第6話 左から2番目の白いブラウス姿Ⅵ

「え?だって年度末ですよね?年度末をまたいで一週間も休むんですか?」


「そうなんだよね〜佐伯さん」


係長の尾園弘美は当時はまだ、リーダーであった。

佐伯ナナミが派遣社員として勤めていた頃、3月の終わりから4月の頭の週にかけ一週間モロッコへ旅行に行くとして有給休暇を取ったことがあった。当然、この会社も3月が年度末となるため、その時期は一年の中でも最も繁忙となる。それに、人事異動もあり普通の社会人なら呑気に旅行へ行っている場合ではないことぐらいわかるはずだ。


「生瀬くん、忙しいのにねぇ」


佐伯ナナミは、係長の生瀬達也の補助ということで簡単な事務処理を担当していた。何しろ、佐伯は今まで美容室に勤めており事務経験がなかった為、この会社に入ってパソコンを触ることから始めたのだ。愛想は(人を選んで)上手い為、かなりミスが多発していたようだが多めにみてもらっていた。当時はこの会社も大手顧客の恩恵を受け、人員に余裕があった。


「戻ってきても、(佐伯の)席はない」


当時の係長であった市田俊孝はそう言い捨てた。


「派遣会社の世話人の人には、連続して休むのはやめてくださいって言われてたみたいよ」


「そうなんですねぇ」


モロッコから帰ってきた時に、佐伯の席は用意されていた。しかし、彼女の大嫌いな類いの『鼻くそをほじることで疎まれている今田篤樹』が異動してきた為、その横へしれっと嫌がらせの如く並べられていた。おそらく市田の企てによってだった。


これによって、『レイアウト変更が勝手になされていても文句が言えないことを肝に銘じた』ということも、しかしながら佐伯に限ってはないのであった。

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