの?
くそぅっ!?
心当たりが多すぎて、反論できねぇ!
いつだ?
いつの夜だ!?
いやソレ以前に、よこたんのヤツ、我が家に泊まりに来た際に、俺がこっそり夜中侵入して、ちょっとだけイタズラをしようしていた事を知っているのか!?
でもアレは直前に芽衣と母ちゃんが乱入してきて【第1回 チキチキ☆大神士狼フルボッコ大会】へとシフトチェンジしたから、無効のハズだ!
って、あぁっ!? いつの間にか、お茶目なクラスメイトたちが「もしもし警察ですか? 事案発生です!」ってスマホに向けてトチ狂った発言をしているじゃないか!?
チクショウ、もう時間がない!
こうなれば的確かつ、手短に誤解を解くしかねぇ!
けど『ヤリチンクソ野郎&ガチホモクソ野郎』の誤解を解く方法なんて……えぇい!
迷っている時間は無い!
とにかく口を開け、俺!
「みんな、聞いてくれ!」
俺は浮き足立つ2年C組の連中に向けて、頭に浮かんだ適当なワードを全力で叫んでいた。
「――俺は、童貞だ!」
――その日、俺の2つ名に『ヤリチン☆チェリーボーイ』という、神々の
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