第21話 彼はヒーロー
レストルームに戻ったワン達はセカンドの遺体を後から来たバレントに任せ、ホロウ株式会社にいるランカーに招集をかけていた。そしてそのメンバーが集まるまでの間、七、ファイ、ワンの三人は状況整理のために一つのテーブルを囲い小さいソファーに腰掛けていた。
「セカンドが死んだ、今後の対策を改めなければいけなくなった」
「ワン、今日くらい休んでも………」
ファイが眉をひそめてワンを気遣う様子があったがそれを厳しい眼差しで返す。
「休んでなんかいられるか、今日襲ってきたあの刺客達は全員同じ顔をしていた、そしてその顔の特徴はセカンドが言っていた革命軍の第六幹部クイックリン・パサーと一致していた、おそらくやつらの計画はもう始まっている、対策を立てなくてはならない」
「それでも、セカンドが死んだのよ?なのに………」
「僕はワンだ、悲しんでいる暇はない、セカンドの死を無駄にするわけにいかないんだ、対応が手遅れになる前に素早い行動が必要なんだ」
「そう、あなたはどこまでもヒーローなのね」
「あぁそうだな、自分でも気味が悪いよ」
すると後ろの扉が豪快に開かれる。
「話は聞いた、セカンドが死んだんだってな、まったくあのやる気がねえ男が死んで清々するぜ」
レストルームに入った途端、軽口をたたくナインズにその場の全員が冷たい目線でナインズを見つめる。
「………」
「掴みかかってこいよ」
「いや、いいさお前も無理をするなナインズ」
ナインズは冷たい視線を解き、微笑を浮かべるワンに思わず顔をゆがめる。
「ちっ、気に食わねぇぜ」
どかっとワンの隣にある小さいソファーに腰かける、その表情はどうにも晴れないでいた。
蹴り破られた扉をナインズに続いて通ったのは小柄な研究服を着た幼女、テンヒであった。髪をかきむしり、ぼさぼさの状態のままずかずかとレストルームの中に入ってくる。
「まったくどうにも最近は雲行きが怪しいな、こちら側に悪い空気が流れ込んでいるかのようだ」
「テンヒ、ありがとう来てくれて、研究が忙しいだろうに」
「………お前気味が悪いぞ」
「そうだね………」
悲しみを表すかのように眉をひそめたワンは俯き、声のトーンを一段階落とした。
「お前の考えていることはわからないが、とりあえず今は休め」
テンヒが鋭い視線で返す。
「でもっ!」
ワンは立ち上がり拳を強く握る。
「セカンドとの交流はお前が一番深かったんだ、いいから休め、あとのことは私達でなんとかするさ、さもないとぶん殴るぞ」
「僕はヒーローだから、一位だから………」
「………そんな称号になんの意味がある、お前は今、目の前にあるものに目を向けろ」
そこに広がるのは自分の方を向く、テンヒ、ナインズ、七、ファイ、四名の頼もしい姿、そこから目を背けるようにワンは下を向く。
「でも、でも………」
それでもあきらめずワンは抵抗する。それをいさめるようにテンヒが口を開いた。
「逃げるな受け止めろ、今ある事実を、この辛い現実を見ろ、ここはフィクションの世界じゃないんだから」
「くっ、わかったよ、じゃあ後のことは頼んだよテンヒ」
「ふっ任せろこのテンヒが超天才的な対策を考えてやるよ」
「あぁ頼りにしている」
ワンはおよそヒーローとは思えないふらふらとした足取りでレストルームを出ていった。
「まったく、ナンバーワンというのも考えもんだな」
「そうね背負うものが多すぎる」
ワンが出ていったのを見計らったかのようにナインズが口を開き、ファイがそれに答える。その後に流れた空気は重く、誰もが喋れる空気ではないことを察している中、テンヒがいの一番に声を出す。
「とりあえず、お前らの意見を聞いておこうか」
クイックリンパサーへの対策を主として会議は進み始めた。
テンヒのおかげで会議は進んでいる中、レストルームから出たすぐそばの壁にワンは背中を預けながら崩れ落ちるように地面に座った。
そして天井を見上げながら目頭にたまった涙をこらえるように下唇を噛む。
「うっ、うっ」
それでもこらえきれず一筋の水が頬を伝い、地面にぶつかり割れた。
「セカンド、セカンドっ!」
