第11話 夢じゃない②

「は〜やれやれ、やっぱこう言うそれっぽい話し方は、肩が凝っていかんな」


 本日二度目の会議室、お昼は来小野木さんと幸せ空間だったのに、午後は他部署の部長とかよ。


「さて。まあ聞きたい事は山程有るだろうが、余り聞かれても俺には答えられんぞ。

 何せ俺もあの夢を見ているだけだからな、お前もそうなんだろ? ライト」

「ぶ、部長が……ルイ、何ですか?」

「そうだよ、と言っても直ぐには信じられんか?

 じゃあそうだな……今朝起きる間際、お前とレミが何か口走ってたな。100と3018だったか、ありゃ何の暗号だ?」


 こりゃ間違い無い。他人の空似なんかじゃ無く、塚本部長がルイだ。

 

「ほ、本当にルイなんだな。って言うかどうやって俺を」

「簡単な事だ、さっきも言ったが情シスは回線の監視をしてる。お前『夢』について調べてたよな?

 しかもご丁寧に「夢・死ぬ」やら「夢で死んだら現実でも死ぬか?」何て、分かりやすいフレーズでな。

 後はPCの使用者を割り出して、外部委託者の名簿を確認すりゃ見た事ある奴が、ってな」


 そういや履歴書の写真は、顔がハッキリ写ってないとマズイってんで髪上げて撮ったんだっけ。

 しかしそうだったのか、つーか監視されてる何て事一切聞いてなかったぞ。

 まあ如何わしいサイトとやらにアクセスするつもりは、はなから無かったけどさ。


「な、成る程な……所でお前、現実でも筋肉ゴリラなんだな」

「おう! 鍛えるのが趣味なんでな!

 筋肉は裏切らない、どうだ一緒に筋トレ」

「遠慮しとく」


 うーむ、どうするか。

 来小野木こおのぎさんの事は、まだ言わない方が良いだろうか……

 あの人の事だから、俺みたいにボロ出して目付けられたりもしてないだろうし。

 何にしろ勝手に人の名前出しちゃ駄目だな、後で相談してから決めよう。


「お、俺に何か用事が有るんだろ?」

「んにゃ別に、ただ会いに来ただけだ」


 何言ってんだこの筋肉は、頭の中まで筋繊維が詰まってるのか?

 つーか「会いに来ただけ」とか、男に言われたく無いフレーズナンバーワンだわ!

 

「じ、冗談も程々にしないと怒るぞ」

「いやマジだし」

「じ、じゃあ何か? お前係長ハゲの事追い詰めついでに俺の顔拝みに来たってのか?」

「アレは自業自得、俺が言わんでも遅かれ早かれ何らかのペナルティーが言い渡される事は決まってたからな。

 お前も聞いてるだろ? アレの事」

「せ、セクハラやパワハラの噂か? まあそれなりに聞き及んでるけど」

「噂じゃ無く事実、ちゃんと証拠も提出されてるしな」


 証拠って……まさか来小野木さんじゃ無いよな。


「あの人が若い頃はどうだったか知らんが、今の時代にはそぐわない。

 第一、今のポストも定年が近いからって言うしょーも無い理由で、お情けで用意された言わば記念出世だ」

「そ、そんな制度あんの?」

「大ぴらには言ってないが、少し前までは有ったんだよ。元々大して勤労意欲も持ち合わせていない奴だったが、それなりに責任の有るとこに座らせれば、もしややる気を出してくれるかとも思ったんだとよ、全く逆の結果になっちまって、奴を推した人も残念がってたよ」

「し、しかし何でまた今まで放置してたもんを突然」

「最近重役連中が世代交代でゴッソリ入れ替わったんだよ、それに伴う働き方改革って名目で、不必要な人員を整理する案が出たんだ。そこで真っ先に目を付けられたのが奴だった訳だ」


 こえ〜下っ端には全然伝わって来ないけど、上層部ではそんな事になってたのか。


「何せ叩けばポンポン埃がでる奴だったからな、おかげで手続きは異常な程すんなり終わったよ。早けりゃ明日にでも本人に通達が行くんじゃ無いかね?」

「く、クビか?」

「最悪はな」


 会社来たら突然解雇通知とか、マジ笑えねーんですけど。

 碌でも無い奴だったけど、それでも多少の同情は禁じ得ないな。


「おっと、もうこんな時間か、今日はこの位にしておくとしよう。ん……」


 結局係長の話だけで終わっちゃったな、俺としては夢の方の話しをしたかったんだけど、それはまた来小野木さんを交えてかな。

 ん? 何スマホ突き出して……


「な、なんだよ」

「何って……連絡先交換しようぜ!」



「何の話しをしてたのですか?」

「こここ、来小野木さん!」

「はい来小野木です」


 オフィスに戻るなり、来小野木さんに捕まっちゃったよ。

 もしかして俺が戻るの待ってた?


