【第七話:サバイバー・チームズ】

【ゲームマスター・レディの有閑にして倒錯的な5つの狂遊戯】

【第七話:サバイバー・チームズ】


「……」「……」「……」「……」「……」

 ゲームマスター・レディによる第一ゲームから生還した8人。

 無惨なハチの巣となった1人の骸と2人の主催者に見送られ、ゲームルームから解放された直後、強烈な吐き気に襲われトイレに全員直行。

 足に絡む悪趣味な衣装を脱いでシャワーで身を清め、件の青いビニール手術着に着替えて、リビングルームに集まったものの何とも言えない気まずさから黙り込んでしまう。


「……とりあえず、聖さん、ありがとうございます」

 そんな中、開ロ一番に聖さんへのお礼を言う直樹。

「ああ、気にしないでください。僕だってとっさに思いついたわけですし……むしろ殴り合いをさせてごめんなさい」

 直樹の言葉に目を伏せつつ、謙虚に謝る聖。

「いや、聖殿、そんなに謙遜しなくてもいいですぞ!!」

「そうですよ、むしろ僕ら全員が助かったのは聖さんのおかげですし!!」

 聖の謙虚すぎる物言いを上げまくる源太郎と浩介。

「でも、あの人は……何を考えているんでしょうか? あれは正当防衛にしてはやりすぎだと思いますけど、あの人は助かったんでしょうか?」

「唄子、あいつはもうだめだよ」

 信濃さんの天然丸出しな疑間にエアタバコで妄想ニコチン補充中のRINKOが答える。

「……あのリチャードとか言うチョンマゲ野郎、滅茶苦茶に撃っているようで頭や心臓をわざと外して腹の内蔵だけを潰してやがった。それにあの出血量……外科処置されようがされまいが今頃目が覚めて死よりも辛い激痛で泣きわめいているんじゃないの? 自業自得とは言え即死すらさせてもらえなかったね……ヒヒッ」

 あの程度過去に経験済みだと言わんばかりの余裕さえ感じさせる詳細な分析と含み笑い。RINKOと名乗る女が何者で、何を隠し持っているのかわからなくなりそうな7人は背筋が寒くなる。

「そっ、そんなの嫌です!! あの人の言う事が正しければあんな狂ったゲームがあと4つあるんですよね? どうにか生き延びる方法はないんでしょうか!?」

 思わず立ち上がってしまう信濃さん。

「……とにかく、俺らはこのグームに挑むしか無いっすよ。あの女の言いぶりだとぶっちしても即死みたいですしね。いまさらですけど俺は佐倉川 史雄(さくらがわ ふみお)、35歳、親が大金持ちの引きこもり歴17年のニートっす」

 先ほどのグームで命拾いして何か吹っ切れたのかはわからないが、最初の自己紹介で醜態をさらしたのが嘘のようにしっかりとした顔付きにはっきりとした言葉で道を示す佐倉川。

「引きこもリニート……か」

 何かを思い出したかのように呟く源太郎。

「いや、家族の事を思い出してね。済まない……」

「家族……そうよ!! 私達絶対に、生きてここを出ましょう!」

「でもどうやって?」

「皆さん、次のグームでこれを試してみましょう。難しいとは思いますがこれが通用するなら……僕達8人揃ってここから出れるかもしれません」

 何か思いついたであろう浩介の言葉に7人は身を寄せ合い、小声で耳を澄ます。


 真紅のアンティークソファーが置かれた真っ暗な部屋・バロネットルーム

『あらあら、これは雨降って地固まるだわねぇ……あのバイオレンスタイフーンボーイを最初に脱落させたのは失敗だったかしら?』

 ミステリアス花魁の衣装から真紅のヴィクトリアンドレスに着替え、リビングルームでこそこそ何かを企む8人の様子を膝上のタブレット端末に映し出される見ていたゲームマスター・レディは不満げに顔を膨らせつつ頬杖をつく。

『マドモアゼル、私もこのような展開は予想していませんでした……申し訳ございません。いずれにせよあの者たちは四肢をもがれ、マドモアゼルが御自ら首をおはねになる事は決定事項なのでございます』

 傍のイケメン執事の言葉にゲームマスター・レディはタブレット端末の電元を切る。

『……リチャード、貴方もまだまだね』

 怒りと殺意がこもった低い声でゆらりと立ち上がるマダム。

 その手に握られた黒い拳銃に気づきつつもただ立ち尽くすのみのリチャードにレディはハイヒールの鋭い音を響かせつつ向かって行き、その胸に銃口を押し当てる。


『マドモアゼル…… ?』

 自らの失言とゲームマスター・レディによる粛清的死を受け入れ、無抵抗のまま拳銃を心臓に当てられたリチャード。派手なクラッカー音と共に拳銃上部から飛び出してきたリボンにキラキラ色紙、バネ付き鳩人形に目をぱちくりさせる。

『もう、リチャードったら……そんなの当り前じゃない!! 私はこのグームの主催者にして『マスター』なのよ? 退屈でしょうがない私と生き延びんと必死の子ネズミちゃん達の知恵比べになるなんて……今回は本当に最高のグームになるわよ……さあ、次はどんな絶望で壊してさしあげようかしら?』

 リボンとキラキラ色紙だらけになったリチャードの手におもちゃのびっくリピストルを置き渡したゲームマスター・レディはサイドテーブルに置かれた『GAME LIST』と題された分厚い革張りの本を手に取り、ウキウキワクワクのままにページをめくり出す。


【第八話:スクール・チルドレンに続く】

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