第3話 可能性あり

「よぉ」

「ん?誰だお前」

「ふっ知らなくていいさ、どうせお前はここで死ぬ」

「あそ」

なんかイカ臭い部屋に来たなって思ったら、前の階段からなにやらごつい男の人がおりてきた。


俺を威嚇するようにふらふらと落ち着きがない足取りで近づいてくる。直感で分かったこいつは俺をなめていると。


「さて遺言を聞こうか」

大柄の男が余裕しゃくしゃくといった表情で大口を開けてしゃべる。


こいつすごい………


「まぁここで死ぬから聞いても意味ないか!」

ははぁっ!と息巻きながら加速した大柄な男はなかなか早い速度で俺に近づいてくる。

「ブラッティソード!!!」

手刀の形を作って俺に切りかかってきた、それはそれは力強く、顔をタコ口にしてまでふんばりながら腕を振り下ろしてくる。


こんなに頑張ってるんだしためしに喰らってみるか。


「どりゃぁぁぁぁぁ!」

激しい雄たけびと共に俺の顔面にその手刀がクリティカルヒットした。



「やったか?」

モニター室からいかにもフラグ臭がする言葉を発したポン・カーネは心配そうに眉をゆがめて、勝負の行く末を見守る。


「え?なにこれ、今までで一番痛くないんだけど、君本当に改造人間?」

再びサングラスをかけた。

「………っ!!!?」

ヨー・ヘイの毛穴という毛穴からぶわっと脂汗が噴き出す。


それもそうだろう彼の能力は対改造人間最強の能力だ、その内容はその手刀を振り下ろした相手が改造人間だったとき、相手の装甲など関係なく理不尽に両断できるものだ。


油断してしかるべきと豪語できるくらいには強力な能力、だが今回ばかりは相手が悪かった。


「これで本当に終わり?」


この男、改造人間ではないのだ。イかれた過剰なトレーニングによって作り上げられた単純に屈強な体を持ち合わせた一般人なのだ。………正確には違うのだが。


(なんだこいつは!?なぜ俺のブラッティソードを喰らってこんなにぴんぴんしてやがる)

「ふざけるな、俺のブラッティソードがこんなガキに効かねぇはずがなぇ」

「さっきからなんの話?ボランティアソース?」

「ブラッティソードだ!くっそこのガキ絶対に殺してやる!」

もう一度腕を振りかぶり右手の指に血管が浮き出るほど力を込める。


(これが全身全霊最後のブラッティソードだぁぁぁぁぁぁっ!)


「はえ?」

そこでヨー・ヘイは自分が心の中で叫んだ言葉に違和感を感じた、”最後の”?自分はなぜそんなことを思ったのだろうか、しかし振り下ろした腕はもう下すことはできない。


「うっとうしいなぁ」

威圧、見た目の年齢で言えばおよそ20歳にも満たないような体躯をしている青年から放たれたその悪寒はヨー・ヘイの体を震わせた。


青年は拳を強く握り告げる。

「じゃあな」

(あ、そうか俺はこの少年にびびっていたのか………)

死に際で出た答えに妙にすがすがしい気分になりながら、目をつむる。


「がっ!!」

腹がねじ切られんほどの威力で放たれたその拳はヨー・ヘイの大柄な体を数十メートル吹き飛ばした。


三回ほどバウンドして壁に叩きつけられたヨー・ヘイはうなだれて壁に寄りかかりながら気絶した。


それを目の端でとらえながら青年は涼しい顔でその横を通り抜けていった。


(すごいかませ犬みたいな人だったな)



「ポン様!ヨー・ヘイが倒されました!」

「知っている!!だぁぁぁくっそ!!やってやる、この私が出る!十影衆、ついて来い!」

イラつきにより髪をかきむしりぼさぼさになった髪を手櫛によって整えながら怒号を飛ばす。


「「はっ!」」

瞬時に天井から現れたのはここ第八支部においてポン・カーネを除いた最強の10人、”十影衆”彼らが成し遂げた悪行は数知れない、政府の重要資料の窃盗、一般人の大量殺人、軍事施設の破壊、彼ら一人一人は戦車一台分の戦力があるという。


「「我らにかかればあのようなもの、瞬殺してみせます!」」

いかにも自信ありといった表情で口角をあげた黒ずくめの男達はフラグのようなものをきちんと立ててからポン・カーネよりも一足先に青年がいる階に向かっていった。


「ポン様僕はずっとここにいていいんでしょうか?」

物陰から出てきたのはもやのように霧がかった顔をしている少年、影野瑛斗が自信なさげに顔だけをちらつかせ、物憂げにポン・カーネに尋ねる。


「影野くっ………影野、お前は引き続きそこに隠れていなさい」

「けど僕も戦えます、ポン様のために僕も………それにこうなったのは僕のせいで」

「だめ、あなたはそこにいなきゃいけないの」

「ポン様………わかりました」

少し悲しそうに霧を揺らしながら影野は再び物陰に身を潜めた。


影野がちゃんと隠れたことを確認してから「ふぅ」とポン・カーネは短くため息をつく。


「もう許さない、私のプライドにかけてこの城を崩してでもお前を絶対に殺してやる」

ポン・カーネがびしっと人差し指で指した先にはモニターに映った電動ノコギリで歯を磨いている青年の姿が映っていた。



私の人生は最悪だった、金のない家で生まれ学校から帰ってきても出されるおかずは三分の一のもやしのみ、ごはんは10年前におじいちゃんにもらった1キロの米俵の内の10粒だけをコップの中に入れて、隣の人が捨てた新聞紙を盗み、木の棒でこすり火をつけて2時間かけて米にする。


