第19話 セカンドという男

革命軍のボス麻木がある少年を訪ねてから3日後、ホロウ株式会社の地下の地下、薄暗い廊下を抜けたその先に重厚な鉄の扉が今開いた。


「ふぅ一週間よく僕のレベルアップのための特訓に付き合ってくれた」

「ほんとっ!ざけんじゃないわよっ」

「あぁ、悪魔よ、今目の前に飄々と立つこの男に鉄槌を下してくれ」

重厚な扉の先から倒れこんできた二人の人間、ファイと七が激しい息切れを起こしている。着ているシャツの背中からは汗がにじみ出ている。二人は各々が悪態をつく。


「仕方ないじゃないか、多分これから先あの少年と戦うことになるんだから僕のレベルアップは必要だろう?」

この場にいる三人の中で唯一余裕をもって立っている男は軽く汗ばんだ額をぬぐいながらうつぶせになっている二人を見下ろす。

「はぁぁぁぁぁ、まぁ一緒に遊園地に行ってくれればなんの文句もないわよ」

「じゃあ明日にでも行くかい?」

「………いいわよ」

顔を上げる力すら残っていないファイはしかし、少し高揚した声で答えた。


「さっさとおぶれ、ワン、我は疲れている」

「私もおねがーい」

「いいよ、ほら」

かがんだワンは二人に背中を向ける。


「やったぁ」

気の抜けた、声で答えた七は我さ先にとワンの背中に寄りかかる。残されたファイはいそいそとワンの正面へとほふく前進で進み、「おねがーい」と甘い声でワンにこびを売るように腕を拡げた後ワンに抱き着こうとする。


「はぁ仕方ない………」

「やった」

少し頬を緩めたファイは全力でワンを抱きしめた。


「さて、行こうか」

そして歩き出そうとしたとき、暗い廊下の先から歩いてきたある男を注視する。

「ようやく修行は終わりか」

「あぁセカンド、お前にも随分迷惑をかけた、何かあった?」

歩いてきた男は長い髪をかきあげ、ワンを真っすぐに見つめて口を開く。

「なんもねぇよ、と言いたいところだが………めんどくさいことが起きた」



「………なるほどね、そんなことが」

「あぁ、きっとあと5日後くらいに人形の能力は消えてしまう、それがタイムリミット」

風呂から上がったワンらはホロウ株式会社の屋上にあるラウンジルームでくつろぎながらセカンドの状況報告を聞いていた。


といってもまともに聞いているのはワンのみであり、他のファイや七はソファーに座った瞬間、久しぶりの柔らかい場所だったため、目をつむるなり眠ってしまった。


「まぁ大丈夫さ、安心するといい」

「無根拠な自信だ」

「それがヒーローでしょ?」

「………」

話しを聞いても余裕の表情を崩さないワンを眉をひそめて見つめるも、ワンから返って来た返答に思わず口をつぐむ。


「僕は最強のヒーローでなくちゃならないからね」

目を細めさせ、ソファーに背中を預ける。


「だがあれは人間の域を超えた化け物だよ、お前でも………」

「………勝てるよ」

ワンの目の前にある机に手を添えたかと思えば、その机は見る影もないほど粉々に粉砕された。


「僕は一回勝っているんだ、まぁファイや七がいたけどね、それでも負けたくない」

ワンは自分の拳を悲しげに見つめ眉を顰める。

「そうか、まぁ俺にとってはどっちでもいいことだね」

「………ありがとね、セカンド」

「何が」

セカンドは迫力ある声で返す。


「心配してくれて、ありがとうってことだよ」

「そんなこと俺一回もした覚えないんだけど」

けだるそうになりながらも、セカンドは近くにあったクッションを手に取りそれに顔をうずめる。


「………さて久々の休暇だ、街のパトロールでも………あれ?」

立ち上がったワンはふらっと足元がおぼつかなくなり後ろに重心がずれてしまう。思わず倒れそうになったところをセカンドが優しく支えた。

「お前もう寝ろ」

「………ても僕はナンバーワンヒーローだ、休みなんて」

セカンドとワンの視線が交わる。

「めんどくさ、その称号は誰かが勝手に背負わせたもんだろ、お前は今まで血反吐が出るほど頑張って来たんだ少しくらい休んでもいいだろ」

「………あぁそうさせてもらうよ」

そして目をつむるなりすぐに寝息を立てたワンをおんぶして持ち上げ、近くにあるソファーベッドの上に優しく置く。


「………こいつも相当疲れてたんだな」

少し頬を緩めた後、セカンドは伸びをして深呼吸をする。

「さて、本格的に対策を練り始めないとな」

(以前襲撃してきた革命軍の連中は言っていた”また会おう”と、それはきっと近いうちに俺達と革命軍が鉢合わせるようなことが起きるということ、一体何が………いやそれよりも目下の問題はあの怪物をどう対処するかか?くそ!同時に色々なことが起きすぎだ!)


セカンドは指を顎に当て考え事をしながらレストルームの扉を開ける。それが悲劇の始まりであった。


「がっ!」

セカンドが扉から一歩踏み出したかと思えば横から首にナイフを刺される。瞬時の反応でなんとか身をよじることができたが、致命傷に変わりはなかった。完全な死角からの攻撃、流石のセカンドでも完全に反応することはできていなかった。


「ちっ外したか」

シルクハットをかぶったセカンドにそのナイフを突き立てた人物は追撃と言わんばかりにナイフをもう一度喉元に向けて突き出す。


「ファーストずでっぷ!」

血が混じったしゃがら声でセカンドは詠唱を行い反応速度を飛躍的に上げ、シルクハットの突き出したナイフよりも先に拳を振り上げた。


「ぶっ!」

吹き飛んだその人物は数メートル吹き飛んだあと、動かなくなった。


(あいつは、確か前襲撃してきた………)

「仕留めそこなってしまいましたか404番」

「ふふっ、すいませんね403番」

むくりとさっき吹き飛んでいた人物は立ち上がる。

(二人目?)

天井についている排気口からあふれ出してきた煙は徐々に実体化していき先ほど襲撃してきた人物と瓜二つの姿形に変形した。


「流石はセカンドと言ったところでしょうか」

(っ!?三人目だと!)

「まぁこの数には勝てないでしょうが………」

次々と排気口から同じような人物が現れてくる。


(およそ、40人か………逃げるか?それともワンを起こして共闘を………?)

そこでセカンドは首からあふれ出る血の量が尋常ではないことに気付いた。


(もしかしてあの時動脈を………)

手で押さえていてもとめどなくあふれ出る血を見て自分の命がもう少ないのだということを理解した。


そうなってからのセカンドの行動は早かった。


(多分後俺の命は持って数十秒、ならなるべく多くの敵を道連れにする)

「ぜがっンドステップ!!」

そして時は止まった。








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