【第九話:スタディ・マスマティクス】

『第二ゲームは……懐かしのドリルよ!! リチャード先生!! 例のモノを』

 挑発的なポーズで妖艶に微笑むセクシーテイーチャー・レディに命じられたリチャードは『良い子のドリル:さんすう』の分厚い束を台車で運んできて各々の机に置き、鉛筆&消しゴムの入った筆箱を配っていく。

「うっ……」「うおっ……」

 さんすうドリルとは思えないそのとんでもない厚みに8人はうめき声を上げる。

『もうおわかりだと思うけど……可愛い生徒さん達にはそのレディ先生特製のドリルをやってもらうわ!! 制限時間45分で解いた問題数と正解率でスコア算出、鉛筆&消しゴムの補充やおトイレはリチャード先生に言うのよ! さて、何か質問はあるかしら?』

 教壇に腰かけたまま7人を見下ろすセクシーテイーチャー・レデイ。

『全員で同スコアになるように調整して同着1位となり、脱落者ゼロで全員生還を目指す』と言う合意形成をしていた参加者。昨日のチャンバラとは違って問題を解いた数と言う分かりやすい算出方法なら上手く行くと確証した6人は犠牲者ゼロの成功を確信する。

『質問はないみたいね……開始カウントダウン開始よ!!』

 再び00:00:45カウントダウン表示となったスマートウォッチ。

 6人は鉛筆を手に取り、スタートダッシュ体制に入る。

(1足す1は2、3引く2は1、5足す3は8……)

 前から2列目の中央に座り、横眼で右隣席の源太郎の回答記入ペースに合わせて進める直樹。

 斜め左前、1列目の中央席の牛田の回答記入ペースに合わせて進める源太郎。

 その牛田を基準に回答していくRINKOと聖。

 中身は小学校低学年レベルの四則演算のみのごく普通のさんすうドリルで、図形の角度や面積計算、因数分解に正負の概念も出てこない内容にそこまで苦労することなくサクサクと進めて行く参加者達。

(私の後ろの2人は大丈夫かしら…… ?)

 そんな中、直樹の速度に合わせて回答していた信濃さんは最後列の加藤少年と佐倉川に目をやる。


 カランカラン……鉛筆が落ちる音と共に止まる参加者の手。

『あら、信濃ちゃん。どうしたの?』

 鉛筆を落としてしまった当事者たる小学生信濃さんに5人の眼が向けられる。

「えっ、ええと…… 加藤君が気分が悪いみたいなんです!!」

 必死で鉛筆を握っているものの、瞳孔を見開いたまま青ざめた表情で大粒の汗を流しつつ完全に固まった加藤少年と目の前の直樹の動きの合わせるのに必死で気が付くのに遅れた佐倉川。

「おっ、おい……大丈夫か?」

「しっかりしろ、おい!!」

 自身のドリルを放り出して加藤少年に駆け寄った7人はその机上に置かれた1ページ目から全く進んでいないドリルに気づく。

『あらあら、それは色々な意味で大変ねぇ!! リチャード、苦くてまずぅい気付け薬を用意してあげて!!』

『かしこまりました』

 部屋の隅で控えていたリチャード副教師は教室の常備薬箱に向かう。

(おい、どうしたんだ!? 早く進めるんだ!! 今は24ページの5番までだからまだ間に合う!)

 薬箱を探すリチャードと満足気にニコニコしながらこの様子を見守るセクシーテイーチャー・レディに気づかれないようにカンニング耳打ちする牛田。

(一体どうしたんだよ!? 俺達全員でここを出るって決めただろ!? しっかりしてくれよ!!)

 明らかに様子がおかしい加藤少年を半泣きで見守る佐倉川。


『ふつうのこどもになりたいです はやかわこうすけ』

 そんな中、8人の背後で突如意味不明な事を言い出すセクシーティーチャー・レデイ。

 明らかに様子がおかしい加藤少年を励ましていた7人の大人達は思わずそちらの方に向く。

『うふふ、生徒があまりにも優秀で先生ヒマだったから宿題チェックをしていたのよ』

 足を組んで教卓に腰かけつつ、赤鉛筆片手に件の宿題プリントを見せつけるレディ。

 事前に見せあったわけではないので誰の提出プリントかはか分からないが、酷い金釘文字で書かれたひらがなのみの文面にこの場の者ではない誰かの名前。

「うわああああ!! やめてくれぇ!!」

 それをみるやいなや後頭部を抱えて、額を激しく机に殴打し始める加藤少年。

「浩介君!!」「何やってんだ、やめろよ!!」

 信濃さんとRINKOは自称行為を止めさせ、落ち着かせる。


『うふふ、今回のグームはギフテッドな早川君には難しかったかしら?』

「ギフテッド…… ? もしかして君はあの早川君なのか?」

 佐倉川の何気ない一言、『あの早川君』でその場の全員が数年前のニュースに思い至る。


【第十話:アンウォンテッド・ギフトに続く】

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