トイレなんてまともにした方が少ないだろう、築200年の私の家は下水道の整備がされておらず、排泄物の処理は自らでやらなければならない。


もちろん風呂なんて使えないから毎晩山にいってシャワーを浴びる、最初は熊などが怖かったが三年もすれば熊と仲良くなって、いつの間にか私の癒しとなっていた。


学校の給食で余ったパンやごはんは誰にも見られないように盗む、おかげで盗みの技術だけは上がっていた。


けど、そんな日々に納得していたわけじゃない、私だって普通に恋愛したいし、おしゃれもしたい、けどぼさぼさの紙の私を好きになってくれる人なんていないし、オシャレをするお金もない、ふざけるな、なんで私だけ………


そうして私の心は歪んでいった、だからだろう、私が異端者となってしまったのは………


「………お姫様になりたい」


そうだ私はずっとお姫様になりたかったんだ、この地獄から救ってくれるような王子様に憧れていた、情景を抱いていた、でもそんなものはなかった。


だからのしあがった、王子様なんて理想なんて捨ててここまで上り詰めた。


「そんな血反吐を吐くような努力をこんなところで無駄にするわけにはいかないのよ、おわかりかしら?」

「はっ!悠長に話してくれてどうも!けどいいのか?こいつら、もうへとへとだぜ?」

「まぁでしょうね」


まさに圧倒、第八支部最強の十影衆だとしてもこの青年にまるで歯が立っていなかった。彼らが出す腕を切るための刃は彼の強靭な皮膚の上ではまるで効く様子がなく冷や汗を流し、目つぶしのために繰り出した万物を貫通させるはずの指は瞬きで止められ鼻水を垂らし、全てを破壊するはずの拳は鼻をほじりながら止められる。


いつの間にか彼らは戦意を喪失し、死ぬわけでもないのに命乞いをしていた。


「すいません!我々、あそこのポンカーネ様に命令されてやっただけなんです!なのでどうか許してください!」

「とか言ってるけど?」

「そうね、たしかに事実よ」

ポンカーネは飄々としながら横の髪をかきあげる。そこには獣のような荒い毛で覆われていた雄々しい耳があった。


「随分と余裕そうじゃないか、がうまく行ってないのに大丈夫そうか?」

「あら、私の能力を知っていたのね」

「あぁ、影野瑛斗について調べてたら大方の予想はついた、さっきの自分語りもだいたいが嘘なんだろ?」

「そうよ、さっきの話はあなたの同情を誘うためだけの話、けどもうばれてるなら隠す必要はないか、

彼女がそう言うと、傍にいた十影衆の体から霧のようなものがあふれ出しはじめ、まるで本物の人の体に見えていたはずの十影衆の体は模型人形だった。


からんからんと乾いた音でその場に転がる。


オペレーター室にいた監視者たちも十影衆と同じように、力ない模型人形になり果てていた。


「あんたの能力は”意志の付与”だろ?」

「正解、よくできました」

彼女はパチパチパチといかにもわざとらしくやる気のない擬音とともに手を叩く。


「でもよくわかったわね」

「わかるさ、5年前にの影野瑛斗が今生きてるんだからな、とどのつまりこの第八支部はあんた一人だけのなんだろう?」

「そう、あなたは考えなしの馬鹿だと思っていたことは訂正した方がよさそうね」

「えー、そんなこと思ってたの」

心外だともいわんばかりに肩を落として、ため息を吐く。


「えぇ、けど今でも考えだけはある馬鹿だとは思ってるけどね!」

はぁぁぁぁっ!と意気込みながら掌を勢いよく突き出す。


彼女は有機物無機物関係なく意志を付与できる、付与できる数の上限は30個であり、その意志は生きた人間から取り出される魂を使う必要がある、意志は何もしなければ生前の人間のままだが彼女はそこに忠誠心を足すことができる。


しかし一度付与した個体にもう一度意志を付与することはできない。また意志を付与した個体が死ねばその意志の回収をすることはできない。


意志を付与するときその重量によって使う意志の数は多くなる。例えばトラックほどの巨大なものには20個分の意志を使う必要がある。


さらに意志を付与させるための個体が人型に近ければ近いほど忠誠心を加えるのが難しい。


そこで彼女は忠誠心を加える必要がないほど人からかけ離れ、それでいて重さがない空気自体に意志を付与し操ったのだ。


29個の空気の球、無限の加速によって繰り出されたそれは果てしない威力となり、その不可視の速攻は青年の腹に直撃した。


「かはっ!」

青年は息苦しそうに短く息を吐く。みちっといやな音が青年の腹から鳴る。なんとかこらえようとしていたが願い叶わず、青年の体は後ろの電動ノコギリを破壊しながら後ろに吹き飛ばされた。


「さぁ命乞いでもしたらどうかしら?」

「………いい」

「え?」

「お前、いいぞ」

「っ!!」


完全に優勢なはずのポンカーネがなぜか後ろ足を引く。


(何!?この異質な存在感)


瞳孔を大きくして青年の一挙手一投足を見逃さないように目をこらす。つまる息をなんとか吐きださないようにこらえる。


「なぁ、もっとくれよ」














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