【第八話:スクール・チルドレン】
『ビビーッ!! ビビビビーッ!!』
「ぎゃああああ!!」
スマートウォッチの強烈なバイヴレーションと共に2段ベッドから転げ落ちる直樹と加藤少年。
「きゃぁああ!! だっ、大丈夫ですか!?」
信濃さんは骨と神経にダイレクトに響くスマートウォッチを薄い布団でぐるぐる巻きにして激痛を和らげようとしつつ転げ落ちた2人を気遣う。
『はぁい、グッドモーニング、エブリィワン!! アーユーファイン?』
第二の遊戯開始を告げるSOUND ONLYなスマートウォッチの画面とハイテンションなゲームマスター・レディの声。
『さあ楽しいゲームの始まりよ!! 今回は開始前に簡単なホームワークがあるからね? リビングルームのテーブルで終わらせて持ってくるのよ!!』
「……なんで横文字なんだよ? 欧米か?」
「うっわ、懐いネタだねえ!! でも急がないとやばいよ、早く着替えて宿題とやらを見に行かないと!!」
佐倉川のジョークに歓びの声を上げるRINKOではあったが、残り時間01:25:32からのカウントダウンに気が付いたRINKOとその他7人は慌てて枕元に置かれた参加者衣装の袋を開ける。
「で、これはどういう事なんだ?」
女性2人が二段ベッド部屋で衣装に着替えている間、男子更衣室となったリビングルーム。
数年前、十数年前、数十年前の記憶を頼りに衣装の袋に入れられていたゴム紐付き黄色帽子に半袖白Tシャツ、サスペンダー付き半ズボンに白靴下と上履き、名札ワッペンを黙々と着て行く男性達はテーブル上に置かれた宿題プリント『ぼくとわたしのしょうらいのゆめ』A4プリントに手回し鉛筆削りにキャラクター鉛筆&消しゴムに首をかしげる。
「この前の口ぶりだと、これを書いて持って行かないとアウト……しかも『分からない、興味が無い』系の回答はNGみたいですね」
表題下に書かれた記入枠、その下に血まみれの包丁を持ったニコニコ笑顔な男の子と女の子のキャラクターの吹き出し注意で書かれた『きちんと書けない悪い子はレディに○ろされちゃうからね!!』
加藤少年はそのグロテスクなギャップに嫌悪感を覚える。
「とにかく何かきちんとした事を書けばいいんですよね? とにかく時間が無い、早く書かないと!!」
小学生男子衣装に着替え終えた佐倉川はテーブルに座り、支給品のゴムで髪を後ろで縛りつつ鉛筆を手に取って考え始める。
「うわっ、本当だ!! 信濃さんやRINKOさんが来る前に俺達だけでも終わらせないと!!」
00:30:13までカウントダウンが進んだ腕内のスマートウォッチに気づいた5人は慌てて鉛筆と紙を手に取って考え出す。
一方、ベッドルームで着替え終えた女性達。
「しょうらいのゆめ……」
着替える前にリビングルームで確保しておいた宿題プリント2枚と鉛筆&消しゴムを手に考え込む信濃さんとRINKO。
ゴム紐付き黄色帽子に白Yシャツにサスペンダー付きスカート、白靴下に名前入り上履きの小学生女児の衣装に着替え終えた2人はプリントとスマートウォッチのカウントダウンを交互に見つつ考え込む。
「ちっ、こんな状況で夢もクソもあるかよ。でも……白紙ってわけには行かないだろうしなぁ。とりあえずアタシは、ABC15で補欠脱出かアイドルを辞めても自立して暮らしていけるようになる事……だな」
壁でプリント記入していくRINKO。
それに対し小学生女児に扮した信濃さんは暗い表情で固まるばかりだ。
「唄子? 早く書かないとまずいよ。ほら、もう25分しか無いんだし……唄子?」
固まってしまった唄子に呼びかけるRINKO。
「ああ、うん。そうね!! じゃあ……夫と息子と幸せに暮らす、ってのにしましょう」
「……?」
何とも言えない無感情な声に強張った表情。
これが本音ではないのは明らかだが、それを今追及すべきではないと察したRINKOは黙って膝上のプリントに記入していく信濃さんを見守る。
『はぁ―い、ようこそ可愛い生徒ちゃん!! レディ先生の授業の始まり始まりぃ!!』
昨日の朱塗りと打って変わって正面壁に黒板が掛けられ、前から3・3・2の3列配置で8脚の机が並べられたリノリウム床&壁のゲームルーム。
掃除道具入れや8人の参加者の名前入りロッカーまで置かれて小学校の教室を再現したそこで待っていた黒髪を後頭部でゴージャス盛りにし、ザマスマダムそのものな上にとんがった楕円形眼鏡に真っ赤なルージュのグームマスター・レディ。
黒いランジェリーブラが透けて見える胸周りがパッツパツなYシャツに黒ミニタイトスカート、ガーターベルトで太ももストッキングを止めたハイヒールのセクシーティーチャー姿で待ち構えていたレディを前に与えられた衣装と『宿題』からして小学生扱いされるであろうと予測していた8人は予測通りの展開に身構える。
『さあ、席に着くのだ』
Yシャツにズボン、ベストに眼鏡の男性教師コスチュームのリチャードに命じられた8人は素直に席に着く。
『うふふ、宿題はきちんとやって来たようね……いい子で助かるわあ!! じやあセクシーテイーチャー・レディの楽しい授業の始まりよ!!』
全員生きてここを出る、そう決めた8人と正面高座に置かれた教卓に腰かけて妖艶に足を組むレディとの生存競争が始まった。
【第九話:スタディ・マスマティクスに続く】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます