【第十二話:マスクド・メイデン】
『ヒャーッハッハァァァ!! お前らお人形さん遊びじゃぁぁぁ!!』
「ぎゃあああ!!」
鼓膜を突き破って脳をダイレクトに揺らしまくるデスメタルアラームと連動する強烈なバイヴレーションで叩き起こされた7人。
麻痺毒で身動きも取れずにベッドに横になったまま少しでも体力回復するべく就寝していた青いビニール手術着姿の7人はいつの間にか動くようになっていた全身の力でけたたましく笑い声をシャウトし続ける右腕内のスマートウォッチを必死に止めようとする。
『はあい、皆! 斬新なアラームで気持ちよくお目覚めかしら? 今日も楽しいゲームの時間よ、朝ごはんを食べて早く着替えて来るのよ!!』
そんなアラームが止まって程なく、SOUND ONLYな一言でワン切りするゲームマスター・レディ。ゲーム開始カウントダウンが02:30:13となっているスマートウォッチを確認した7人はいつのまにか枕死に置かれていた衣装袋のビニールを破る。
「あれっ…… ?」
斬新なデスメタルアラーム的に上半身裸に羽織る鋲付きの革ジャンや革ジーンズにブーツ、モヒカンカツラが入って居る事を予測していた7人は立派なYシャツにネクタイ、ボタンベストとズボンにベルトー式が入った中身を広げつつ何度も確認してしまう。
「メモが入ってますね……『上着は名札付きでリビングルームに用意してあるから忘れないでね!! ゲームマスター・レディより』」
「ははっ、こんなのもらったの俺、人生初めてっすよ……どうせならあの子からもらいたかったなぁ」
いつ入れたかは分からないが薄紅色のルージュのキッスマーク入りのメモ片手にはははと笑う佐倉川。
「へぇ、あんたもそう言う娘がいたんだ……意外だね?」
「RINKOさん!!」
ニヤニヤしながらからかうRINKOを牛田はたしなめる。
「いいんですよ、もうあの娘とは会う事もないし、こんな底辺引きニートになった今どんな顔してでも会えないっすから。それより早く着替えないと!!」
「……」
自嘲しながらも無理やり元気よくまとめた佐倉川。
そんな彼を前に源太郎は表情を硬くしたまま黙って二段ベッドに座っている。
「源太郎さん? 着替える前に水とか食べ物を少しでも食べておかないと……」
「うむ、そうだったな直樹君……今行く」
よっこらせと立ち上がった源太郎は直樹の前に立って渡り廊下に出ていった。
『ハァーイ、ようこそゲームマスター・レディの第三ゲーム会場へ!!』
洋館の一室を再現したであろう立派で荘厳なアンティークソファー内装に整備されたゲームルームに立派な礼服で入場したジェントルメンな7人を出迎える左右の大きなアンティークキャビネットに安置された大量のビスクドール。
「……うわあ」「こっ、怖いです」
色とりどりの可愛らしい衣装のお人形さん達は何故か全て顔を完全に覆う無骨でカラーバリエーション豊富なガスマスクを装着しており、大きな丸い無機質な目に凝視された宝塚ライクな紅二点たる信濃さんとRINKOは悪趣味なガスマスクビスクドールに露骨な嫌悪感を示す。
『うふふ、お二方とも流石は女の子ですのね……私の可愛いドールコレクションがお気に召してくれたようで何よりだわ!!』
今のは聞かなかったことにしてあげるけど、三度目は無いわよ?… …それを感じ取った2人はすぐにポーカーフェイスで口をつぐむ。
『さて、今日の楽しいゲームはお人形さん遊びよ!! まずは大事なゲームアイテムをお取りになってくださるかしら? 皆様から見て右側のキャビネット、上から2段目。 わかるかしら?』
今回は何故か姿を見せず、部屋のどこかにあるスピーカーでハイテンションな音声を浴びせて来るグームマスター・レデイ。言われた通りに右側のキャビネット、上から2段目の隅にあるガスマスクドールが置かれていないスペースで文庫本のような物を見つけた直樹はそっと取り出す。
「これは……手帳?」
文庫本ではなく赤い革張りの手帳だったそれ。金文字で『LOST CHILDREN』と題されたそれに記載されていたのは美しい筆記体でナンバリングされた複数のガスマスクドールのポラロイド写真だ。
『そのお人形さん達は可哀そうなことにたくさんのお友達の中で迷子になっちゃったの。今からその子達をお家に返してあげるのが今回のグームよ。質問はあるかしら?』
部屋の各所に置かれている開かれたトランクに番号札とガスマスクドールの写真が置かれている事に気づいたジェントルメン7人。
『制限時間は1時間でお手付きは3回まで、もし4回間違えると……ゲームオーバーよ』
右腕内のスマートウォッチの00:00:00表示が01:00:00に切り替わると同時にガスマスクアイコン3つが表示。
『さあ質問はあるかしら?』
「あれっ、この人形リストは7体あるようですけど…… 1人1体ですよね?」
『LOST CHILDREN』をパラパラと見ていてある事に気づいた牛田は挙手してどこかで見ているであろうレディに尋ねる。
『イェス、その通りよ、ミスター牛田!! 昨日の結果はちよっと私もしっくりこないう~んな所があったから流石にキミ達が可哀そうだなって思って……今日は特別大サービスで全員に平等なチャンスをあげちゃうわ!! 迷子ちゃんは7人よ、準備はイイかしら?』
よく気づいたと言わんばかりにノリノリでうんちく語りを始めるレデイ。
(やったわ、これなら上手く行きそう! 皆が助かるわ!!)
(早川君の犠牲を無駄にしないためにも……今度こそは上手く立ち回るぞ)
可能性と希望を見出し、喜びの笑みを浮かべてしまう5人。
(全員生還……可能性はあるかもしれないが……)
(うまくいくとは限らないだろうな、誰かが死ぬかもしれない)
そんな中、ほぼ同時に何とも言えない不安を覚えた直樹と聖は思わず目で意思疎通してしまう。
【第十三話:クレイジー・ヴィトレイヤーに続く】
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