第12話 それを人は革命という

「はぁ!?革命軍をやめるぅぅ!?」

目の前にいるセカンドに気を配りながらかかってきた電話に答える少女はその電話相手である暗殺者”アサシンズ”の突然の脱退宣言に驚愕していた。

「ちょっと待って、それどういうこと!?」

『すいません、でも俺は絶望を見てしまったんです、仕方がなかったんです』

電話越しに聞こえてくる彼の声は疲弊しきっていて、いつもの語気の強い彼ではなかった。

「それはどういう………」

『あれは化け物です』

つーつーとそこで電話は途切れてしまった。

「ちょっ、まだ話は!」

もう一度少女は掛けなおしてみるものの、その電話に彼が出ることはなかった。

「どういうことよ!!!!!!」

少女は顔を真っ赤に染め上げ、持っていたスマホを思い切り地面に投げつけ、たたき割る。見るも無残な姿になったボロボロのスマホを少女は足で何度も踏みつける。何度も、何度も、自分の悔しさをスマホにぶつけた。その光景は八つ当たりでしかなかった。


「はぁ、はぁ、はぁ」

もはや見る影もないほどぐちゃぐちゃにされたスマホを憎らしく睨んだ後、セカンドの方に目を向ける。

「………」

「なによ、その目は………」

セカンドの言葉を聞きたかった少女は自分の耳と口を再びペットボトルの中に入れる。

「いや何、あの化け物は殺せないし、俺には負けるしで大変だなって思っただけだよ」

「はぁ?この状況で勝てるとでも思ってるわけ?」

少女はより一層眉を顰める。

「勝てるさ、俺はセカンドなんだから」

異空間で行われている会話は存外つつがなく進んでいく。

「じゃあやってみなよ」

「あぁめんどくさいけどちょっと本気を出すよ」

「言ってろ!カスが!」

ペットボトルから自分の口と耳を取り出して元に戻した後、足に力を入れた少女は超スピードでセカンドの眼前にせまり、拳を突き出してくるかと思いきや死角からのフェイントの蹴りを繰り出す。


「………」

セカンドは完全なる死角からの攻撃を経験と勘でよけた後、ほんの少し右手を伸ばし少女の髪の毛についているペットボトルを引き抜いた。

「それを返せ!」

焦った少女は蹴り上げた足をかかと落としの要領でセカンドの脳天めがけて振り下ろした。

「もう遅い、”セカンドステップ”」

セカンドの瞳が朱色に染まったかと思えば一瞬にして周りの時が静止した。10秒間の時間停止、それは確かに短い時間かもしれないがセカンドにとっては十分な時間であった。


「これ見よがしに使ってるペットボトル、怪しまない方が不自然だ」

時が止まった世界でただ一人、セカンドだけが少女から奪ったペットボトルをお手玉にしている。

「でもよかった、本当にこれが能力の解除条件で」


彼女の能力は彼女が髪の毛につけているペットボトルを奪われた対象(今の状況ではセカンド)が逆に奪うか一定時間彼女から目を離せば解除される。


「じゃあ拘束させてもらう」

セカンドはポケットからロープを取り出し、十秒という短い時間で少女をがんじがらめに縛って見せた。その後少女を地面に伏せさせその胴体の上に腰掛ける。


「はぁ、めんどくさい、事後処理とかほんとめんどくさい」



場所は変わりホロウ株式会社本社の地下では治療するために縛られている一人の少年がいた。

「僕がっ!僕がっ!僕が主人公だっ!主人公なんだ!僕が革命を起こすんだっ!」

「落ち着きなさい!」

ワイヤーを何重にも重ねられ縛られる少年はなおも腕や足を必死に動かし暴れ続ける。それを止める治癒ヒーロー”バレント”は睡眠薬を無理やり口に入れようとする。


それを少年は顔を振ることでなんとか口に入れないように頑張るが、ただの一般人である少年が治癒専門とはいえヒーローの力に勝てるわけなく結局口に鎮痛剤を入れられてしまう。


