第4話 ヒーロー
「なぁもっとくれよ?」
「っ!!?」
突如感じた違和感、思えばこの人間はこの第八支部に侵入してきてから一度も能動的に攻撃を仕掛けていない、いつも受動的に攻撃を喰らっているのもかかわらず何もしない。
「あなた、何をするつもり?」
「あぁ?いや何俺は「かはっ!」と言いたいだけさ」
男は崩壊した瓦礫をどかしながら、揺らめくように立ち上がった。
「「カハ」?何よそれ」
そんな言葉聞いたことがなかった、私の記憶の中にはそんな言葉は………いや待てよ確か江戸時代の日本では自分を鼓舞するために「カハ」という言葉を発していたという。(嘘)
そうか、この男は自分のやる気を出させる存在に会うためにここまで来たというのか。
「「カハ」ってそういうことね」
一呼吸おいてもう一度口を開く。
「あなた、とんだイカレやろうね」
「そんなことはどうでもいい、早くもっと強いやつかましてこい」
男は眉毛を斜めにして煽るように、そして挑発するように掌を動かす。
さっきの29個分の空気の塊に意志を込めた一撃は間違いなく今私ができる最高の一撃だった。だというのにこの男まるでほこりを払うかのように平然と立ち上がっている。
訂正をしよう、今この状況において圧倒的有利なのは私ではなくこの男だということを………チャレンジャーは私だということを。
「いいわ、私も覚悟を決める」
私の全部をこの男にぶつけてやる。
「いいねぇ」
「どこまでも人を小ばかにしたようなその笑みがどこまで続くかしらね!!」
空気隗を29個から10個に減らし、それらを散弾銃のようにして男の体に当て続ける。
ダダダダッ!!とコンクリの地面をえぐり取る勢いで飛び出した空気隗は確実に男の体に命中している。だというのにこの男、まるで意に介さない!!
「普通はもう死んでるのよ?この化け物め………」
「なぁ俺かも攻撃していいかなぁ?」
「っ!!」
その言葉を男が言い切るよりも先に男は私の背後にいた、見えなかった、何も………
「がはっ!」
音速、音を置き去りにしたその突き出した拳はなすすべなく頬に当たる。歯の奥にまで響く鈍い痛みが走りながらも私の体は二転三転して壁にぶつかり追い打ちのように激しい痛みが伴ってくる。
瞬時に立ち上がり、自分とは反対方向の壁に向かって走る。
「まだだ!」
「いいじゃないかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
10個の空気隗をまとめて男の腹にぶつける。当然まるで効かないだろう。でもいいのだ、狙いはこれではないのだから。
男が接近して、私の目の前まで来た瞬間に19個の意志を解除する。
「死に腐れ」
最初からまともに戦うつもりはない、壁から作られた大量の瓦礫を天井で浮遊させ、ジャストのタイミングでこの男の頭上に落とす。
この量の瓦礫の重さともなれば意志19個程度じゃ自在に操ることなんてできない、だから待った、この男がこの場所に来るまで。
「落ちろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「なっ」
まるで意表を突かれたといわんばかりに目を丸めて上から落ちてきている瓦礫を眺める。
しかし、その顔には笑みが浮かんでいた。まるで余裕だと言わんばかりに………
・
「なっ!」
そうか、あの
俺の視界を埋め尽くすほどの瓦礫に思わず笑みがこぼれてしまう。今までにない戦いがこの先に待ち受けていると思うとにやにやが止まらないというのも無理な話だ。
頭の上で両腕を交差して瓦礫を受け止める。圧倒的量によって落とされた瓦礫によって地面は崩れ俺は一直線に落とされていった。
10秒ほど瓦礫とともに落ち続けていると強い衝撃を背中にくらい、俺は地面に激突した。
「ふむ、ここは………」
頭にかぶった瓦礫を手で払いながら起き上がり、あたりを見渡してもこの場所には何もなかった。いや何もないというよりあったものをなくしたような無機質な場所だ。
ここは廊下だろうか?部屋の扉らしきものがいくつも立ち並んでいる。
そのどれも重厚な鉄の扉だ。………気になるな。
「開けるか」
男というものはこういう謎に威圧感のある扉を目にすると目がないのだ。
迷いもせず鉄の扉のドアノブに手をかけ、そしてひねる「キィ」という鉄と鉄がすれるような金切り音を響かせながらゆっくりと開く。
「………ここは」
「臭いな………とんでもなく」
そこにはありえないほど壁に染みついた赤黒い血に吐き気がするような腐乱臭がこの部屋にはあった。あまりの嫌悪感に思わず眉をしかめる。
「早くここを出るか」
鼻をつまみながらも振り返り部屋から一歩乗り出そうとしたとき。
「ん?」
こつんと俺のつま先に何か肉塊らしきものが当たる。見るとその死体は目が零れ落ち腐れ切っており、唇は乾燥していてしわしわになっている。
この人達は魂を抜き取られた人達か………
「………」
俺は死体を踏まないようにまたぎながら部屋からでる。
「はぁ、おい早くかかってこいよ、ポン」
『言われなくてもわかっている、本気でいくぞ』
壁の隅にあるスピーカーからポンのいやらしい声が聞こえてきた。それと同時に空気塊が俺の体を落とす。
横腹にぶつかったその空気塊には攻撃の意志はないように感じた。そう、攻撃というより俺を移動させている?
