第2話 ユメがほしい

 しかし面白い夢だったな〜

 現実世界じゃコミュ障オタクで万年ボッチのこの俺が、夢の中じゃ勇者様って。

 夢って願望とかが反映されるって言うけど本当なのかな〜

 

「……」


 夢の中で夢って気が付くのは、確か明晰夢とか言ったっけか?

 夢って分かれば割と好き勝手出来ちゃいそうだし、それこそゲームやアニメみたいな勇者にもなれたり?


「…オイ!」


 でもな〜また同じ夢が見れる訳でも無いだろうし、夢って気が付く保証もないしな〜


「アキヅキ! 聞いてるか!!!」

「ひゃい!」


 やべ、呼ばれてたのか。

 うわ〜係長がすげー顔で俺の事睨みつけてる。


秋月あきづき! てめー何ボケっとしてやがる。まさか寝てたんじゃないだろうな? 大して仕事も出来ないくせに良いご身分だなオイ!」


 確かにボーっとしてたのは俺のミスだけど、そんな言い方は……

 

「すすすすみませ……」

「すすす、じゃねーよ! 謝るならちゃんと謝れ! つーか謝ってる暇あったら手動かせ! こうしてる間にも、お前の給料は発生してるんだからよ!」

「は、はい……」


 は〜〜〜またやっちゃったよ。

 どうしても緊張すると吃音どもっちまう。

 他の社員の人達にも笑われてるし……

 いつもの事とは言え、流石に応えるよ。

 プログラムはガキの頃から好きでやってたから、それ系の会社に派遣で何とか潜り込めたけど、やっぱ俺に社会人は無理なのかな……

 今回は一か月か、まあもった方だよな。


「秋月さん」

「ふぁっ、ふぁい! あ、来小野木こおのぎさん」


 来小野木さんは俺がこの会社に来てから色々お世話してくれてる、言ってみれば教育係みたいな人だ。

 落ち着いていて物静かな女性で、黒髪のロングエアーと少し野暮ったい黒縁眼鏡が印象的。

 変に着飾ったりしない分地味な人に見えるけど、眼鏡を取ったらきっと美人に違いないね。

 俺の事を笑ったり怒ったりしないし、何よりなんでか凄く話しやすい人なんだよな。

 歳は俺より三つ上の28歳。

 んで未婚で、特定の男性とのお付き合いは現在無し。

 勿論俺から尋ねた訳じゃ無いぞ!

 全部来小野木さん自身が、初顔合わせの時自己紹介で言ってた事だ。

 何でそんな事まで教えてくれるか聞いてみたら「後から色々聞かれるのが面倒だから」との事だ。


「秋月さん、ちょっと付き合って貰えますか?」

「あ、はい」


 流石に怒られるかな〜

 まあ仕方が無いよな、今回はボーっとしてた俺が悪いし。

 っと、喫煙室か。

 今の時間は他に誰も居ないんだな、良い具合に俺と来小野木さんだけだ。

 

「吸いますか?」

「あ……頂きます」


 来小野木さんのタバコは細巻きのメンソールだったよな、正直メンソールって苦手なんだけど、折角くれるって物を断るのも悪いしな……


「秋月さん、嫌なら嫌とキチンと断らないとダメです」

「え!? あ、はあ……」


 あれ? やべっ! 顔に出てたか?

 

「貴方が吸っているのは、もっとキツくて値段も……安価な銘柄ですよね? それに……まあ良いです。

 兎に角、自分の考えはもっと口にする様にして下さい」

「すすすすいませ」

「それと、私は怒っている訳では無いので、謝る必要は有りません。

 苦手なタバコでも受け取ろうとしたのは、勧めた私の事を気遣ってでしょうから」


 うっ! 来小野木さん、その笑顔は反則です。

 惚れてまうや……


「それから先程のハg係長の言っていた事ですが、内容は兎も角言い方はパワハラに抵触しそうですね。

 一応録音はして有りますので、必要になるようでしたら言って頂ければ提供します」


 うわ! さっきの優しい笑顔と違って、今度はすげー怖い笑顔だよ。

 後、今確実にハゲって言い掛けたよね?

 まあ来て間もない俺ですら、係長のセクハラだのパワハラだの悪い噂を耳にする位だから、方々で色々やらかして嫌われてるんだろうけど。

 ウン取り敢えず、来小野木さんを敵に回すのは絶対やめよう。


「ついでだから言っておきますね。

 貴方の前髪、目を隠すのは何かしらのコンプレックスの現れでしょうか?

 私にも多少の心当たりは有りますし、貴方の気持ちは分かります。

 ですがそれでは印象も悪くなりますし、何より目を悪くしそうです。

 特に拘りが無いのであれば、切る事をお勧めします」

「あ、はい。拘りは別に無いです、今度の休みにでも床屋に行って来ます」


 来小野木さん結構ズバっと言うよな、でもこの人が言うと何でか嫌な気持ちにはならないんだよな。

 コンプレックスって程じゃ無いけど、人と話す時相手の目を見るのも、相手に見られるのも苦手でならいっそ隠せば良いのでは?

 って、そんな訳のわからん理由で伸ばしてたん訳だし。

 確かにモニターも見辛いし仕事にも支障が出そうだから、これを機にバッサリ行くか。


「っ!……」

「?」


 どうしたんだろう、来小野木さんが固まっちゃったよ。

 前髪をこうかき上げたら……って、あ〜そうか俺の顔が見えたからか。

 うん、余りの不細工で固まったと言う訳ね。


「すみません、お見苦しい物をお見せして」

「いっ! いえ、決してその様な事は。

 ……うん、そうですね。髪の毛を切るのは絶対お勧めします! いえ切りましょう!」

「は、はあ……?」

 

 メッチャ力説するな〜よっぽどこの髪が見苦しかったか。

 所で何でちょっと顔赤らめてるの? 風邪?

 まあ良いや、折角来小野木さんがここまで言ってくれてるんだから、切る事にするか。


「では戻りましょう。またあのハゲに睨まれたりしたら困りますからね」


 とうとうハゲって言っちゃったよ!

 来小野木さんホント言う人だな〜


「秋月!!! てめー! チンタラ休憩たー良い度胸だな!」


 うっ、戻った途端かよ……


「いいいいえ、来小野木さんに呼ばれて……」

「やかましい! 口答えしてんじゃねーよ!!!」

「係長」


 あ、来小野木さん。


「なんだ来小野木、今俺はこいつと話してんだ!」

「秋月さんは私が指導の為に呼び出しました。

 なので彼に非はありません、全ての責任は教育係の私に有ります。

 独断で彼を連れ出し、申し訳ありませんでした」


 ああ、来小野木さん。

 俺の為に嫌いな上司相手だってのに、あんな深々と頭を下げて……


「チッ! まあ良い。遅れた分の仕事はお前ら二人で片付けてから帰れ、それから秋月! てめーにはコッチの仕事も追加だ! 勿論今日中! 分かったな!」

「ははははい……」


 うう、今割り振られてる量だけでも終わるか微妙なのに、更に追加って……

 終電間に合わないよな〜会社に泊まり込み確定だよ。


「秋月さん」

「あ、来小野木さん」

「嘆いていても仕方が有りません。仕事は仕事です、二人で分担して終わらせましょう」

「は、はい!」


 は〜〜〜来小野木さんマジ天使だわ。

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