第13話 セカンドとしての意地

「くっそ、これは一体………」

急ぎエントランスに戻ったセカンドはその惨状に絶句する。逃げ惑う受付嬢達や阿鼻叫喚するヒーローに直接相談しに来ていた一般人達とその誘導を行うヒーロー達で現場は混乱していた。


そしてその中心にいるのはつい先ほど医務室に運ばれていたはずの中学生だ、彼は姿形は変わっていないものの醸し出す雰囲気は別人だった。彼は止めに入ってくるヒーローを薙ぎ払っている、明らかに少し前までの彼の力ではなかった。


「全部、ゼンブ、ぶち壊す、俺を認めてくれないこの世界なんてゼンブぶっ壊す!」

「止まれ!止まるんだ!君はまだ中学生だろう!?悩んでいることがあるなら僕たちヒーローに相談してくれればいい!だから止まってくれ!」

彼は白目をむきながら手当たり次第に周りのものを破壊していく。ロップスがロープを出すが少年はそれを諸ともせず引きちぎる。

「クッソ!」



「セカンドさん!さっき医務室に運んだはずのあの少年が暴れてしまっています」

セカンドが戻ってきたことを確認したヒーローの一人が現在の状況を説明してくれる。

「あぁ見ればわかるよ至急止める、”ファーストステップ”」

セカンドはそう口走り瞳の色を青く染める。反応速度を10倍に引き上げ暴れる少年に向けて駆けだそうとしたとき、セカンドの背後から轟音が聞こえた。セカンドは後ろから感じた圧倒的存在感に恐怖を覚え、対処すべき優先順位の最上位に位置させた。


セカンドはその尋常ならざる反応速度から急転回し、後ろにいる存在の頬に拳をぶつけた。しかしセカンドはそれをすぐに後悔することになる。

「なんだぁ、入れるじゃん」

拳は頬にめり込んでいるが相手にはまるで効いている様子がなかった。

「お前は!」

「あんたぁセカンドだろぉ?柊由香はどこにいる」

「がっ!!!」

落ちてくる雨をすべて避けきることができるその10倍の反応速度を、もってしても目の前にいる存在の攻撃は反応することができなかった。


数メートルは吹き飛んだ自分の体を空中で立て直し、なんとか地面に着地する。


「くっ!”セカンドステップ”!」

吹き飛ばされた先で間髪入れずにセカンドステップを使用する。周りの時は完全に止まり、セカンドを吹き飛ばした存在すら停止していた。あふれんばかりの笑みを浮かべて………


「くっそ一体何なんだよ!次から次に!」

その存在は今一番有名な高校生といってもいいだろう人間、だがそれは決していい面での目立ち方ではない。上位ヒーロー3人を相手どったという悪名だった。つまり目の前の存在は正真正銘の化け物だった。


「吹き飛ばす!!!」

ふくらはぎに力を入れたセカンドは地面にひびが入る勢いで飛び出す。化け物の腹に掌底を決め込み、少年の体を浮かせた後化け物の首根っこをつかむ。


「クッソ、重い!!」

頭に血管を浮かべながらも必死に化け物の体を動かそうとするが一向に動かない。化け物が持つ質量はその見た目に反した果てしないものである。

「こんなん持ち上げられるはずが………」

(お前はヒーローだろ?)

脳裏に浮かんできたのは昔ワンから言われたその言葉、その言葉はセカンドにとって励みにもなったがヒーローという職業に縛りつける呪いにもなっていた。


「くっそ!!めんどくせぇぁぁぁ!!」

力の入れすぎによる血管の膨張はついに限界を迎えぶちと首筋から血が噴き出す。それでもセカンドは手を緩めずその化け物の体を吹き飛ばす。数百メートルは吹き飛んだ化け物はすぐにその姿を彼方に消した。


