第3話 左から2番目の白いブラウス姿Ⅲ

「武部リーダー!あの〜林下さんと佐伯さんの餞別の品なんですけど、、」


現場のリーダーである武部雅之を捕まえて係長の林下浩二と佐伯ナナミの送別会の相談を、係長の尾園弘美と鴨田ツルで持ちかけた。


「あ〜俺は個人的に佐伯さんには電気ケトルが欲しいって言ったからちょうど見に行ったらあったから用意したけど。林下くんには同じ金額くらいのタバコ12,000円分くらいあげようと思ってて、でもみんなの集金分も払うし。二次会も足らないだろうからそれも出すし」


「え?そんな高価な⁈そんなに色々出しすぎですよ〜ていうか、そんな高いケトルなんてあります?」


「うん、なんか欲しいものある?って言ったらそのケトルがいいって。横山さんも狩野さんとかも個人的に買ってあげるでしょ?」


「あ、、まあ多分、、」


「そんな高価なもの個人でなんてダメですよ〜みんで払いますから」と、尾園係長が言う。


「いや〜佐伯さんにも求人の件とかで世話になったし、尾園さんや鴨田さんがそうなっても同じようにするし」


「さっき、ちょうどユマクロのギフトカードをみんなから500円くらい集めてあげようかって話ししてたんですけど、、」と鴨田。


「それは現場のみんなにも声かけて集めておくから大丈夫だよ」


「そうですか、、」


尾園係長と鴨田の意見は一致していた。そんな一万も超えるような品物を欲しいと指定する佐伯ナナミの神経の図太さに絶句。まあ、それこそが佐伯ナナミなわけだが。


武部リーダーはプライドが高いから必ず買ってくれるであろうとふんでちゃっかりねだっているのがわかる。というか聞かれても辞退するのが普通だし、ましてや”電気ケトル”ではなく、バラミーダを指定しているところが図々しさを際立たせている。みんなで貰うものなら分かるが、個人の異性ににそんな物を買ってもらったと佐伯の恋人が知ったらどう思うだろうか?何か特別な関係ではないのかと勘ぐられてしまうのではないか。同棲を始めようとしている人がすることだろうか。恋人は、佐伯ナナミの三十路を過ぎても非常識なこの性格を、どう思っているのだろうか。


しかし、そんなことを微塵も考えないのが佐伯ナナミであり、言わなければみんなから貰ったとすっとぼけることができるのをいいことに、他人の金でいい思いをすることに良心の呵責を感じないのが自己愛に溢れた佐伯ナナミという人間だった。

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