第3話 夢よもういちど
「は〜〜〜帰って来れた〜〜〜」
それでもしっかり終わらせてやったぜ、驚く係長の顔が目に浮かぶな!
しかし来小野木さんのおかげで、思ったよりずっと早く終わらせる事が出来たよ。
来小野木さん、仕事も超出来る人だったんだな〜
今までは自分の事に精一杯で周りなんか見てる余裕無かったけど、今日の仕事っぷりで確信した。やっぱあの人すげーや。
そして何と! 夕飯を来小野木さんと一緒に食べて来たのだ。
家族以外の誰かと一緒に食事したのなんて、生まれてこの方初めてだよ。
仕事終わって帰ろうとした時、ふいに響いた来小野木さんのお腹の音、照れてるのを隠す為に無表情を作るけど、顔が赤くなるのは隠せない来小野木さん……
もう、メッチャ可愛かったわ。
で、遅くなったから食事をして帰ろうと言い出したもんだから、そりゃあもうテンパったね。
なに、デート? デートなの!? ってな。
まあ夕飯自体はラーメン屋だったし、お互い無言で食ってたから色気なんざありゃしないけど、それでも十分楽しかった。
あんな人と付き合えたら、俺の人生ももう少しマシなもんになるのかな〜
なんて、何考えてるんだか、俺如きが
「さて、明日も仕事だしさっさとシャワー浴びて寝るか〜」
何時もなら明日の事、特に仕事の事なんか考えるとウンザリして軽く死にたくなるけど、今日の俺はちょっとだけ違う。
明日になれば、また来小野木さんに会える。
そう考えるとほんの少しだけ前向きになれるんだから、我ながらチョロいよな。
全く、ちょっと優しくされると直ぐコロッと行っちまう。
童貞ゆえの浅はかさって奴だ、来小野木さんとはあくまで仕事上の付き合い、思い上がるなよ俺。
「さて……寝るか」
※
「おいライト」
「ん!?」
「おう、今日はサッと起きれたな。ほれいつものだ」
来小野木さんとの一件が、余りにも刺激が強すぎてスッカリ忘れてたけど……これってまさか……
「何だ、ボーッとして。起きたと思ったらまだ寝ぼけてるのか? よしよし、そんなライトには追い気付をしてやろう」
「いらんわ!」
まさかまたあの夢!?
いや、でもそんな事って有るのか? ってまあ実際見てるしな。
目の前には、相変わらずの半裸筋肉ことルイ。
焚き火を囲む様に横になってスヤスヤと寝息を立ててるのは、間違い無くエルフのレムねーさんとケモっ子リリちゃんだ。
「マジか……」
「ん? どうしたよライト。間抜け面に磨きが掛かってるぞ」
「あ、いや何でも無い」
また見たいとは思ってたけど、本当に見れるとは思ってなかったんだよ!
そんなん間抜け面にもなるわ!
だって夢だよ!? そんなDVDとかじゃ無いんだから、見たいからって自由に見れるか? 普通。
後ルイ、テメーは(可能なら)殴る。
「しっかりしてくれよな勇者様、お前は唯一の希望なんだからよ」
「あ、ああ……あ?」
何その「唯一の希望」とか言う恥ずかしいフレーズ。
勇者って言われるだけでもまあまあアレなのに、更にそんな設定までぶっ込んで来る!?
やべー自分の夢ながら超恥ずかしいわ、俺って心の奥底じゃそんな願望抱えてたってのか。
ってまあ良いか、どうせ夢だし。折角なんだから楽しまないとな。
そうかそうか、俺ってばそんな凄い人設定なのね。
よし! 理解した。
「おーい、大丈夫かー」
「大丈夫だよ、交代の時間だろ? 変わるからサッサと寝ろよ」
「おっ、調子戻ったみたいじゃねーか。だが実はそうじゃねーんだ」
ん? なんだルイの奴急に真剣な顔して……
はっ! まさかコイツ女に相手にされないからって、俺に欲情を!
確かに筋肉な上に半裸の変態だからな、そりゃ女には無縁だろう。
だからって、男に走るのはどうかと思うぞ!
思い直せ! お前なんかでも、いずれその内もしかしたら好いてくれる稀少な女性が現れる可能性は、限りなくゼロに近いかも知れないが、全くのゼロとは言えない程度に希望が有ったり無かったりする筈だから!
「敵襲だ、この反応は魔物だな」
「俺にそっちの気は! へ?」
「まだ距離は有るが、既に俺の『
で? 何言い掛けたんだ?」
「何でもねーよ!」
焦ったー、ってか魔物? まあこんなファンタジーな世界観だし、わざわざ見張りをたててるんだから、そりゃ魔物位居るんだろうけど。
魔物……起こされた俺、それってつまり戦闘になるって事だよな。
大丈夫なのか? 自慢じゃ無いが、俺の運動神経は虫ケラレベルだぞ?
学生時代だって帰宅部を貫き通したし、体育系のイベントは極力参加しない方向に全力で努力した。
武道なんざ勿論やった事無い、そりゃマンガやラノベで知識としては知ってるよ?
でもそれだって一般人かそれ以下って程度だし……って、何本気で焦ってるんだ。
これ夢じゃん。
って事は、俺の好きに出来るって事じゃん。
第一折角勇者様を出来るって言うんだから、やらなきゃ損じゃん!