誰よりもヒーローである彼は自分の近くで死んでしまった命に対して誰よりも責任を感じてしまう男であった。ヒーローであるがゆえの性でだった。
だが彼は残酷にも戦うことを諦めるという選択肢を持ち合わせていなかった、どれだけ周りで人が死のうとも彼はヒーローを続けるだろう、吐き気がするような戦いの連続だとしても彼は第一位であり続けるだろう。それがワンという男だ。
だから彼は立ち上がる、今は無理だとしても明日には力強い瞳をもって戦いの場に身を投じているだろう。
だって彼はナンバーワンヒーローなのだから………。
・
「一昨日ホロウ株式会社に侵入した集団によって、ナンバーツーヒーロー”セカンド”こと武井零さんが今朝亡くなったことがわかりました、武井零さんはレストルームから出たところを狙われ、首をナイフで一刺しされたことが死因だと思われています、また武井零さんは侵入者集団すべてを撃退したとされています、そしてホロウ株式会社は………」
そこでぷつんとテレビは幕を閉じた。
「ふぅー」とため息をつきながら白い天井を見上げる。なんの面白味もない天井を見つめてさらに深いため息をついてから視線を戻す。
俺は隣に座っていたおじさんこと麻木に話しかける。
「麻木さんよー、あんた今の見てどう思った?」
「………申し訳ないと思っているよ、私の部下があんなことを」
「そうか普通だな、まぁその気持ちもわかる」
「ふむ、では君はどう思ったのかね?」
「何もー、俺に負けた人のことなんて眼中になかったよ」
「………君は嘘つきだな、ならなぜ眉間にしわをよせているんだ」
「もうーうるさいなー麻木、作戦の時期を早めよう」
伸びをしながらソファーから降りる。ぐぐっと筋肉が伸びる音を聞きながらソファーにふんぞり返っている麻木を見やる。
「………構わないが、それはヒーローの準備の時間を奪うことにならないか?」
「はぁ確かになーなら早めるのはやめとくか」
「そうだ、今はただ待つしかないのさ」
「………あぁそうだな」
やっぱ以前俺の家に来た時より、覇気がなくなっている。そしてしわの堀が増えている。これが寿命を使うことの弊害なのかもな。
まぁ最近は元気に相〇を鑑賞していて、そのことに関して後悔はしてそうにないのだけが幸いだな。
すると、家の壁に隠れながら玄関に近づいていくねぇさんの姿を目の端でとらえた。
「あんたも無理すんなよ俺と戦う分の寿命は残しておけよ、俺は今日も今日とてパチンコに行くねぇさんを引き留めに行くとするよ」
「あぁありがとうな」
儚げに笑うおじさんに少し胸を撫で下ろしてから、「クソねぇさんごらぁぁぁ!お前まぁたパチ行く気かごらぁぁ!金だって無限じゃねぇんだぞ!喧嘩じゃああ!」
「ちょっおま、またなノネ!?」
目を丸くしているねぇさんに問答無用に殴りかかる。瞬間俺にかかる重力に思わず押しつぶされそうになったが………
「自宅の床は壊せないよなぁぁぁ!」
「くっ!卑怯なノネ!」
ねぇさんの引力を付与する能力は強すぎて家の崩壊を起こしてしまう。こういう卑怯な喧嘩は俺のポリシーに反するが、もし野外での戦闘にでもなれば俺が気持ちよくなるだけで勝ち目はない。だがめりめりと減っていく貯金を見てしまった俺にとっては絶対に止めなければならないのだ。
「お縄につけぇぇい!」
一つ、不安要素があった。それはねぇさんがブチ切れたときに家の崩壊すら構わず俺のことを攻撃してくるのではないかということだ。
だがその心配はしていなかった、だって普通は家壊してまでパチンコに行くやつがいると思うか?
えーそれがね、いたんですねここに、パチンコ行くためなら家なんてどうでもいいというイカレ野郎が………。
「もうっ!どうでもいいノネ!」
「おまっまさか!」
めきっ、めきっと徐々に亀裂が入っていく床に思わず冷や汗が流れる。
「こんのっくそばばぁっ!」
ついに限界を迎えた床が崩壊し、下に向けて真っ逆さまに落ちていく。くっそこれでどれだけの金がかかるかわかってんのかこの能無しが!
「絶対にぶち殺してやる!」
「やってみるノネ!」
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