第17話 革命軍の真相

俺の目の前に豪快にあぐらをかいているこの無精髭を生やしたおっさんは信じられないことをのたまいた。

「あんた今なんて言った?」

「ん?私の名前は麻木楓と言ったが?」

「違うその後だ」

「あぁ私が革命軍のボスだということか」

まるで息を吐くように言うこの男は「それよりも茶はないのか?」とまるで親戚のような豪胆な振る舞いをする。この男心臓強すぎるだろ。「今持ってくるノネ」そして姉ちゃんも普通に対応するんじゃないよ。


「それだよ、意味わかんねぇよ、それ本当なのか?」

「当たり前だ嘘をつくメリットがどこにある」

「はっ!まじか、じゃあこのパンチも避けられるよな!」

耐え切れなくなった俺は目の前のおっさんに対し半ば反射的に拳を突き出していた。だが残りの半分は疑問を残していた、だから結構結構力は弱めたつもりだった。それでも時速120キロは超えてると思う。だがその拳はおっさんに当たることなく通り抜けた。そう、まるで元々そこには頭なんかなかったかのように綺麗に頭を貫通した。………このおっさんの能力か?


「おい貴様麻木様になんの真似だ?」

空ぶった俺の拳は勢いそのまま後ろにいたスレンダーな美女に当たる。美女は片手で俺の拳を止めたかと思えば眉を顰め威圧的な口調で俺に問いかけてきた。

「あぁそういえばあんたみたいなのもいたな」

「あんたみたいなのだと?」

美女はなによりも美しいその金髪を払ってから強気な瞳を俺に向ける。


「なめるなよ?私は革命軍第一幹部………「ラナ、その幹部とかいうのはやめてくれ」」

俺の拳から手を離した後、空手の正拳突きの要領で拳を引いた彼女に対しておっさんが落ち着くように手で制す。

「ですがボス!」

納得がいかないらしいラナという名前の人物はしゅんとしながら眉をへの字に曲げるがそれを気にもとめず麻木は続けた。


「今日は君に話があって来たのさ」

「話だぁ?」

「ボス!こいつの無礼を許すのですか!?」

ラナが腕を大っぴらに広げた。

「許すもなにも無礼を働いたのはこっちでしょ?勝手に家に押し寄せて迷惑極まりないでしょ」

「それでも!」

「それでもじゃないよ、これは事実でしかないんだから」

「くっ」

悔しそうに顔をゆがめながら次の反論の言葉を紡ごうとしているがそれがでないのか体をプルプルと揺らしている。


「あんたいい人だな」

「ははっ照れるなぁ」

「はっ、で?なんの用だったの?」

ここでひとまず話を元に戻す。「お茶持ってきたノネ」と姉ちゃんがお盆に湯呑を三つ乗せて俺とボスを自称するこの男の間にあるちゃぶ台に置いた後、「ひゃっはっーー!!今日は新台入れ替えの日なノネー!!」前転しながら、さながらアルマジロのような移動方法で帰っていった。


「すさまじい姉だな」

「まぁ変な姉ですけど悪い人じゃないよ」

「随分姉を信頼しているんだな」

「一応姉だからね」

ははっと乾いた笑みで返すが内心は「はよ話進めてくれないかな」という気持ちが強かった。


「さて私が君に会いに来た理由だが、それは”クイックリンパサーの陰謀”について伝えるためさ」



暗い地下室、したたり落ちる雫は反響するほど小さいがその部屋は陰りがある、どろりとした気持ちの悪い空気が部屋を満たしていた。

「もう少しだ、もう少しで完成する」

左目をなくしたクイックリンパサーは歯を軋ませながらなくなった左目があった場所を抑える。


「あ、あぁぁぁ、あぁぁ!!」

左目をくりぬいたある人物はその左目をなんのためらいもなく食した。聞き耐えがたいぬちゃりとした効果音とともに左目はその人物の喉を通っていく。


「殺してやるぞあの男を、絶対に………、そして世界を私の物にっ!」

目を血走らせたクイックリンパサーは目の前に広がっている数十人にもおよぶ自分と同じ複製体を見て狂気をも感じる笑みを浮かべた。彼が起こす暴動は後に世界をも震撼させる大事件となる。



姉がいなくなって解放された家政婦のヒーロー達が昼ドラを見ながらわちゃわちゃしている横で俺と革命軍のボスを名乗る男麻木はちゃぶ台を挟んで会話をしていた。


「”覚醒”というものを知っているか?」

始めに麻木が口にしたのは覚醒という言葉だった。

「知らない」

「ならば説明してやろう”覚醒”、それは自らの左目を食すことで発動するもので、自身の能力を一段階上に引き上げるというものだ」

「あっそ、んでそれがどうしたの?」

「貴様っ!」

もう一度手が出そうになっているラナに「ラナやめろ、次やったら追い出すよ」とさっきよりも威圧を込めた口調で麻木が止める。

「くっ」下唇を噛みながら一歩引いたラナを見て麻木はやれやれと息を漏らしてから今一度俺の方へ向き直った。


「続けるよ」

「あぁ」

「端的に言うとねその覚醒を使ってクイックリンパサーはテロを起こそうとしている、これは確かな情報だよ」

「ふーん、で?」

「え?テロを起こそうとしてるんだよ、興味が惹かれないのか?」

どうやらまるで興味を持たない俺に驚いたのか目を丸くして俺に聞き返してきた。


はぁ何を当たり前のことを………ってこいつはまだ俺とクイックリンパサーとやらが出会ったこと知らないんだっけ、なら仕方ないか。

「クイックリンパサーってあの水とかに変身するやつだろ?あいつ俺を見てすぐ逃げ出したからな、もう興味はねぇよ」

「そうか、もうすでに出会っていてクイックリンパサーは君のお眼鏡には叶わなかったということか」

「そういうこと、これからあんたが何を話そうがクイックリンパサーが関係してる限り聞くつもりはないよ」

「私が君と戦うことが条件なら?」


言ったな、それを待っていた。


「いいぜ、あんたが本気で俺と戦ってくれるならどんな条件でも受け入れてやるよ!」

俺は今どんな顔をしてるかな、きっと笑顔なんだろうなぁ。

「ありがとう、保険の条件を用意していてよかった」

麻木がいやはやと無精髭をこすりながら微笑を浮かべた。

「んで?俺はどうすればいいんだ?」

「クイックリンパサーのテロを止めてほしい」

「ふぅん一応聞いておくけどなんで?」

「やつは私の部下だったからね、部下の過ちは上司が正さないとだろ?」


何言ってんだこいつ、革命軍の目的はヒーロー達の殲滅じゃないのか?こいつが言ってることとやっていることが支離滅裂だ。


「あんたら革命軍の目的はヒーロー達への復讐だろ?それがどうしてクイックリンパサーのテロを止めることにつながるんだ?」

「違うよ、私達の本当の目的はヒーロー達への復讐なんかじゃない、もとはといえば革命軍は異端者たちの仲良しクラブだったんだ」








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