「あが、が………」

少年はしばらくしてぱたっと動かなくなった。バレントはその少年の姿を見てようやく胸をなでおろす。

「まったくなんだっていうのこれは、ロップスに頼まれたこととはいえ逃げ出したくなるわね」

近くにあったパイプ椅子を自分の足下に持ってきて座る。彼女の艶やかな黒髪は綺麗にポニーテールにまとめられている。その髪を手で払いため息をつく。


「こんなイカれた子、始めてみた」

長年患者を診てきているバレントをもってしても目の前ですやすやと眠っている少年は異常としか言えなかった。

「その左目、治してあげ………」

彼女がなくなっている少年の左目に右手をかざしたとき、医療室を深い霧が包み込む。

「なにがっ………」

バレントは警戒して立ち上げる。パイプ椅子がけたたましい音を立てて転がる。しかし警戒むなしく首に強い衝撃を受けたバレントは力なくその場に倒れる。

「すいませんね、無礼な行為だとはわかっているんですがこちらにも事情というものがありましてね」

濃い霧の中でうごめく人型の影は診療台にしばられているバレントの口に生々しく血がついた人間の目を入れる。

「さぁ最終実験の時間です」

「が、が、がっ!!!!が、が、が、がっ!!」

すると少年の体は睡眠薬で深い眠りについているにもかかわらず跳ねるように鼓動する。どくん、どくん、どくんと心臓の音が部屋を満たす。


「さてどうなる?」

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」

けたたましい叫び声が部屋の壁にひびを入れる、ばき、ばきと部屋のひびは広がっていき、限界を迎えた部屋はついに崩壊した。

「はははっ!成功だ」

影は笑う、野太い声ながらその調子は少年のように明るかった。

「がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

少年はワイヤーを引きちぎり、治療台の上に立ちそして大きく跳躍した。

バンッと一瞬にして治療台をぼろぼろにしながら天井に大きな穴を開け、上の階に姿を消した。

「さぁどうする、ヒーロー?」

影はにやりと邪悪に笑った。



(なんなのこれ!今私何された!?なんで縛られて………)

「むーむっーーーー!!!」

少女は必死に手足を動かすが縛られた状態なのと上に乗っているのがセカンドということも相まってその抵抗は無駄に終わった。


「俺は自分のことを強いと思ってたんだよ」

(なに?なにか話し始めやがった、それよりもこの状況を抜け出して………)

「だがあの少年を見て、その強さを体感して理解したよ俺は弱いんだなって」

セカンドはでかくため息をついてから続ける。


「俺は時を止めて君たちが狙ってる少年をひたすらにもとの状態に戻すという作業をしていたんだけど、その作業すら並みの悪人と戦うより疲れたよ」

(こいつさっきから何を自分語りしてるんだ?)

「少年は”重かった”時を止めた状態でなんの抵抗もなかったのにも関わらずまともに扱えないほど重かった」

セカンドは立ち上がり、縄で縛っている少女を片手で持ち上げ、自分の顔の前に少女の顔を持ってくる。


「悔しかったよ、俺には手の届かないやつが現れたことが悔しかった、けどなぁよかったお前のおかげで俺は自信が持てた、やっぱ俺まだまだ強いみたい」

にかっと屈託のない笑みを浮かべたセカンドだったがそれは少女にとって煽り以外の何物でもなかった。


「むーーーーーーーー!!!!!」

顔を真っ赤にして抵抗する少女をせせら笑うセカンド、その瞳には強者としての余裕が垣間見えた。

「あ?何言ってるか全然聞こえないぞー?………なんだ?」

どこかの議員がやっていたポーズをしながらさらに煽る。だが余裕をこいていたのもつかの間、いつの間にかセカンドの周辺を深い霧が包んでいた。セカンドは少女の持つ手の力をさらに強め”ファーストステップ”を使用する。彼の瞳が青く染まる。


高鳴る鼓動を無理やり押さえつけて、状況の把握を行う。

(この霧に乗じてこいつを奪うつもりか?それとも革命軍の追撃か?)


「すいませんね、うちの子が迷惑かけちゃったみたいで」

「っ!!?」

霧が晴れたかと思えば右手に持っていた少女は神隠しにあったように消えていた。見上げると貯水タンクの上にはシルクハットをかぶり、タキシードに身を包んだ紳士のような男がいた。


セカンドは警戒して足を一歩引く。


「お前、何者?」

「おっとそうだったそうだった、失礼名乗るのが先でしたね、私は革命軍第6支部の長”クイックリンパサー”です、以後お見知りおきを、ちなみにこちらのは第七支部幹部”朱里”、ぜひ覚えておいてください」

「あっそじゃあお前も捕まえる、セカンドステッ」

「おっといいのかな?君は下の事をロップスに一任したみたいだが本当に大丈夫か?」

紳士服の男がぴっとセカンドのズボンのポケットを指さした瞬間、ぷるるとポケットにしまっていたスマホが鳴る。その音を無視しながらセカンドは紳士服の男を睨み続ける。


すると下の階からけたたましい轟音が聞こえる。


「……次は絶対に捕まえる」

セカンドは歯ぎしりをして紳士服の男を睨みつける。

「ふっ、ではまた会いましょう、、ね」

「むーーー!!むーーー!」

「おっと、と流石に無茶が過ぎるぞ朱里」

朱里とわちゃわちゃしながら霧を出した紳士はその霧の中に消えていった。






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