ダンジョンに夢を求めるな

セミ爆弾

愚かな侵入者

日が沈んでから少し経ち、星が出始めた頃。

多摩地区立川市中規模迷宮に3人組の男女が不法侵入をしていた。


「みなさんこんばわ〜。今日は立川市にあるダンジョンにやってきました〜」


:ダンジョン………ダンジョン?

:なんでダンジョン!?

:吉野ケ里ってライセンス持ってたっけ?

:吉野ケ里は”適合者”じゃないから持ってないはず


彼らは見ての通り動画配信者だ。

普段は山でモンスターを倒したり、モンスターを倒す武器を作ったり、倒したモンスターを食べたりしている、登録者数100万人超えの人気配信者だ。


「今日は〜三内丸山がどうしてもダンジョンのモンスターを倒したいっていうんで〜勝手に入っちゃいました〜」


迷宮への不法侵入とは、全裸の紐なしで溶岩へとバンジージャンプを行う以上に危険な行為だ。それは、仮に死んだとしても自業自得とされるぐらいには。


:言いそう

:容易に想像できる

:てか聞いてあげる吉野ケ里ちゃん優しすぎ

:↑それ


「私と大森貝塚に感謝してよ〜三内丸山」

「本当にありがとな。吉野ケ里に大森貝塚」

「気にしないでいいよー。大森貝塚も画面外で気にすんなってジェスチャーしてるし」


:大森貝塚は撮影してんのか

:出ないし喋らない。それが大森貝塚

:これ3人が全員いるなら大丈夫…なのか…?

:でもやっぱ心配だな

:迷宮化したモンスターは普通のモンスター以上にヤバいっていうしな


吉野ケ里と三内丸山はコメント欄を確認し、自分達を心配する声がいつもより多いことに気づく。


「まぁ俺らなら大丈夫っしょ。いつもなんとかなってたし」

「そうだね〜。私達は前に”迷宮化”したモンスターを配信外だけど倒したこともあるし〜」

「そういやそんなこともあったな。あん時はマジで焦った」


:マジで!?

:大マジ。前に倒した迷宮化モンスターの写真投稿して話題になってた

:なんか俺、大丈夫な気がしてきた

:↑私も


「お、あそこになんかいるぞ」

「あれは〜迷宮化した狼型モンスターかな?」


:狼型ってダンジョンからよく出てくるあの黒くて大きいヤツのこと!?

:群れると適合者でも苦戦するっていうあの凶悪モンスターじゃん


「1体だけだし大丈夫じゃね?」

「遠くから〜バーンってやっちゃお〜」


吉野ケ里と三内丸山は自作の遠距離武器を取り出し、狼型モンスターに照準を向ける。


「「いっけぇーー!!」」


2人は、その引き金を引いた。


「ギャオン!?」


2発とも命中し、狼型モンスターの下半身が吹き飛んだ。


「やったぜ!」

「狼型が単体だと弱いっていうのは迷宮化しても同じなんだね」


:凄っ

:マジかよ

:こう2人は適合者って言っても過言じゃない気がする

:迷宮化しても2人の武器はちゃんと通用するんだね

:流石は火力全振り遠距離狙撃武器


喜ぶ2人と驚く視聴者達。

だが、彼らは知らなかった。狼型モンスターは最初に頭を潰さないといけない、ということを。

彼ら知らなかった。迷宮化した狼型モンスターは攻撃された際に近くにいる群れの仲間を呼ぶ、ということを。

そう、彼らは知らなかったのだ。

迷宮の恐ろしさを。


「ワォオオオオオオン!!」

「まだ生きているのか!?」

「待って三内丸山。奥から凄い足音が………何かが来る!?」


:ヤバいんじゃない!?

:早く逃げて!!

:迷宮化した狼型モンスターは攻撃された際に仲間を呼ぶって迷宮管理局のホームページに書いてある……

:嘘でしょ………


「「「「「「グオォォォオオオオン!!!」」」」」」


大量の狼型モンスターが吉野ケ里と三内丸山、それと既に逃げ始める準備をしている大森貝塚に襲い掛かる。


「逃げよう!」

「賛成!早く武器は捨てて走ろう!もう来てるよ!」


3人は一斉に装備を捨て、迷宮の出口に向かって走り出す。

だが、人間が狼型モンスターより速く走れる、なんてことはあるわけなく、すぐに3人は追いつかれる。


「ちょっ、ヤバッ、誰か助けっ……」

「吉野ケ里っ!?待ってろ今助ける!!」


三内丸山がポケットに入れていた自作のナイフを取り出し、吉野ケ里に噛みついている狼型モンスターを倒そうとする。

ちなみにこの時、大森貝塚はカメラを置いて逃げることすらも忘れて、必死に逃げていた。


「あ、あれ、なんで…………」


が、三内丸山のナイフを持つ手に力が入らない。

これは、彼がモンスターに恐怖しているからではない。

適合者ではない普通の人間は、体が迷宮内に存在する迷宮化を引き起こす物質の影響に耐えきれないのだ。


「あっ」


三内丸山がナイフを手から落としたのを合図に、狼型モンスターが残った三内丸山と少し先にいる大森貝塚に飛びかかる。


「死にたくない!俺は死にたく………」


追いつかれ、腹に噛みつかれた大森貝塚の最後の悲鳴と共に、この配信は終了した。


彼らがこの後どうなったかを語る必要はないだろう。勝手に迷宮に入り、モンスターを攻撃して襲われた彼らが悪いのだ。



〜あとがき〜


モンスター

→人間以外の動物が凶暴化した姿。

ある学者はこれを動物の進化だといった。

違う学者は、これを人間と同じような適合化だといった。


迷宮管理局

→日本に出現した全ての迷宮を管理している民間の組織。


迷宮化

→モンスターが通常と比べ、凶暴化した姿。迷宮内でのみ発見される。


多摩地区立川市中規模迷宮

→中規模の迷宮。


適合者

→迷宮内での迷宮化を引き起こす物質の影響を受けない。超能力を扱う。


















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