第12話 夢じゃない③

「起きた後? ああ、それな。どうやらあの夢は誰かが起きると全員目が覚めるっぽいぞ。

 今朝はお前らが謎の数字を言い合った時点で目が覚めた」

「私もです」


 そう言うシステムなのか。


「じ、じゃあもう一つ。何で二人は夢の世界の知識を普通に持ってるんだ?

 お、俺なんか何にも知らないどころか、仲間の名前すら知らなかった位なのに」

「ん? うーむ……何でだろうな? 俺の方が聞きたい位だわ」

「はあ? ど、どう言う事?」

「実際の所何でかそう言う記憶が有った、としか言えんからな」


 何それ、じゃあ何で俺は記憶無いの? 一人ハードモードなの!?


「こ、来小野木さんもそうなんですか?」


 俺の質問に来小野木さんはウンウンと頷いてるけど、その間も呑むのは止めないのな。

 もうメッチャお酒好きじゃん!

 結局の所ルイとレミの話しを聞く限り、二人には最初から最低限の知識が有り、俺と一緒に旅した記憶も有るそうな。

 そして何故だか俺だけそう言った記憶がゴッソリ無くなっていると言う、イジメみたいな状況だって事を再認識させられただけだった。


「る、ルイはいつからアノ夢を見てるんだ?」


 ワンチャン、ルイの方が早い段階から夢の世界に居るのかとも思ったが……


「三日前だな、お前らは?」

「一緒だよ」


 うーん、夢を見始めたのも同じ日からか、いよいよ俺だけ記憶喪失の理由が分からん。

 いや、そもそも理由なんて物が存在するのかも怪しいが。


「そうなって来ると、後可能性として有るのは睡眠時間と睡眠の質位か?

 因みに俺は九時には寝ているな!」


 子供か!

 誰よりもデカい図体して子供か!


「私も十一時には就寝する様にしています、秋月あきづきさんは?」

「俺は……日を跨いで寝る事が多いですね」

「そうそう、俺は寝る前に筋トレを欠かさないな! 良いぞー筋トレは、筋肉は裏切らない!」

「そ、そう言うのは良いです」

「まあ、結局考えた所で分かんねーもんは分かんねーよ、だったらウダウダ考えてないで、与えられた状況を楽しんだ方がよっぽど健全だぜ」


 確かにルイの言う事には一理ある。

 でもやっぱモヤモヤするんだよな〜


「こ、来小野木さんはどう思います?」

「レミ……」

「へ?」

「どうして部長の事はルイって呼ぶのに、私は来小野木なの?  

 なぜレミって呼ばないの?」


 え? え? え!?

 ……もしや来小野木さん酔ってます?


「確かに。俺は秋月君と今日初対面で、更に言えば、君にとって遥か目上の者だ。それを呼び捨てにしてるってのに、普段から一緒にいる来小野木君に対しては随分他人行儀じゃ無いか?」


 この筋肉ゴリラ!

 突然上司面してんじゃねーよ!

 大体部長とか言ってるけど、他部署の部長なんだから俺には関係無いじゃん。

 つーか今すぐそのニヤけ面をやめろ!


「こ、来小野木さん、呑み過ぎでわ?」

「レミ」

「来小野」

「レミ」

「れ……」

「ん〜?」

「……レミ」

「エヘ〜やっと呼んでくれたねライト♡」


 おうふっ!

 何だよ!

 何なんだよ!

 もう可愛いが渋滞してるよ!

 酔った来小野木さんの破壊力がカンストしててマジピンチだよ!

 さてはアレだな? 俺を恥ずか死させるつもりだな!


「はっはっは、さてボチボチお開きかな?

 ライトは責任持ってレミを送って行くんだぞ!」

「で、出来るかー!」

「何だ何だ、その程度の甲斐性も無いのか?

 そんなだからいつまで経っても童貞なんだぞ」

「ぐっ……」


 どどど童貞ちゃうわ!

 いえそうです御免なさい。

 だから代わって! 童貞には荷が重過ぎます!


「ほらレミ、住所は言えるな? 今タクシー呼んで貰ったから、後はライトに面倒見て貰うんだぞ」

「はーい、えへへ〜らーいと♡」


 俺の理性がゼロになる前に誰か助けて……



「はっ!」


 あ〜知らない天井、って二回目だから知ってる天井だったわ。

 どうやらまだ宿に滞在してるっぽいな、って事は今回は時間が飛んだりはしてないって事ね。

 つまりキッチリ前回からの続き物って事だな。

 さて、ルイが起こしに来る前に起きるか。

 

 ムギュ……


 ムギュ? 何か柔らかい物が手の下に。

 なん……だー!!!


