第4話 夢見る想い

 は〜〜〜……

 昨日の夜はあんなに気分が良かったのに、会社に近づくにつれネガな気分が大きくなって来る。

 お家帰りたい。

 帰って撮り溜めした深夜アニメ消化したい。

 ゲームやりたい、マンガ読みたい……

 いやいや、昨日は俺のせいで来小野木こおのぎさんに迷惑掛けたんだ。

 今日は、自分一人でしっかり仕事をこなさないと。

 せめて係長ハゲに、怒られない様にはしないとな。

 その為に今日はいつもより、早めの電車で来たんだ。

 若干早過ぎた気もするけど、まあ良いっか。

 さて……流石にこの時間じゃ誰も居ないだろな〜って、あれ? もうオフィスに灯りが付いてる。

 誰だ? こんな早くから出社してるのわ。

 うーん、一番乗りだと思ってたから入るの少し戸惑うな。

 チョットだけドアを開けて覗いて見るか……

 うあ! 来小野木さん!?

 来小野木さんってこんな早くから出社してんの!?

 参ったな〜来小野木さんには会いたかったけど、昨日の事思い出すと急に照れ臭くなって来た。

 いやそんな照れる程の事無かっただろ! 

 って思われるかも知んないけど、俺にとっちゃ一大イベントだったんだよ!

 まあここに居ても仕方が無いから、覚悟決めて入るけどね。

 スゥーーハーーー

 よし、深呼吸オッケイ!

 元気に挨拶して入るぞ!


「お、おざます……」


 全然声出てねー!

 しかも「おざます」ってなんだー!

 やる気の無いコンビニ店員かよ。

 あ〜もう俺って奴は……


「あら、秋月あきづきさん。今朝は早いですね、おはよう御座います……なにそんな頭を抱えてるんですか?」

「あっ! いいえ何でも無いです……」


 来小野木さん、わざわざ俺の方を向いて挨拶してくれたけど、もう仕事に戻っちまいそうだ。

 な、なんだろ、他の人とならサッサと会話を切り上げて一人になりたい所だけど、来小野木さん相手だともっと話したいって気持ちになる。

 な、何か話題は……


「所で秋月さん」

「は、はい!」


 ここでまさかの、来小野木さんから話し掛けて来たー!

 ヤベー心の準備が……


「最近どんな夢を見ていますか?」

「へ? 夢……ですか?」

「はい、夢です」

「そうですね……」


 ん〜? 何で急に夢の話し?

 確かに夢は見てるけど、アノ変な夢の話しをして良いもんかな〜

 頭おかしいヤツって思われるかも。


「い、いや〜、夢は見てると思うんですが覚えて無いです」

「……そうですか」

「は、はい……何故に夢の話しを?」

「いえ気にしないで下さい」


 あう、もう少し話せるかと思ったけど、来小野木さんはもう仕事を始めちゃったよ。

 今朝はこれまでか〜

 俺も仕事しよ。

 でも何で急に夢の話しなんかしたんだろ……?



 あ〜今日は平和だ〜

 係長は出張だとかで居ないし、仕事の方は早く来たおかげで良い感じに進んでるし。

 こりゃ今日は定時で帰れるかな?

 さて、昼飯の時間だけど俺はコレ。

 このカロリーバーとゼリー飲料が最強、なんせ席で仕事しながら済ませられるからね。

 わざわざ昼食を取る為に外へ出る気にもなれないし、元々食事にそれ程熱意も無いからな。

 死なない程度に栄養補充出来てりゃ充分何だよ。

 そうだ、今日は少し余裕が有るから、ちょいと気になってた事を調べて見るか。

 えーと「夢・死ぬ」っと。

 なになに?

 死の夢は「再生、成功、幸運などを意味する吉夢」?

 いやいや、俺が知りたいのはそう言う事じゃ無いんすよ先生。

 でも流石に出て来ないか〜「夢で死んだら現実でも死ぬか?」なんて。

 まあ、たかが夢の内容だから気にする事でも無いんだけど、昨日は危なく死に掛けたからな。

 あのままゴブリンの剣が刺さってたら……

 そういや昔そんな映画が有ったな、夢の中で殺人鬼に襲われて殺されると、現実世界でも死ぬっての。

 たしかナンチャラ街の悪夢……


「秋月さん」

「うひゃい!」


 のわ、ビックリしたー

 いつの間にか来小野木さんが背後に居たよ。


「すみません、驚かせてしまいましたね。

 ……所でそれは美味しいんですか? 毎日お昼にはそれを食べているようですが」

「あ、えーと特別美味しくは無いですね」


 なに? 来小野木さんが俺の持ってるカロリーバーを、真面目な顔でジッと見てるけど。

 食べた事ないから興味あるとか?


