第20話 ありがとう

俺ははっきり言って平凡な人間だったと思う。


平凡に日曜朝にやっている特撮ヒーローに憧れて、変身ベルトとかを買ったりして、まさに子供らしい子供だった。


ちょっとだけ足が速くて、それが自慢だった。足が速いとまるでヒーローに自分自身がなったみたいでうれしかった。


皆が言った、俺はヒーローみたいだねって。


でも本当のヒーローにはなれていなかった。たとえ足が速くてもそれは人の域を出ていない、凡人の領域だった。


そんなとき人造人間になれる方法が生み出された。もうやるしかないと思った。親の反対を振り切って人造人間になった俺は確かに強くなった。


時を止めるという果てしない力も手に入れた。だがそれでも、本物のヒーローは俺ではなかった。


「うん大丈夫、僕が全部助ける」


そいつは本物だった。まさに不眠不休で国民のために働き続け、笑顔すら絶やさない。全部を救う皆の理想のヒーロー。俺が子供のころに憧れたヒーロー像そのものだった。




「ねぇセカンド、君はさどうしてヒーローになったんだい?」

「ふっそれを聞くのか?特撮のヒーロー達に憧れたからだよ」

そいつは俺が苦戦した異端者を片手に飄々と言ってみせた。

「俺はいつかお前を超えるぞ」

そんな余裕そうに言うワンに対して笑みを浮かべながら答える。

「ふふっ君にそれができるかな?」

「この野郎っ!」

最初はふざけていただけだった、こいつを超えようなんてさらさらなくて、俺はセカンドでも十分満足していた、満足していたはずなのに心のどこかがいつも痛かった。





「セカンドこれ見てみてよ!僕が乗ってる週刊誌だぞ!すごいだろ!」

ワンが見せてきたその雑誌の表紙には”日本1のヒーローその本音を明かす!”と仰々しく書かれていた。

「で、この本音ってなに?」

「犬とのしゃべり方を必死に答えてあげたよ、これで世界はよりよくなるだろうね」

「インタビューした人は絶対そういうこと聞きたいわけじゃなかっただろうけどな」

「そんなことない!………はず」

「まぁいいや、俺はトレーニングしてくる」


俺はいつからか、そいつの隣に頑張って立とうした、必死こいて人を助けて、トレーニングを欠かさず行った。皆が俺を讃えてくれた。君はワンに次いで立派なヒーローだって、うれしかったよ、だけど………。


「がっ!くっもう一度!」

ワンはいつも過酷なトレーニングをしていた。自分の腹に何度もナイフを突き刺したり、150キロで飛んでくるボウリングの玉を受け止めたりしていた。そうだ、俺は努力の面でもそいつに負けていた。


俺はどうあがいても”二位”だった。


俺の心にひびが入った。





きっかけはほんとにささいだった、前に”あなたもっと早く助けに来なさいよ!ワンならもっと早く来ていたわ!”とどこの誰かもわからない婆にビンタをされたことがある。確かに要請を受けてから現場に着くまでには多少の時間がかかってしまう。仕方なかった。仕方なかっただけのことなんだ。だって俺はワンじゃないんだから。


だけど俺はそういうことが「めんどくさい」と強く思うようになってしまった。こういう思いが強く出始めたのは多分大人になってからだ。


ヒーローというものを職業だと思うようになってしまったからだろう。仕事外の人助けはめんどくさいからなるべく避けたいと感じてしまう。


休日はめんどくさいからなるべく家でゆっくりしていたいし、友達と遊ぶことも夢を追いかけ続けることもめんどくさいからやめてしまった。


どこまでも立派な大人になってしまったんだ。


そういうめんどくさい積み重ねが人を大人にするということを実感した。


俺はもう理想のヒーローにはなれないんだと思っていた。





「けど、なんだ、はぁ、俺にもあったじゃないか、ヒーローになりたいって心が………」

数十秒前までは滝のようにあふれ出していた血はなりを潜め、ぽた、ぽた、と雫のようなものが落ちてくるだけだった。目の前の景色はあいまいで、うまく物の外形を掴むことすらできない。


「がっ、私の分身を全員殺すとはねそれも20秒もかからず………これが第二位セカンドの力というわけか、だがまぁいい、あなたという大きい戦力を削ることができた、それで今回は満足するとしましょう」

よし、最後の一体が地に伏して動かなくなった。


それじゃ、俺も部屋の中に………。

「あ、れ?」

力が抜けてレストルームに入るための扉に寄りかかる。だめだ、手が動かない………足にも力が入らない。ははっ、これが死ぬ直前の感覚というやつか………。


警告音がビービーうるさいなぁ、最期くらい静かにさせてくれ。


どんっと横の扉が開かれる。中から出てきた人物を顔も向けず横目だけで確認する。


「セカンド!!」

なんだようるさいな、もうそのテンションでしゃべれる力なんてねぇよ。あぁん?奥から来てるのはバレントか?まったく、もう間に合わないっていうのに。


あぁそうだ、状況をワンに伝えないと………シルクハットの男が襲撃してきたこと、今回だけじゃなく、次があることを、伝えないと………。


「俺だっでっ、はぁ、んっ、本物のヒーローになれだだろ?俺は、ヒーローだっだろ?」

「っ!!」

あぁ馬鹿だな俺は、ヒーローが最後の最後に私情を優先するなんて、大人失格だ。


「セカンド!セカンド!お前はヒーローだ!本物のヒーローだ!だからだから目を覚ませ!!バレント早く治療を!」

「ダメです、もう………」

「くっ!だめだ!セカンド!死んじゃだめだ!」

最後にワンの泣きっ面くらい見てやりたかったんだけどな、視界がかすんでよく見えないな。


ワン、俺はお前に憧れたよ、強く憧れた。そんなお前から本物って言われてうれしかったよ、ありがとうな、本当に………。


ありがとう








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