ふと移動させられている方向を見ると、その先には扉を開けた真っ白い部屋が待ち受けていた。
空気塊に投げ出されるように俺はその真っ白い部屋に入った。
すぐに立ち上がり部屋の内装を見るとまるで隙間もなかった、そして物も置かれていなかった。あまりにも歪な10畳ほどの大きさしかない部屋だ。
少し時間がたつと部屋の扉は締まった。
けどそんなことはどうでもいい………
「おい、次は?」
『焦らないで、ちゃんと用意しているから』
再び聞こえてきたのは勝ちを確信したような余裕が伺えるような声だった。こいつ監視室にでもいるのか?高見の見物のつもりなのだろうか。
「なら早くしろ」
『行くわよ』
また馬鹿の一つ覚えのように空気塊を俺にぶつけてくる。何度も何度も繰り返し無意味なことをしてくる。
「………おいもういいか?」
この部屋にあるだろう監視カメラに向かって威圧的に声を発する。
『ちょ、ちょっと待ってなさい』
焦ったように空気塊を操作したらしいポンは空気を一つの塊にして俺にぶつけてきた。
巨大な空気隗は俺にぶつかるものの、瞬時にはじけ飛んだ。
「………」
その後も同じことを繰り返し、再び無意味な作業に入った。
10分ほど経っても変わりようがなかった。
「もういいな?」
『えぇもういいわ』
「あ?」
今までにない返答に思わず聞き返してしまった。
「っ!?」
すると突然俺の視界が揺らいだ。手が二重で見えてくる。立っていることすらできず膝から崩れ落ちる。
「………力が入らない」
なぜ突然こんなことになって………オレンジジュース、100人乗っても大丈夫なかおさきバイク、4回転アクセル。あぁくそ思考がまとまらない、過去の記憶が混濁してくる。
「くっそ………」
・
ポン・カーネが監視室で侵入者の男が膝をついたのを見て一度目を離した。
「ポン様、大丈夫なの?」
物陰から出てきた影野が上目遣いでポンを見つめる。
「えぇもう大丈夫、あの部屋からはもう酸素を抜いているから」
その声に振り返り猫のように震える影野の頭に手を乗せる。
「酸素を?」
「そう19個の意志を使ってあの部屋の空気を抜いていったの、だからあいつは空気がなくなった部屋で体中の酸素をなくしていき、ぶっ倒れたってこと」
「えへへ流石ですねポン様」
「………ありがと、影野君」
「君?」
「あ、いや!影野」
慌てるように両手を横に振って訂正する。
その後すぐに影野の頭に手を置いて優しく口を開く。
「ねぇ、この戦いが終わったらさ、また二人で………」
「ひゃっはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「え、今の………」
ポン・カーネが何かを言い切るよりも先に壁の向こう側から野太い声が聞こえてきた。その声が影野とポン・カーネに届いた数秒後に壁は横から破壊され、大量の瓦礫が二人を襲った。
「ポン様!」
「影野君!?」
その異常事態に対してポン・カーネは何もできずそれを見ることしかできなかったものの影野は自分の主人を守るために体全体を使ってポンをかばった。
それを最後の光景に彼女の視界は瓦礫で埋め尽くされた。
「ひゃは?あらあらあら?異端者野郎がいねぇなぁヒーローが来たっていうのによぉさみしいぜぇ」
巨躯、筋骨隆々とした腕は成人男性一人分は入りそうなほど野太い。鋭利な犬歯は破られた壁の穴から差し込む月光に反射し妖しく光る、まさに化け物がそこにいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます