第15話 姉の休日

「目を覚まさないノネ」

「そうねー」

自室にあるベッドの上で柊由香を寝かせてはいるのだが一向に目を覚ます気配がない。息はしてるし、心臓も正常に動いている………気絶してるだけなのだろうか。


「私がこの子を見てるノネ、あんたは外行って遊んでてもいいノネ」

「んーいいよ、俺が柊のことを見てるからねぇちゃんが外行ってきていいよ」

「んー了解したノネ、おいお前ら私が帰ってくるまでに夕飯の準備をしておくノネ」

「「了解しました姉御!!」」

ねぇちゃんがそう言うと奥にいたヒーロー達が続々と出てくる。


この人達はねぇちゃんが前とっ捕まえたヒーロー達で、ねぇちゃんへの恐怖からか今ではうちの家政婦をしてくれてる、まぁ金は腐るほどあるから給料は払えるし何も問題はないんだけど、なにぶん人数が多いせいで居心地が悪い、いい人達であることには違いないんだけど………。


「「いってらっしゃいませ!!姉御!!」」

「はいよー」

ちょっと暑苦しいんだよねー。



「久しぶりの休暇なノネ、何をしたらいいのか迷ってしまうノネ」

あのドМの姉である彼女だが、実のところ毎日忙しかったりする。やのつく組織から金を巻き上げたり、不良から金を巻き上げたり、汚職政治家から金を巻き上げたりと大変なのである。


だが今日はどの巻き上げる対象も給料日前なのでお金は持っていない、よって彼女は暇なのだ。


「んー池袋にあるおいしそうなパフェ屋さんにでも行こうかなノネ」

「新台入れ替え!〇エヴァ!〇ゼロ!S〇O!続々登場!」

彼女が何をするわけでもなく東京の街を練り歩いていたところ横からやかましい音が聞こえてきた。

「パチンコ………思えば今までやったことなかったノネ」

「行くぞ!カエル田!今日こそ勝つぞぉぉぉぉ!!!」

「だから俺の名前は良太ですって!!師匠!」

「んなこといったら私だって名前は師匠じゃなくて加恋だ、もうカエルダ田でいいでしょ」

「もうそれでいいです………」

「しゃごらぁぁぁ!そうとなったら今日こそ設定6引き当てるぞごらぁぁぁ!」

「あぁなんでこんな人を師匠にしちゃったんだろう………」


(愉快な二人組なノネ)

とんでもない勢いで店内に入っていく二人組を遠目から眺める。


(でもなんか気になってきたノネ)

彼女は気になってしまった。ぱちぱちと光るその嫌になるほど主張してくる派手な店構えと、耳をふさぎたくなるほどの騒音に、心を奪われてしまったのだ。


「さぁ重要な第一歩目なノネ」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!終わりだぁぁぁぁぁぁぁ!!」

自動ドアに足を踏み入れた瞬間、入れ替わりで出てきた一人の中年のおじさんが膝から崩れ落ちて泣き叫んでいる。


彼女はそれを見ないふりしてさらに歩みを進める。


「ねぇー頼むよ、あと一回だけ、一回だけ金貸してよー、なぁー頼むよー、あと少しで出る気がするんだよー、は?貸してくれない?ザッケンナ!ぶち殺すぞてめぇ!!」

(え、こわ)

二歩目で金を借りたくて切れている大学生くらいの青年に遭遇する。


それも見ないふりして彼女はさらに深部へと進んでいく。


そして、店内に広がっていたのは無数にあるパチンコの数々と、店の外とは比べ物にならないくらいの騒音だった。


「こ、ここがパチンコ屋………」

「すいません、そこのお方」

そのあまりのうるささにたじろいでいると後ろから声をかけられた。


彼女が振り向くと、そこには優しい笑みを浮かべた男がいた、男はタキシードをぴしっと決めて着ており、さらに中に来ているシャツにもしっかりとアイロンがかけられているのかしわ一つない。胸元のネームプレートには”アサシンズ”と書かれている。

「え、えーとなノネ」

「おっとこれは失礼しました、私はこの店の店長をしております、アサシンズと申します、つかぬ事をお聞きしますがお客様は今回が初のご来店ですか?」

「そうなノネ、案内願いたいノネ」

「はい、もちろんですともではこちらへ」

「了解なノネ」

すると先導するように店長を名乗る男が彼女の前へと躍り出て歩き出す。それを見てついていく彼女は新天地におどおどしている初心者極まりなかった。


「ここです」

「ここでパチンコをすればいいノネ?」

アサシンズが案内したその台はピエロが特徴的なサーカスをイメージしたようなデザインだった。

「いえ、この台はスロットと言ってこの三つのレーンがあるのがわかりますか?」

「うんあるノネ」

「このレーンに描かれている絵柄を横並びに揃えることがスロットの基本的なやり方になります」

「簡単なノネ」

「はい、こちらの台は初心者の方でもとっつきやすいので、おすすめなんですよ」

「じゃあこれをやるノネ」

「はいぜひ、あと、当たれば玉が出てくると思いますがそれらはすべてお金に換えられますよ、では私はこれで」

「な、なんと!ありがとうなノネ頑張ってみるノネ」

「いえいえ、店長として当たり前のことです」

そう言ってアサシンズは背中を向け、その場を後にした。


IN監視室

そこではパチンコ店としては異例といえるほどのモニターの数があった、その数およそ25個、そのすべてに店内のリアルタイム映像が流れている。これだけでこの店が儲かっているということは見て取れた。

「店長、またやるきですか?」

「あぁ、またが釣れたからな」

丸椅子に座って監視カメラを監視していた従業員の一人が監視室に戻ってきたアサシンズにそう問う。アサシンズは当たり前のことのように軽く笑った。


(この人昨日入ってきたばかりなのにもう店長に上り詰めたんだよな、それもこれも昨日の売り上げがすごいからって理由らしいけど絶対に昨日急に辞めた元店長脅しただけなんだよなー、てか実際にその現場見たし、ナイフ突きつけてたし)

従業員はアサシンズと会話する中でそんなことを考える。そんな現場を見た従業員がまだ続けていられる理由は彼が化け物じみた精神を持っていることもあるが、ひとえにこの監視するという仕事が楽だからである。


「じゃあ昨日と同じ手筈でいいんですか?」

「あぁ設定6で頼む」


説明しよう!パチンコ屋さんでいう”設定”というものはその台の当たりやすさを示しているぞ!最低が1で最高が6まであって1と6ではその当たりやすさに雲泥の差があるぞ!覚えていくといい!!


「店長も悪趣味ですよね、はじめてギャンブルに来た人を午前中だけ設定6で稼がせて、午後は設定1に変えて沼らせるなんて、性格悪いっすね」

「ふむ、そうだねだがそれが俺のやり方なんだ頼むよ」

「了解です」

従業員はまんざらでもないニヒルな笑みを浮かべてPCをいじり、姉が打っているスロトの台を設定6に変更した。


「これでよし」

アサシンズはえげつないほど口角を歪めて笑った。


IN店内

そして数時間後

「すごいノネ!ものすごい量の玉が出てくるノネ!こ、これが全部お金に変わるノネ!?」


IN監視室

「くっ、くっ、くっ、まんまとはまってくれているな、その調子だ」

顎に人差し指を曲げてあてながら、まるで悪役のように笑う。だがそこでアサシンズ、背後に”ハイエナ”がいることに気が付く。

「ま、まずい!」


アサシンズが見た監視カメラに映っていたのは大量に出玉を出している姉の後ろでうろちょろする、スレンダーな美女とカエル顔の男だった。


説明しよう!パチンコ屋さんでいうハイエナとは設定6確定といえるほど当たっている台を見つけてはそれを打っている人間の後ろをうろちょろして、退席するのを今か今かと待ち、退席すれば目をがん開きにしてすぐさま座る人間のことである。


この行為は普通に怖いから皆はやめようね!!


(カモが気持ちよく打ってるんだ、邪魔させるか!)

そんな思惑を胸にアサシンズはただひたすらに走った。


IN店内

「カエル田、あのジャグ〇ー確実に設定6だわ」

姉の後ろで聞こえないようにひそひそと話す二人組は久方ぶりに見た設定6確定台に興奮していた。

「っすね、絶対に逃がせないっす」

一人はパチンコ屋さんに似つかわしくない美人な黒髪美人で、スタイルは出るとこは出ている、究極の美を追求したようなスタイルだった。対して男は肌がしっとりとしていて、顔面緑のカエル顔の男、その二人組は周りを警戒していた。


なぜなら他のハイエナがいないかを知るためである。

「そうね、ってあれ見てカエル田!」

「っ!あれは”銀座を根城にしている孤高の一匹オオカミ”、銀座の孤狼”北千住狼牙”!、それにあっちは”優しいその笑みは全て嘘、裏の顔は負ければすぐさま設定操作を疑い監視カメラ睨む最低野郎!”巣鴨の仙人”鳥川カラス”!」

「たくっ不運ね今日は大物が多い………」

「あっちには”右打ちの猛者”千葉のパチンカスランド”畑山すずめ”もいます、スロットは苦手だったはずですが設定6は流石に見逃せないようですね」

「もしかして全員あの嬢ちゃんが打っているジャグ〇ーを狙っているというの?」

「はい、おそらくは………」

「厳しい戦いになりそうね」

(なんか後ろがうるさいノネ………)

後ろでわちゃわちゃしていることに気付いていた彼女だったが、何も知らない彼女にとって後ろの人達は観客ぐらいにしか思っていなかった。


クレーンゲームにおいてなんか取れそうな商品を狙っているときによくみられる、あの現象と同じくらいにしか思っていなかったのだ。


そんな謎の攻防戦が繰り広げらているとき、北千住狼牙の肩を誰かが叩いた。そこには最高の笑顔を浮かべたアサシンズがいた。


「ハイエナ行為は当店では禁止しておりますのでお引き取りお願いします」

ぶわっとハイエナをしようとしていた者達から冷や汗があふれ出す。その理由は皆一つであった。

((あの銀座の一匹狼が背後をとられた!?))

それはあまりにも衝撃的なものだった、そしてその場から退避するのに十分すぎるほどの理由でもあった。


((ここは引くしか………))

他のハイエナ達が撤退を決め、その場を後にしだした。だが一人、いや二人はそんなアサシンズに臆することなく残り続けていた。

((あ、あいつらまさか!))

他のハイエナ達が驚愕している中アサシンズが先に口を開く。

「お客様方にもこの場からの退避をお願いいたしたいのですが………」

「いえ、嫌です」

((駄々こねやがった!!!))

大人としてのプライドを全て捨てたその行為はなかなかできるものではないが、代わりにできれば世界最強のハイエナになれるだろうともいわれている。


「ですがねぇ………」

呆れて声も出なくなったアサシンズが目の前のくそめんどくさい客二人をどうやって立ち退かせようか考えていると、「きゃぁぁぁぁぁ!」とパチンコ屋の外から誰かの悲鳴が聞こえてきた。


「!、誰かの悲鳴!(私の名声を広げるチャンス!)」

それにいの一番に反応したのはさっきまで駄々をこねていた女、加恋である。加恋は誰よりも早くパチンコ屋から出ていった。


「!、誰かの悲鳴!(お金のにおい!)」

次点で反応したのは姉であり、大量に出ている出玉を全て無視して、店から出ていく。


「!、誰かの悲鳴!(ここでいい店長アピールをして顧客への信頼度を深めるチャンス!)」

そしてほぼ同時にアサシンズもすべての店の業務を投げ出して走り出した。



3人が外に出ると外は騒然としていた。

「どうかしたんですか?」

一番最初に外に出た加恋が目の前でへたり込んでいた女性に事情を聴く。

「あの、私のバッグがあの人に奪われてしまって」

「あいつか………」

加恋は数十メートル先を人にぶつかりながら走るフードの男にあたりをつける。

(くっそ、だがこの人混みじゃ私の”格式砲台”が使えない!)

