報告書 遺体回収

世界中に迷宮が出現してから20年程経った今。

俺は迷宮に潜っていた。

わざわざとても危険な迷宮に潜る理由はとても簡単。


迷宮に不法侵入をして、知名度でも欲しいのか動画配信をして、馬鹿みたいにモンスターに襲われて、死んだ愚かな若者の遺体を回収するためだ。


最近は若者を中心とした迷宮への不法侵入が増えてきているから困る。

何故俺が困るのか。

それは俺が迷宮管理局の総合対応科に所属しているからだ。

この総合対応科ってのは迷宮内で何かしら事件が起こったら、必ず出動することになるとても面倒で危険な部署なのだ。


つまり、迷宮に勝手に入って死んだ奴を回収するのも俺達の仕事になる。ということだ。


はぁ。なんで俺は適合者になってしまったんだ。

なにが子供のなりたい職業No.1だよ。超能力みてぇなもん使って、迷宮に入って、危険な目に遭うだけのこの仕事のなにが羨ましいんだ。

代われるのなら代わってあげたいぐらいだよ。


あーあ。なんか悲しくなってきた。今日はとっとと馬鹿の死体を回収して、それで仕事は終わりにしよう。それでとっとと家に帰ってビールでも飲みながらゲームをしよう。


よし。なんかやる気が出てきた。そんじゃ、とっとと仕事を始めますか。


「張り切っていこうな!」


そういえばこいつの存在を忘れていた。こいつは俺の相棒的な存在の井上。

赤いヘアピンがトレードマークのよく仕事をサボって動画投稿サイトを見てる奴だ。


俺がこいつと危険な迷宮に入るのにはちゃんと理由がある。

それは、”迷宮に潜る際は必ず2人以上でなくてはいけない”という規則のようなものがあるのと、俺とこいつの”紋術”は相性がいいからだ。


「なんか考え事でもしてんのか?」


「いーや別に、何も」


「ふーん。あ、遠藤。何かが落ちてるぞ」


迷宮の入口から200mぐらい歩いた所で、井上が何かを拾って俺に見せてくる。


「これ、動画配信グループの”遺跡ーず”の三内丸山さんが使ってた”僕の考えたちゃいきょうのナイフ”だ」


井上が見つけたのは、今回俺達が回収する遺跡ーずという動画配信グループの三内丸山という男が使っていた”僕の考えたちゃいきょうのナイフ”というとてもダサい小学生が考えたような名前のナイフだ。


たしか井上は遺跡ーずのファンで、よく仕事をサボって動画を見ていたので、ナイフの柄を見ただけでそれが三内丸山の物だと分かったのだろう。


「ねぇ遠藤」


「どうかしたか?」


ナイフを拾った地点で他の遺跡ーずの遺品がないか探していると、井上に声をかけられた。


「もしかして今回の回収対象って………?」


「お前が推してる遺跡ーずの遺体だな」


「嘘でしょ………?」


もしかして、こいつ知らなかったのか?

局長に渡された資料ぐらいちゃんと読んどけよ。

配信中に着用していた服、使用していた武器、その他個人情報などが色々と載っているのだから。


「まぁいっか」


いいのかよ。


「ところで遠藤、さっきからなんか血生臭くない?」


言われてみれば、さっきから少し血生臭いような。

例えるのならば、モンスターの狩り場に残された食いかけの獲物のようなあの嫌な匂いだ。

遺跡ーずの遺体がかなり近くにあるのかもしれない。


「遠藤、遺跡ーずの”射程外からSO☆GE☆KI丸”が落ちてるよ。さっき流し見た資料から考えるに、もうモンスターの縄張りに入ってるんじゃない?」


「そうだな。ちゃんとしっかり読んだ資料によると、ここらで偶然見つけた狼型モンスターのブラックウルフをその武器で攻撃したら大量のブラックウルフに襲われたらしいからな」


「何それウケる」


周囲に偵察型のブラックウルフがいないことを確認してから、俺達はそこら辺に何個か落ちている遺跡ーずの装備などを回収し始めた。


無駄に重い遺跡ーずの遠距離武器を俺が2つとも背負って、近くに落ちていた撮影器具を嫌がる井上に押し付けて、準備しておいた鼻栓を詰めてから、俺達は前にそれぞれの武器を構えつつ、慎重に奥に進んでいく。


ブラックウルフは俺達みたいな適合者以上に暗闇の索敵スキルが高いからな。気配やら匂いやらで、いつ襲ってきてもおかしくない。


「井上、アレ見て(小声)」


「どうした?ブラックウルフでも見つけ………うわぁ(小声)」


また井上が何かを見つけたので、指差す方向を見てみると、そこには、つまりはブラックウルフが”喰い散らかした肉塊”があった。


周囲に散乱した骨やら肉やら内蔵やらを踏まないように避けつつ、回収をするために遺体へと近づく。


「僕、これ持って歩くの嫌なんだけど(小声)」


井上がトングで遺体をツンツンしながら、(ここ重要)俺が言わなかったことを言ってきた。


「奇遇だな、俺もだ。そこで提案なんだが、ここは公平にジャンケンで決めないか?(小声)」


「賛成(小声)」


呼吸を整え、昂る気持ちを落ち着け、足を肩幅に開き、拳を前に出し、”ジャンケンの構え”をとる。


「「ジャーンケーンポン!!(小声)」」


俺が出したのは安定のグー。井上が出したのはチョキだ。つまり、俺の勝ち。

俺はあの肉塊を持って迷宮を歩かなくてよくなるわけだ。


「回収は手伝うから持っていくのはよろしくな(小声)」


「………だ(小声)」


井上がポツリと何か呟いた。


「え?(小声)」


「嫌だぁぁぁああああああ!!(クソデカボイス)」


「ちょっ、声デカイって!」


デカイ声なんて出したら近くにいるであろうブラックウルフが襲ってくるぞ!


「「「「「グルルルルルルル」」」」」


「「あっ」」


時、既に遅し。

俺達は40匹近い数のブラックウルフに囲まれていた。


「い・の・う・え〜?」


「ごめん」


こうなってしまったら仕方がない。俺は槍をブラックウルフに、井上はビニール袋とトングを肉塊に向ける。


「俺がブラックウルフの相手をしている間にお前が回収。それでいいな?」


「まかしといて」


「「「「「グルアアアアアアアア!!!!!」」」」


襲ってくるブラックウルフの顎と前脚を槍で一匹一匹斬っていく。

顎と前脚を斬ってしまえばブラックウルフはただの犬以下だ。


俺が使っている槍は”短槍”という種類のもので、場所によっては狭い迷宮でも使いやすいタイプのものなのだが、相手の数が多いと短槍はキツイ!


「井上!あとどんぐらいだ!?」


「もう終わったよ」


そう言って、袋に入れた肉塊をこちらに見せてくる井上。

やっぱ井上は仕事が早いな。まだ5分も経ってない。


よし、あとはこの大量のブラックウルフ達からとっとと逃げるだけだな。


「そんじゃ井上、いつものよろしく」


「任せて!」


井上の両手にある”水の紋”が空気中の水蒸気が反応し、水を作る。

そして、その水は矢となってブラックウルフ達に降り注ぐ。


「「「ギャオン!?」」」


それで終わりじゃない。刺さった水の矢は凍り、ブラックウルフ達は動けなくなる。


「「あばよ!」」


俺達は血の匂いで他のモンスターが集まってくる前に、この場を離れた。



〜あとがき〜


主人公が肉塊を見て遺跡ーずだと分かったのは、資料に書いてあった遺跡ーずメンバーの特徴と一致していたからです。


遠藤

→槍を使う適合者。紋は雷。


短槍

→狭い場所でも使いやすい個人戦向きの槍。

イメージは“精◯の守り人の主人公“が使っていたアレ。


井上

→よく仕事をサボって動画投稿サイトを見たりゲームをしていたりする。紋は水。


紋術

→龍脈と接続し、そのエネルギーを使い物質を様々な形に変化させたり色々とできる不思議な術。適合者にしか扱えない。


迷宮管理局総合対応科

→実は副局長の推薦でしか入れないエリート科。

が、実際に務めている人達はただの雑用係だと思っている。


遺跡ーず

→動画配信グループ。かなりの人気があった。













































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