【第二十四話:フィナーレ・オブ・エブリシング】

「……んっえっ、ええっ。ちょっと待ってくださいよ? 信濃さん?」

 その場の勢いでカードを手に取ってから数秒後。

 断頭台に自ら首を差し出して固定し、その首を刎ねる刃を落とせる縄を相手に握らせるかのような自殺行為。

 これまで7人の死を見せつけられて来たとは思えないその正気を欠いた行為に直樹は混乱の叫びを上げてしまう。


「信濃さんの過去はよくわかりましたけど……そんな自殺行為をされても!!」

『じゃあ直樹君がグーのカードを出せばいいんじゃなぁい?』

 バニー衣装で露出した胸を背中に押し付けるように密着し、耳元で悪魔の如くささやくゲームマスター・レディ。

「そっ、それはそうですけど……」

 でもそれだと自分が助からない。その恥知らずな言葉を直樹は口から出る寸前で呑み込む。


「ゲームマスターさん、聞きたい事があります」

『あら、何かしら?』

 カードを持ったまま固まる直樹を弄んでいたバニーレディは信濃さんの言葉に目を向ける。

「レディさんのサディスティックな性癖や何者かと言うのはさておき……どうしてこんな恐ろしいゲームを主催しているんですか?」

 次の瞬間、銃を持ってカーテン裏から飛び出して来る仮面執事のリチャードと仮面メイドのアシュリー。

『リチャード、アシュリー。その物騒な物をしまいなさい』

『かしこまりました、マドモアゼル』

 レディの氷柱で突きさすような口調に2人はすぐさま拳銃をホルスターに収納し、後ろでに組んで控えの態勢に入る。

『そうねぇ……結論から言うと死にそうなほど退屈だからよ。

 お金があれば全てから解放されて自由になれる、けれど自由の先にある世界は言い換えれば『何もない場所』。

 私も人間である以上、生きていると言う刺激と実感が欲しい……それ故に私は謎の狂遊戯を開催するゲームマスター・レディとして人生を楽しんでいる。 これでご納得いただけるかしら?」

「そんな理由で……!!」

 人の命をさんざん弄んだあげく、最後に明かされたあまりにもふざけた回答に怒りに震える直樹。

「直樹君、これで分かったと思うけど私もこの人と同じ。

 100%自業自得と言うわけでは無いけれど帰れる場所も無く、普通の人生を選ぶ権利も無く……そして今から人生をやり直すと言う事も叶わないしやり直して目指したい場所もない」

「……」

「私もこの人と同じではないだろうけど『何もない場所』に居るようなものよ。

 いつか来るであろう終わりの時を待ちつつただ地面に座ってぼ一っと何もない空を眺めているだけなの」

「……でっ、でも。それでも……」

 高校生には重過ぎる残酷な『人生』の話……だがそれでも生と死で葛藤する直樹はカードを選ぶことは出来ない。

『リチャード、例のモノを……AとEでお願い』

『かしこまりました、マドモアゼル』

 第四ゲームで用いられた件のビデオテープを取り出したリチャードは壁内に仕込まれた2台の再生機器に差し込み、同時に再生する。


『うふふ、最高だったわ……ダーリン』

 どこかのゴージャスな部屋、キングサイズベッドで身を寄せ合う一糸まとわぬの男女。

『……あなた、いただきましょう』

 どこかのマンション1室。4人分の食事が並べられた食卓に着く2人の中年男女と1人の若い男性。


『あと少しで……私は信濃君と一緒になれるのね。楽しみだわ』

 信濃と言うらしい若い男性に向き合い、色っぽい眼つきでおねだりする女。

『今日もアイツが好きな豚肉の生姜焼きなんだね、母さん』

 千切リキャベツを肉で巻いてもしょもしょと食べる若い男性。


『ああ、俺もあんなおっばい以外取り柄のない妙にオドオドした女が蒸発してくれて良かったよ! 人生のパートナーはキミみたいな明るくて楽しい女性でないと!!』

『うふふ、ダーリンったらお口が上手ね!! 大好き!!』

 ベッドの中で身を寄せ合う男女は撮影されているとも知らずイチャラブMAXっぷりを見せつける。


『ああ、直樹は絶対に帰ってくる。その日まで……』

『ええ、そうよ……だからしっかりしないと』

『分かってるよ、母さん。俺も毎日は無理だけど……ご相伴に預かりにくるよ』

 目の前の向かいにある失踪した高校生の弟のために設けられた空っぼの席……若い男性は肉のタレをキャベツに絡め、味わいつつ両親を前に気丈に振る舞う。


「ごめんなさい、信濃さん……あなたの事は必ず…… !! 青のチョキ!!」

 あまりにも悲惨な2つの現実を見せつけられ、喉を詰まらせた直樹は宣言と共に青のチョキカードを裏にして置く。


【最終話:ネバ―・エンディング・ゲームに続く】

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