「時が進みだす、このままあの少年も………」

セカンドは向き直り今なお暴れ続ける少年の方を見る。


「君が!ここで暴れたってなんの意味もない!これからの人生でいいことだってきっとある!」

「うるさいうるさいうるさい!!!これは俺の、俺だけが主人公の物語なんだ!!!俺の物語の邪魔をするなぁぁぁ!!」

「くっ!まだ暴れるか!?」

ロップスが当たり障りのない言葉を吐く、だがそのただの綺麗ごとが少年の心に届くわけがなく関係なしに暴れ続ける。


異常発達した腕はさらなる膨張を続けており、今やエントランスの大半を占めていた。


「ロップス邪魔」

「セカンドさん!」

ロップスを押しのいてセカンドが前に出る。


「ファーストステップ………」

「だめだ!セカンドさん相手は子供ですよ!」

ノータイムで能力を使用するセカンドに対しロップスがそれを制する。

がか?」

「っ!!」

セカンドのその言葉にロップスは言葉を詰まらせた。

「わかったらお前は職員達の避難誘導でもしてて、俺はこいつを倒す」


セカンドとて無用な殺生をしたいとは思っていない、それでも、それでも仕方ないのだ。目の前にいる化け物はたとえ未成年だとしても人を傷つけた犯罪者、異端者なのだ。ならばヒーローとして倒さなければならないのが道理である。


無論沈静化させることは可能だろうがセカンドにはそんな余裕がなかった背後から迫る恐怖が彼の選択を絞らせた。


「ごめん、これがヒーローなんだ」

「がぁぁぁ!邪魔をするなぁぁヒーローども!!」

地面を削りながら飛び出したセカンドは拳に力を込め近づく。そして異端者が振り上げた腕が下ろされる間もなくセカンドの拳が彼のの胸に叩きつけられた。その衝撃によって飛び散った肉片はエントランスの赤いカーペットをさらに赤く染める。


「すげぇ、あれがセカンドさんの、第二位の力」

「が、が、」

胸あたりにあったはずの分厚い筋肉たちは見る影もなく、大きな穴を開いていた。


「はぁ、はぁ」

無慈悲に、だが最速で対処したセカンドは能力の連続使用に少し息をきらしながら膝をついた異端者を見下ろす。

「なにか言い残したいことはある?」

「なにも……………………いや、やっぱりあったよ、くそったれ」

「………ごめん」

異端者であった少年は最後に人に戻り、そして瞳から光を失った。


セカンドは少し目をつむった後すぐに振り返り、周りの職員達の避難誘導をしているロップスの方を見る。

「ロップス、被害への対処をする前ににいるワン達を呼んできて」

「え、でもワンさんは”何があっても地下の扉は空けるなって」

「非常事態だ、頼んだよ」

「非常事態ならもう終わって………」

「終わってないよ、全然終わってない」

「何を言って………うおっ!?」

瞬間、ぱりぃん!とエントランスのガラスの扉を突き破って入ってきたのは一人の小柄な少年、だが彼が持つ威圧感はマンモスを訪仏とさせるほど大きい。


「はぁやっぱり来たね」

「来るさ、もう一度聞くぞ柊由香はどこにいる?」

「なら今度こそ言わせてもらう教えるかばーか」

「んだよ、ケチ」

むんつけたように口を尖らせる少年に対し、セカンドは身をこわばらせる。

「セカンドステッ………」

「もうは言わさない」

「がっ!!」

腹に決まった少年の掌底は鈍い痛みをセカンドに与える。


「セカンドさん!」

「早くいけぇぇ!!!!」

「っ!はい!!」

「もしかしてあのヒーローについていけば柊由香がいるのか?」

ロップスとてヒーローである、これが自分が付いていけない戦いだということは理解していた。だから今、自分にできることを、地下に行くということを実行していた。しなければならなかった。