「え、えーと……そう言えば係長は?」

「体調不良とかで帰りました」


 明日来るのかな……まあ来たら来たで、だけど。


「情報システム統括部の部長が、一体貴方に何の用事だったのですか?

 面識が有るようにも見えませんでしたが」


 それがバッチリ有ったんだよな〜


「こ、来小野木さんは部長を知っていますか?」

「いえ、前部長とは何度かお会いした事が有りましたが、最近その方が退任して後の席に着いたのが塚本つかもと部長でしたね。

 元々情シスの方と直接お会いする機会が余り有りませんから、どの様な方かまでは存じていません」

「じ、実は塚本部長がルイだったんです」

「……今なんと?」

「塚本部長が筋肉ゴリラのルイです、夢の共有もしています」


 流石の来小野木さんも少し動揺してるかな?

 何やら考え込んじゃったけど。

 でもそうだよな〜今まで二人だけと思ってたら、まさか社内にもう一人居たんだから。

 動揺しない方が可笑しいって。


秋月あきづきさん、塚本部長の連絡先はご存知ですか?」

「えっ? あ、はい」

「では『18:30にオフィスビル入り口にて待ち合わせ』でメッセージをお願いします」

「ちょ、ちょっと待って下さい。会うんですか? 今日?

 それに席を外してばかりだったので、その時間までに仕事が終わりませんよ」

「私もお手伝いします。

 秋月さん……死ぬ気で終わらせますよ」


 駄目だ、目がマジだ……



「おう! 時間丁度だな、お疲れ! ってどうした?」

「つ、疲れた……」

「塚本部長お疲れ様です。この度は突然の事にも関わらず、お時間を割いて頂き有難う御座います」


 来小野木さんすげーな、俺の数倍は仕事をこなした筈なのにケロッとしてる。

 俺はもう歩くのもやっとだよ。


「あ〜いや、気にしなくて良いが……君は?」

「申し遅れました。私は秋月さんと同じ部署の、来小野木麗美れみと申します」

「麗美……れみ……レミか!?

 そうかそうか! いやーそうだったか、つまり君もそうなんだな?」

「はい」

「よし分かった! 取り敢えず何処か落ち着ける所に入ろう。

 酒はイケる口か?」

「嗜む程度ですが」



「お待たせしましたー焼酎お湯割りとカシスオレンジ、生ビール大ジョッキで御座いまーす。ごゆっくりー」

「よし、じゃあ乾杯だ!」

「か、乾杯」

「乾杯」

 

 来小野木さんが豪快に大ジョッキを煽ってるよ、一口で半分位無くなったんですが、ウワバミか何かですか?

 嗜む程度とは一体……

 後ルイよ〜何カシオレとか頼んじゃってるのさ、お前は女子か!

 一升瓶ラッパで呑みそうな図体してるくせに!

 しかも何嬉しそうにチビチビ呑んでんだよ。

 もう一度言うぞ、女子か!


「しかしビックリしたぞ」

「そ、そりゃそうだろ。一日に二人も夢を共有する人に会ったんだから、無理も無いよ」

「いやその事じゃ無く、レミのキャラの方だ。

 お前夢と現実で違い過ぎるにも程が有るだろ。どっちが素なんだ?」

「ご想像にお任せします。あ、大お代わりで」


 来小野木さん、あの細い体の何処にビールが消えていくんだろ。

 もしかして胃袋が『次元収納ディメンジョンロッカー』に繋がってるとかか?


「そ、そっちかよルイ。でも確かにそうだよな、かなりキャラが違ってる。る、ルイはまんまだけどな」

「おう! 裏表の無い男なもんでな!」

「その言い方ですと、私は表裏の有る人物と言う事になりますね。あ、ハイボールをジョッキで」

「そうは言ってねーが、ギャップはすげーわな。見た目にしたって似ても似付かんし」

「目立つのが嫌いなだけです、変に着飾ればおかしな男も寄ってきますし」


 それに来小野木さんは眼鏡を外すとスゲー美人なんだぞ!

 何せ素顔はレミと同じなんだからな!


「ゆ、夢の件で幾つか気になる事が有るんだけど、い、良いかな」

「なんだ?」

「なんです? あ、焼酎のボトルと氷を」


 来小野木さんペース早過ぎない!?


「お、俺が起きた後って、夢の中ではどうなってるんです?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る