「た、食べてみますか?」

「いえ。すみません、言い方が悪かったですね。

 そんな物で満足出来ていますか?」

「満足……ですか?

 まあ何となくお腹は膨れますし、それなりに栄養は取れているかと」


 ハ〜〜〜


 うえ、来小野木さんにでっかいため息吐かれちゃった。

 何か気に触る事言ったかな!?


「少しお時間を頂いても?」

「は、はい大丈夫です」

「では付いて来て下さい」


 どこ行くんだ?

 えーと使ってない会議室?

 なんでこんな所に……


「さあどうぞ入って下さい」

「は、はい」


 来小野木さんが奥側に座ったから、取り敢えず迎え合わせになる感じで俺も座ったけど……

 なんか今日の来小野木さん表情が硬いな、なんか微妙な緊張感まで漂ってるけど。


「私はしっかりとした食事を摂ることも、仕事の一環だと考えています。

 キチンと栄養バランスの取れた食事をする事によって、最善のパフォーマンスを発揮出来るからです」

「は、はぁ……」

「普段貴方の食べているアレ、私も調べてみましたがあくまで補助食品と言った意味合いが強い物で、主食にするような物では無いですね」

「ま、まあそうです」

「そ、そこで!」


 どうしたんだ? なんか言い淀んで固まっちゃったけど……


「こ、これを……」


 ま、まさか!

 この大きさ。

 この包み。

 これはあの伝説の「手作り弁当」と言うやつでわ!


「け、今朝普段より早く目が覚めてしまいまして、折角ですからお弁当でも作ろうかと思った所、少々作り過ぎてしまいまして。

 余らせるのも勿体無かったので、この様に二つ用意してきました。

 よ、宜しければ食料の消費を手伝って頂けないかと」

「……よ」

「よ?」

「よろこんで!」


 うう、母親以外からの弁当。

 異性からの手作り弁当。

 しかも憧れの来小野木さんが作った弁当!

 ヤバい、目から心の汗が溢れ出しそうだ。

 我が生涯に一片の悔い無し!


「い、頂きます」

「ど、どうぞ」


 う、うめー

 最高です来小野木さん。

 仕事だけじゃ無く料理も出来るなんて、完璧超人じゃ無いですか!」

「それは少々言い過ぎかと。でも喜んで頂いて良かったです」


 ふぁ! くくく口に出てた!!!

 どどど何処から? 何処から聞かれてた心の声!

 ま、まあ良い。今はこの弁当を喰らい尽くすのみ。

 いざ!


「秋月さん、そんなに慌てなくてもお弁当は逃げませんよ」

「んぐ、いえ余りにも美味いんで、つい夢中になってしまいました」

「そうですか……」


 あれ、なんか来小野木さん嬉しそう。

 さっきまでの緊張感も無くなってる風だし……

 あ〜俺が極度の偏食か宗教上の理由で、カロリーバー以外を食えないと思ったとかか?

 ってそんな訳ないか、昨日はラーメン一緒に食ったしな。

 ……じゃあ何でだ?


「ふぅ、ご馳走様でした。とても美味しかったです」

「お粗末様でした」


 は〜美味かったな〜

 しかし、こんな事一生に一度の事かも知れないんだから、もっと味わって食べれば良かったか。

 チョット勿体無いことした気分になって来たよ……

 おっとと、折角美味しい食事で良い気分になってるんだから、ネガな気持ちに引っ張られないようにしないと。

 

「じ、じゃあ仕事に戻りましょうか?」

 

 昼休みの時間はまだ残ってるけど、このまま来小野木さんと向き合ったままで二人っきりってのわ……

 いや俺的には全然良いんだけど、これ以上来小野木さんに迷惑を掛けられないからね。


「少し待って下さい」

「は、はい?」


 あれ? なんかまた真剣な表情に……


「秋月さん、率直にお伺いします」

「は、はい」


 な、なんだ!?

 何か思い詰めた表情の来小野木さんが、俺の顔をジッと見て……

 まままままさか、手作り弁当からのこくh


「秋月さん、最近変な夢を見ていませんか?」

「……へ?」

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