「んん……あ、秋月さん……秋月さん!? どうして」

「レミ、いや来小野木さん!? どうして」

「「俺の(私の)ベッドに!!!」」


 コンコン


「おーいライト、起きてるかー入るぞー」


 ガチャ


「あ〜お邪魔さん、ごゆっくり」


 パタン


「ど、どうやらここは俺の部屋っぽいです」

「そ、その様ですね。……秋月さんは今何処に?」

「こ、来小野木さんを家まで送って、終電が無くなっちゃったんで、その……」

「ま、まさか!」

「ちちち違います! 断じて何もしていません! 床、そう床で寝てました!」

「……床……ですか?」

「はい……」

「何も……していないんですか?」

「……はい」

「そうですか……」

「……」


 ヤバイヤバイヤバイ。

 酔っ払った来小野木さんの破壊力もヤバかったが、至近距離で見るレミもヤバイよ。

 いや中身は同じ何だけどさ! ちゅーか何で一緒に寝てんの?

 なにか? 近くで寝るとこうなるってのか!?


「あ、あの……」

「は、はい……」

「取り敢えず服を着たいので、向こうを向いていて頂いても宜しいでしょうか……」

「は、はひ!」


 パタパタパタ……ガチャ!


「ライトー朝だよー!」

「うげ、リリ」

「ん〜〜〜? あーレムずるーい、リリもライトと寝るー!」

「ちょ、ちょっとリリ! まだ服着て無いから! キャー!」

「リリ、今はダメだって!」

「リリもね〜る〜の〜」


 ああ! もう、メチャクチャだ!



「おう! やっと来たか。昨日はお楽しみでしたね」

「「楽しんで無い(わよ)!」」

「何が〜?」

「おう、リリはもう少し大人になってからな!」

「ルイ! 余計な事言うな!」

「そうよルイ! この変態!」


 朝からドッと疲れた……朝ってのも可笑しいか、実際には夜で今は寝てる訳だしな。

 それにしてもルイのやつ、こっちの苦労も知らず呑気に茶なんぞ啜りおってからに。


「あ〜そうだ、リリとレムはすまんがロミを呼んできてくれ」

「りょうかーい」

「私も? 別に良いけど……」


 リリは今日も元気だな〜

 ああしてレムと連れ立って歩く姿は、まるで仲の良い美人姉妹みたいだ。

 美しいモノを見ると心が洗われるね!


「さて……ライト。どうだったんだ?」

「どうって、何が」

「だからよ、レムを送らせたろ?

 で、こっちではあんな状況だった位だし、ちゃんとやる事ヤったのかと思ってな」

「ヤってねーよ!」


 おいおい、まさかそんな下世話な話しをする為に、わざわざあの二人を行かせたのか?

 どうしようも無いクソゴリラだな!


「何だよ、俺が折角お膳立てしてやったってのに……これだから童貞は」

「大きなお世話だこの野郎、どうせ俺はヘタレな童貞だよ!」

「だったらお前、あの後どうしたんだよ」

「え、ああ。来小野木さんを家まで無事送り届けて、そしたら終電無くなちまったから……」

「泊まったのか!? やるじゃねーか」

「ああ、泊まったよ。ただそんだけだ! 

 俺は床で寝てるよ、で今に至る!」


 何だよその可哀想な子を見る目は、俺は誠意を示したんだよ!


「お前……それで一切手を出さなかったってのか? そりゃレミが可哀想だわ……」

「どう言う事だよ、酔って寝てる相手を襲うなんざ最低な行為だろ?」

「場合によるだろ、酔ったレミがどんなだったか覚えてるか?

 あの・・来小野木が、なりふり構わず全力でお前に甘えてたんだぞ?」


 うっ!

 やめろ思い出させんな、あの可愛さカンスト状態の来小野木さんを。


「そ、それは酔っ払っておかしくなってただけじゃ」

「バーカ。いくら酔ってても、好意も無い相手にあそこまで自分を曝け出す訳ねーだろ。

 お前になら見せても良いと思ったから、あそこまで酔えたんじゃねーの?」

「そ、そんなの分かんねーだろ?」

「ハ〜〜〜お前ホンット女心が分かってねーな」


 分かる訳ねーだろ!

 童貞拗らせた男を舐めんな!

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