【第十一話:セコンド・サイト】

「ようやく……体の麻痺がナオって来たようっすね……」

 第二ゲーム終了後、麻痺で身動きも取れぬまま二段ベッドルームに運ばれて来た7人。

 全員を運び終えたリチャードが去り際に口に含ませた解毒薬のおかげで少しだけ喋れるようになった佐倉川は息を整えつつ言葉を発する。

「……もう嫌よ、もう嫌よぉぉぉ」

 動かない体に2人目の犠牲者、ショックのあまりすすり泣く信濃さん。

「あの女、何を考えてるんだ? あんな子供まで死なせるなんて……」

「まともじゃないのはもう分かってるだろ、オッサン。でもこれで分かったな……あいつはアタシたちを生かして出す気は無いな。これなら後輩をドナドナしてった裏社会の住人の方がよっぼどかわいく見えるよ」

 牛田の言葉に答えるRINKO。

「…… うっ、うう」「……ひっく、ひっく」「ううう…… ううっ」

 そもそも開始時のあの扱いからして自分たちが使い捨てのオモチャ扱いなのはわかってはいると言えばわかっていた。だがそれでも見出そうとした希望をあっけなく一瞬で失ってしまったと言う無力感に先刻のゲームで突きつけられたゲームマスター・レディの気まぐれで生かされていると言う現実。

 動くことも叶わず、憔悴しきった6人の哀れな泣き声が二段ベッドルームの暗闇に吸い込まれていく。


(あっ、あれ? これは何だ?)

『おめでとうb@GhOtdさん、私のゲームに最後まで付き合ってくれてありがとぅ』

 どこかは分からないが、真っ暗な部屋。

 直樹の眼下で真っ赤なソファーにゆったりと腰を下ろしたドレス姿の美女は右腕にボロボロのスマートウォッチを埋め込まれて憔悴しきった表情のセーラー服の女の子ににぃっこりと微笑む。

『さて、その現金入リジェラルミンケースは重いでしょうからサービスでお父様やお母さまのお宅まで送って差し上げましょう。リチャード、NY8OwbWさんを車でご自宅までお届けするのよ』

『イェス、マダム』

(何だ、これは……?)

 何の前置きも無くすすり泣きが無限反響する二段ベッドルームから幻惑の世界に引き込まれた直樹は戸惑いつつも眼下の光景に目を見開く。


『1bQ5Zb0N様、もうすぐご自宅でございます……主の御遊戯のお相手お疲れ様でした』

 場所が変わって高級外車の後部座席でぐったりとしながらも運転席に座るセーラー服の女の子。

(この子はもしかして、過去にこのゲームから生き延びて解放された人なのか? あれ、運転席の男は何をやっているんだ?)

『JeyorZI3君もjc5OwcWQさんも…… 0EROaRlyちゃんも皆死んじゃった……どうしてこんな酷い事をするの?』

 運転席で携行型ミニ酸素ボンベとガスマスクを装着済みのリチャードは無言で手元のスイッチボタンを押した瞬間、ものすごい勢いで甘ったるい匂いのするガスが車内に充満。

『……マドモアゼル、完了いたしました』

『ありがとね! リチャード。なるはやで戻ってくるのよ!! 次の空きゲーム枠が埋まらないと始まらないからね』

 後部座席に倒れ込み、白眼で気絶した女の子をチラ見確認したリチャードはハンドルを切ってUターン。元来た道を引き返して世闇に消えて行った……。


『おめでとうgBBnFyiIさん、私のゲームに最後まで付き合ってくれてありがとぅ』

『いえいえ、どういたしましてですよ……』

 直樹にセーラー服の少女の末路を語る事無く突如切り替わった幻惑。

 ゲームマスター・レディの前に脆いているのは今回の参加者ではない不快ににやにやと笑う見知らぬ若い男だ。

『お帰りはエレベーター、車、階段とありますけど……どれになさいますか?』

(こいつには選択肢があるようだが……車はダメだ!! それ以外にするんだ!!)

 声も出せない幻惑の世界で必死に叫ぼうとする直樹。

『じゃあエレベーターで!! この地下室から出れるならそれがいいっす!』

 現金入リジェラルミンケースを掴んだ男は意気揚々と叫ぶ。


『ぬふふふふ、いちま―い、にま―い、さんま―い……』

 搭乗残り時間がデジタル時計で表示されたエレベーター内。

 ジーンズと半袖Tシャツ姿で床に座り込んでニヤニヤしながらジェラルミンケース内の現金を数えだす男。

『これだけあれば、億ションに高級外車、ボンキュッボンの愛人……そしてパチにぶっこんで倍にすれば、ヒヒヒ』

 直樹に見られているとも知らず、幻惑世界の男が下衆い事を考えていたその時エレベーターが止まる。

『おっ、もう着いたのか……ギャアアア、ウガアアアア!!』

 突如エレベーター内に噴き込む甘ったるい匂いのするガス。

 罠だったことに気づいた男は必死で現金を守りつつ雄叫びを上げてエレベーター扉をこじ開けようとするものの、扉は1ミリも動かない。

『かっ……金さえあれば、金ぇぇぇ!!』

 絶叫と共に膝から崩れ、ガスが充満したエレベーター内に倒れた男。

(起きろ! はやくに……げ……る……んだ!)

 幻惑世界の直樹の視界は一瞬で真っ暗になり、全ての思考がブラックアウトするかのようにブチッと切られた。


【第十二話:マスクド・メイデンに続く】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る