【最終話:ネバ―・エンディング・ゲーム】

『岩谷様、こちらへどうぞ、』

 信濃さんの犠牲により終了した第五ゲーム……最終勝者として仮面執事のリチャードに腕内のスマートウォッチを取り外してもらえた直樹は仮面メイドのアシュリーに案内されてグームルームの奥にある隠し部屋に向かっていた。

『おめでとう、直樹君!!』

 薄暗い隠し部屋に入った瞬間、頭上のスポットライトと共に出現して出迎えたのは真紅のアンティークソファーに座った真紅のヴィクトアンドレスのグームマスター・レディ。

「あっ、ありがとうございます……レディ」

 バニーガールから一瞬でこれに着替えたのかな、そんな疑間を抱えつつも直樹は波風立てない無難な返答を選ぶ。

「さて、まずは……君から預かっていた荷物を返さないとね。スマホに財布、学校の物、全部揃っているかしら?」

 部屋の隅で控えていたメイドのアシュリーが運んで来た鞄を受けとった直樹はスマホの電源を入れて起動確認し、財布の中身と鞄の中に入った教科書やノートを確かめる。

「大丈夫です、レデイ」

『それは何よりだわ!! それで報酬の件なんだけど……ハイスクールスチューデントな君がこれを持って帰って大丈夫だと思う?』

 続いてジェラルミンケースを取り出したリチャードはそれをミニアンティークテーブル上に置き、上下面にぎっしりと詰め込まれた現金を見せる。

(……これだけあれば)

 タワマン最上階、別荘、高級車、老後資金……あまりにも圧倒的な金の魔力に獲り付かれそうになった直樹だが、あの時の謎の幻覚を思い返し、正気を取り戻す。

「お気持ちは嬉しいんですけど、辞退すると言うのは可能でしょうか?

 ただでさえ2ヶ月も行方不明になっていたのにそれだけの現金を持って帰るなんて……怖すぎて出来ません」

 電波受信中のスマホの日付から監禁期間を推測した直樹は交渉材料として利用する。

『まあそれもそうよね、賢明な判断だわ。 それで帰り道は……どうしましょうか』

「どうしましょうか、とは?」

『お恥ずかしい話なんだけど帰り道のエレベーターは急に壊れて修理手配中。リチャードの車も緊急整備中で無いのよ。 それで非常階段しか使えないんだけどそれでもいい? それともここでしばらく待つ?』

「わかりました! それでお願いします!!」

 偶然と幸運により、幻覚の世界で自分の先人?が辿った末路とは別の選択肢が与えられた直樹。

 とにかくここから早く出られるのであれば何でもいい、その思いから直樹は非常階段で即決する。


(とにかくここを出たらすぐに警察に行って保護してもらい……そして家族と再会して)

 3人に見送られて謎の地下空間を脱出し、1人薄暗い非常階段を昇りつつ今後やる事を整理する直樹。

(そしてどこであったとしてもここに繋がる入口なる場所をスマホのGPSで把握しておこう)

 あの毒スマートウォッチも完全に外されて解放されとは言えここはまだ敵地だ。そのメンタリティとともにレディの部下である2人の奇襲や強襲に備えて警戒を続ける。

(それにあのまだら金髪男はとにかくとして早川君、佐倉川さん、山田さん、牛田さん、聖さん、信濃さんのご遺族と……もし可能ならRINKOさんの親類縁者にもご訃報を伝えないと)

 ゲームマスター・レデイの正体が何者であれ、8人の命を奪った罪は必ず償わせる。

 そんな決意と共に階段を昇っていた直樹は最上階と思しきドアのある場所に到着する。

「よしっ…… !!」

 どの道ここから出るしかない、覚悟を決めた直樹は扉を開ける。


「ここは工事現場? いや、どこかの廃墟か?」

 不意打ちの類も無く、無事に出る事が出来た地上世界。

 夜の月に照らされた重機が放置され、壊されたコンクリ塊と鉄骨が転がった場所。

 開放感と安堵感と共に腰を抜かしそうになる直樹であるが……すぐにGPSでの場所確認と警察への連絡をすべくスマホを取り出す。

「……あれっ?」

 しかしながらスマホ画面はぐちゃぐちゃの砂嵐になって故障していると言う異常事態。

 直樹が慌てて再起動操作しようとしたその時……画面から発せられたものすごい閃光が眼と脳に叩きこまれる。


「うっ…… ううん、あれっ?」

「きゃあああ、何よこれ!!」

「私を誰だと思っているんだ、この無礼者!!」

「何が起こっとるんや!? どないしたねん!!」

「えっ、ええっ? えっ?」

 真っ暗な部屋に響く老若男女の悲鳴と困惑の声。

(……ここは、どこだ?)

 青ビニール手術着に腕内に埋め込まれた傷だらけのスマートウォッチ……拘束椅子に手足を完全拘束された男子高校生、岩谷 直樹は学校帰りに見た真っ白な何かを最後に記憶が無いものの明らかに異常事態に巻き込まれており、自分でもわけがわからないままに中途半端に冷静な思考で周囲を見回す。


『おはようございますわ、皆さま!! ご機嫌いかかがかしら?』

 突如、目の前のモニターに映し出されたのは真っ赤なヴィクトアンドレスに仮面を付けた謎の女。

「お前、誰や!!」

「おうちに返してよお! !」

「私を誰だと思っている、この無礼者!!」

「うわぁぁぁん!! びぇぇぇぇぇん!!」

(ゲームマスター? なにか僕は……大事な事を忘れているような気がするぞ? だが、何だったのか……それすらさっばりだ?)

『さて、説明を始めるわよ! 皆さんにはこれから……』

 椅子に拘束された9人の前で楽しそうにこれから始まる事の説明を始めるゲームマスター・レディ。

 享楽的でありながら退廃的でもあるゲームマスター・レディの有閑にして倒錯的な5つの狂遊戯がこうして幕を開けたのであった。


【ゲームマスター・レディの有閑にして倒錯的な5つの狂遊戯:完】

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