第7話 左から2番目の白いブラウス姿 Ⅶ

「斎木さ〜ん、橋口さんからお電話です」


現場の橋口浩一からの電話だった。


「は〜い。代わりました斎木です。…え?佐伯さん?あ、はい。ちょっと待ってくださいね。佐伯さ〜ん、橋口さんから」


「あ〜佐伯さんの方だった?ごめんごめん斎木さんて聞こえた」


鴨田は笑って謝った。


「確かに斎木さんと佐伯さんて似てますもんね。聞き取りにくいですよね」


と、斎木茉莉花は答えた。佐伯と斎木が聞き取りにくく、さエきさん?さイきさん?と電話に出る時は鴨田もよく確認していた。しかし、しっかりと斎木と聞こえたと思って自信満々に繋いでも違うと言われてしまうこともある。橋口は大抵斎木に用事があるのだが、佐伯にも電話しないことはなかった。因みに、鴨田に用事があることは一切ないが電話に出ていた。


派遣社員で入った川本智子はパソコンは得意ではなくても、電話に積極的に出ようと最近は頑張っていた。


「おっお電話ありがとうございます。鈴木電気でございます…」


〈林下さんだし…〉


佐伯ナナミがボソっと指摘する。ナンバーディスプレイの電話なので登録してある番号からかかってきた時には誰からか分かる。川本智子はそれがいつまで経っても慣れず、というより臨機応変に対応できない性格だった為か社内の人にも外部の人にも同じように出てしまっていた。それを一度教えたが、何度も外部向けで出ることに佐伯は、「言いましたよね?」と周りが凍りつく言い方で指摘した。入ったばかりの人にとって外部の人なのか社内の人なのか、またグループ会社の人にはどう挨拶するのか、など分かりにくいことがある。そういった説明をしてあげなければいけない立場の佐伯がろくに教えもせずに偉そうに、と鴨田は思っていた。それに、間違えて社外の人に対して社内扱いの挨拶をするよりはそっちの方がいいだろうが。

佐伯にとって何歳歳上だろうが関係ない。後から入ってきた者、特に派遣社員は自分より格下扱いだ。


いつものように橋口浩一から電話がかかってきた。


「佐伯さん、橋口さんからです」


川本が佐伯に取り次ごうとした。


「茉莉花ちゃんじゃないですか?」


佐伯が冷たく言い放った。


「え、、?佐伯さんて聞こえましたけど…」


「あ、私代わります…!はい、代わりました斎木です…え?あ、、佐伯さんですか、、佐伯さん、、、佐伯さんですって、、」


無言で受話器を取る佐伯であったが、他のみんなの気持ちは一致していた。


*********************************************

お昼給湯室にて———


「鴨田さん、さっきの酷かったですよね。佐伯さんて川本さんに冷たくないですか?」


「本当、川本さんがかわいそう。そんなのどっちだからってとりあえず出ればいいのに。佐伯さんてね、新しく入った人にいつもそうだよ」


「私にはそんなことなかったですけど」


「茉莉花ちゃんは社員だし、相手選んでるだよ。茉莉花ちゃんはできる人だしね。でも佐伯さん、人に指摘できるほど自分はできんのにね。この前だってシステム部とIT部は違う部署っていまだに分かってなかったし」


「あ、あれはマジでびびりましたよね!」




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