だが明らかにおかしな行動をする一人のヒーローを少年は見逃さなかった。


「お前の相手は俺だ!!」

セカンドはぶんと腕を振る。その裏拳は少年の顔に直撃はした。地響きが起きるほどの威力を持った裏拳であったが意味は介さず頬に少しめり込んだだけだった。


「もういいよセカンド、名ばかりの第二位は下がってて、お前の攻撃は気持ちよくない」

「っ!!」

少年はセカンドの横腹に強烈な蹴りを入れ、壁に叩きつける。少年の目線の先には必死に地下に向かっているロップスの背中を射抜いている。


「行かせるかぁ!セカンドステっがっ!」

「もう、めんどくさいなぁ気絶させるか」

「少し待て」

少年が拳を握りセカンドの頭上に振り上げたとき、後ろの階段から声が聞こえてきた。


その声に反応し少年は振り下ろそうとした拳を止める。

「お前さんがほしいのはこの女だろ?」

階段を上ってきた女は眼鏡をかけ、白衣を着ている、少女と言って差し支えないほど小柄な女だった。


女は自分の体の一回りは大きいだろう柊由香をおんぶしている。どうやら彼女は気絶しているようだった。


「第十位テンヒか」

「知ってたのか、それは光栄だね」

「テンヒ!そいつは重要な人間だろ!」

「黙ってろセカンド、これは私とこの少年との取引だ」

「取引?」

テンヒが言ったその言葉に対し少年は聞き返す。


「あぁこの女はやるから今日のところは引いてくれないか?」

「なんだそんなことか、もちろんだよ俺はただ柊由香を返してほしかっただけだから」

「それはよかった」

少年のその返答にテンヒは安心ともそう言われて当然ともとれる薄気味悪い笑みを浮かべた。


「まぁそれはいいんだけどさ、なんですぐに駆け付けてこなかったんだ?あんただってヒーローだろ?」

「………」

テンヒは笑みを浮かべたまま押し黙る。


「まぁいいやとりあえず柊を俺に渡してくれ」

「あぁもちろんだ」

ゆっくりと、ゆっくりと、両者は近づく。


そしてゼロ距離まで近づいたところでテンヒは行動に移した。


ポケットにしまっていた右手を出したかと思えばその手に持っている針で少年の喉元に向かって突き刺した。


と、思っていたのはテンヒだけだった。


「ははっ流石ヒーローだ、その根性はすごいね、まぁ今日はもう帰るから安心していいよーじゃあねーーーまた来るねー」

いつの間にか柊由香をかつぎながらエントランスの出口にいた少年は多るように声を張り上げ、その場を後にした。


「二度と来るな、まじで………」

ばたんと背中から倒れたセカンドはボロボロになった天井を見つめる。


「大丈夫かーーー?」

「大丈夫に見えるかー?はぁ、明日から10日間は休暇がほしい………」

「まぁあと少ししたら救護班が来る、それまでの辛抱だな」

「ところでよー、テンヒ………てめーなんでポン・カーネの身柄を引き渡した?あれは俺らにとって重要なだったろ」

「あぁあの人形のことか」

「あ?人形?」

「ふふっやはりわかっていなかったか、おーい出てきていいぞー」


「あーもうほこりくさいったらしょうがないねーここは、あとで大掃除しなきゃねー」

階段を一生懸命上ってきたのはまだ年端もいっていないような少女だった。


長い髪をサイドテールにまとめており、あまりにロリ要素が強い少女だ。


「確か君は………」

「ヒーロー名”リー・テイル”ねー、中国人っぽい名前だけど生粋の日本人ねー私がポン・カーネに似せた人形を作ったのねー」

「そうか、あれは人形だったのか、よくできている」

「ほめられたのねーうれしいのねー」

リー・テイルは体を横に揺らし、褒められた喜びに打ちひしがれている。

「それにただの人形じゃないぞ、体温、怪我、呼吸音、そのすべてを模倣した人形だ、まぁ10日もすればこわれてしまうし、ずっと気絶した状態だけどね」

テンヒがまるで自分の事のようにリー・テイルの能力の紹介をする。そして喋っている間にもリー・テイルの頭を撫でまわす。自分より小さい体の存在がうれしくてしょうがないのだろう。


「でもすまないねーリーに人形制作を頼むのにちょっと時間がかかってしまった」

「そんなのまったく気にしない、あの化け物を追い払ってくれてありがと」

「ははっどういたしまして」

セカンドとテンヒは笑いあう、寿命が十日伸びただけという事実を押し殺して………。














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