悔しそうに歯ぎしりをしていると、加恋の後ろの自動ドアが開いた。


「あんたたち………」

「「殺す(ノネ)」」

後から出てきた姉とアサシンズだったが事情は聞けていたようで、加恋より先に二人同時に飛び出していた。


アサシンズの方はいつの間にか姿を消していた。


「え、あいつらもしかして結構強い?」

そんなことを言っている隙に二人はバッグ強盗に追いついていた。


「待つノネ!」

「な、なんだよお前!」

「お前を捕まえるノネ!」

(くっそ!こいつはぇぇぇ!!このままじゃ追いつかれる………)

強盗犯が冷や汗を流しながら、全力で逃げているものの差は縮まっていくばかりであった。


(こうなったら!)

「きゃっ!」

強盗犯は反転し、ポケットから取り出した拾得ナイフを取り出す。それを手に持ったまま、近くにいたひ弱そうな女性の首根っこをつかみ、その女性の首元にナイフの刃の部分を当てた。


「こいつの命が惜しかったら、それ以上俺に近づくのをやめろ!いいな!」

それを見た姉は走るのをやめた。めんどくさそうに眉毛をゆがめながら口を開く。

「くっ、卑怯なノネ」

「はっ!誉め言葉だね!」

「ちょ、やめてくださいっ!」

「動くな殺すぞ!」

「ひっ!」

ひ弱な女性がなんとか抵抗しようと試みるが、強盗犯の圧にやられ虚しく縮こまってしまう。


「よーし、そのままだ、そのまま両手をあげて、そこにひざまづいてろ」

姉は言う通りに両手を上げる。そして対する強盗犯はナイフを女性の首元に当てながらじりじりと、タクシーが止まっている場所に近づいていく。


「きゃっ!いたっ」

そして限界までタクシーに近づいた後、女性を投げ捨てタクシーのドアノブに手をかけるその瞬間………。

「よし!俺はこれでにげさせてもらうべえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!??」

強盗犯の顎の下からとんでもない威力のアッパーが突然飛んできた。


なんの予兆もなく突然と現れた腕によって強盗犯は思わず奪ったバッグを投げ捨てながら体を空中に放り投げる。


「最初は殺そうとしましたが、殺してしまっては当店のイメージダウンにつながりかねませんので」

強盗犯を打ち上げた本人、アサシンズは特に表情を変えず空中でトリプルアクセルを決める強盗犯を見てさらに続ける。

「ちょっと強すぎたかもしれません………」

と言っているうちに強盗犯の体は最高到達点に達したようで、地面に向けて一直線に落ちてきた。どうやら強盗犯は完全に意識を失っているようで叫び声すらきこえてこなかった。


「ちょっ、あの高さから落ちたら流石に死んじゃうノネ!(死んじゃったら警察から謝礼金がもらえないかもなノネ)」

姉が強盗犯に向けて手をかざすと、急降下してきた強盗犯の体はふわっと綿毛のように浮き始める。


彼女の能力が”万物の重力の操作”であるから可能な技である。


「ふぅ、これで大丈夫なノネ」

姉が一息ついていると、後方には夜のパチンコ屋も顔負けの光を放つ人間がいた。


「よっしゃ、なんかよくわかんないけどこれで打ちやすい位置にきてくれた!くらえ格式砲台”優”!」

光の主である加恋は姉の思惑などガン無視にして、自分が目立ちたいがために殺意ましましの光線を打って見せた。


「あのばか!!!」

姉が静止するもむなしく光線が強盗犯を貫いた。光線が通った後には強盗犯の体は跡形もなく消し飛んでいた。その光景に誰もが息をのみ、放心したまま空を見上げる。


「よし、これで一件落着!!」

そんな中人殺し当事者だけが笑顔でガッツポーズをしていた。








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