よし、そうと決まれば。
「二人を起こそう」
「やっと勇者様の顔になったじゃねーか。
おいレム、リリ敵だ起きろ」
「んん……5秒待って、頭をハッキリさせる」
「にゃ〜あさ〜?」
流石レムねーさんは直ぐに起きたけど、リリちゃんはまだ夢うつつって感じだな。
まあ起きてさえくれてれば何とかなるか。
所で俺はどうやって戦えば良いんだ? 武器とか持ってるんだよな?
普通だと腰に下げてたり、背中に背負ってたり、いや寝てたんだから枕元とかか?
って、何処にも武器らしい物ねーんだけど!
「ライト、何キョロキョロしてやがる。サッサと武器を用意しろ」
「その武器がねーんだよ!」
「はあ? お前自分で『
次元収納……?
あっ! 転生モノとかでお約束のアレか!
アレ便利だよな、現実世界でも欲しい能力だわ。
いやそれは良いとして、どうやって取り出すの?
やっぱ魔法っぽいし、なんか呪文とか唱えるのか?
「そろそろ来るぞ、準備良いか?」
「私はいつでも」
「リリも〜」
やべ! 準備できてねーの俺だけじゃん。
レムはまだしも、リリまでいつの間にやらバッチリ戦闘態勢だよ。
フム、レムは細身の剣に、左手には短い杖みたいな物を持ってるな。
リリは両手に短い剣? ナイフ? を逆手に構えてる。
もしかしてリリって
ルイは……ハイハイ、予想通り過ぎて突っ込む気にもなれねーよ。
なにその、ふざけてるのかって程でかい斧。
自分の身長より長い柄に、リリの身体位の両刃の斧頭が付いてんじゃん。
そんなんマトモに振れるの?
って呑気に観察してる場合じゃ無いぞ、俺の武器! 次元収納!
「来るってどっちから!?」
「周り中だよ」
「何で囲まれるまで放って置いたのよ」
「そんなもん、俺達の手に掛かりゃ朝飯前だからだよ」
「まあそれもそうね、この辺で出て来る魔物なんてたかが知れてるし、魔王を倒そうって言うんだから、この程度の事でオタオタしてられないわよね」
「らくしょ〜」
何チョット良い感じに掛け合いしてんの!?
俺も混ざりたいんだけど!
あ〜後やっぱり魔王とか居るのか、まあ勇者と魔王はセットみたいなもんだからね。
「来たな……行くぞ! 先手必勝だオラ!」
うお! まるでルイの掛け声に反応したみたいに、森の中からちっこい影がワラワラ飛び出して来た!
えーと、俺の中のファンタジー知識を総動員するに、ありゃゴブリンって奴か?
緑色の小さい身体と、闇夜に光る黄色い大きな目は間違い無いと思う。
でもって、ルイが例の馬鹿でか斧を水平に薙いだら、20匹近くの首が飛んだぞ。
やるじゃんルイ、その筋肉は伊達じゃ無かったんだな!
「ゴブリン如きに魔法は勿体無いけど!」
あ、ゴブリンで合ってた。
ってすげー、今度はレムの杖から火の弾が噴出して、次々ゴブリンを火柱に変えてく。
うおー魔法かっけーな!
「リリもいっくねー」
お次はリリか。
リリは……あれ?
ゴブリンの間をすり抜ける様に走るだけ?
おわ! リリが走り抜けたと思ったら、ゴブリンがバタバタ倒れ始めた。
良く見りゃどいつも、首元をザックリ斬られてやがる。
あんな可愛いケモっ子リリちゃんが……見かけによらず恐ろしい子!
「ライトあぶねー!」
「へ!?」
あ〜目の前に剣の先が迫って来てる〜
勝ち誇った風な〜ゴブリンヤロウのニヤ面までハッキリ見える〜……
ってなんか、やけにスローに見えるけどこれって、危険に直面すると時間がゆっくりに見えるってやつか?
確かタキサイキア現象とかなんとか……
つーか、今はそんな事考えてる場合じゃ無いよな〜
しかし恐ろしくゆっくりだな〜
まるで止まってるみたいだ……
こんだけ遅けりゃ、避けられるんじゃ無いかな?
それどころか反撃だって出来そうだけど。
その為には武器だよな〜
次元収納ってのはどうやって取り出すんだ?
なんせ自分でしまってるんだから。
まあ、こう言うのは頭で考えるより、身体が覚えてたりするんじゃね?
例えばこう、腰の辺り。
この辺に手を当てて、そうだな〜やっぱ剣だよな。
勇者と言えば剣、カッコ良い剣!
ヒュンッ!
ドチャッ……
目の前には真っ二つになって崩れ落ちるゴブリンの死骸、俺の手には月明かりを浴びて煌びやかに輝く長剣。
そして普通に流れ出す時間っと。
わお! やりゃ出来るもんだね!
「ライト! ったく、ヒヤヒヤさせやがる。
まあお前がゴブリンなんざにヤられるとは、思っちゃいなかったがな」
「ライト、貴方……
「はえ? ブレインなんだっt」
あ〜なんかすげー頭がボンヤリする〜立ってられね〜
つーか意識が……
ピピピピピ……
「あ〜朝か……」
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