第2話 ピンチなら作ればいいじゃない
「なぁなぁ、昨日路地裏で起きた爆発事件のこと知ってるか?」
「あぁあの人はいい感じだったよね」
「は?何目線なの?」
ガヤガヤとうるさい教室のすみにある俺の机に問答無用でケツを押し付けながら座っている俺の友人と今日も他愛のない話をする。
「なんだお前知ってたのか、んーでもこれは知ってるか?」
「これは……」
友人が見せつけたスマホに映っていたのは昨日会ったお姉さんとサングラスとマスクをつけた不審者だった。
……俺だ。まさか撮られていたとは。
「たまたま通りかかった人が撮ったらしいんだけど、一瞬YouTubeに乗ったかと思えば数十秒後にはもう消されてた、何かの陰謀があるとは思わないか?」
「気にしすぎだろ、大抵こういうのは著作権的ななんかだろ」
「そうか、俺はそうは思わないけどな、多分鍵を握ってんのはこのいかにも弱そうで変態で気味の悪いサングラス野郎だぜ」
全くこうなるとこいつの話は終わらなくなる、後、次俺の事を罵ったら見えない速度でつむじの髪の毛を抜いてやる。
「んでなぜそう思ったかと言うとこのサングラス野郎この美人な姉ちゃんの巨大な光線に耐えやがったんだ」
「まぁあれは惜しかったな」
「さっきからお前誰なの」
冷たい視線を俺によこすが「まぁいいや」と気を取り直してもう一度口を開く。
「だから俺はね、この変態仮面のことを追求していきたいと思う!!いてっ!」
言ったよな?次に変なこと言ったらつむじの髪の毛抜くってよ、まぁ勢い余って5本くらい抜いちゃったけど、誤差だろ。
「え」「え?」とその場でつむじを手で撫でている友人をよそに俺は窓の外から見える巨大な入道雲を眺める。
一応言っておこう俺はマゾではない、ただピンチになりたいだけだ。
だがまぁ確かに昨日のは少しピンチとは言いがたい結果だったかもしれない。
明らかに実力に差があった。
これは持論だがピンチとは俺も抵抗しながらも為す術なく、ボロボロの状態になることだと思う。
ではどうやってピンチになればいいのだろうか。
ヒーローのことを殴る訳にはいかないしな。
などと考えていると、校門の前にこの社会に革命を!異端者に人権を!と書かれている札を持った異端者達がぞろぞろと侵入してきた。
「はぁ、全くまたか……」
次の授業の準備をしようと資料を整えていた先生が頭を抱える。
そうか、これか!!!!!
・
3週間後
太陽は沈み、月明かりが強さを増していく、街灯の光が寂しそうに道路を照らす。
昼は賑わっていた商店街も今では飲み会帰りの酔いつぶれたおっちゃんが時折歩いてくるぐらいしか人通りは見られない。
夜、それは悪巧みを行う上で一番都合のいい時間帯。
「ヒック、うぇー、ヒック」
ここに千鳥足で焼酎瓶片手に商店街を歩くハチマキをつけた一人の中年のオヤジがいた。
「え、なんだこれ………」
どこにでもいる普通のオヤジ、だが今日ばかりは彼に運がなかったとしか言えないだろう。中年のオヤジの影からぬっと出てきたのは、一つの影。月明りに照らされているにもかかわらず具体的な顔形がわからない、もやのような存在、まさに異形。
現れた影がすっと出した手で覆われたオヤジの体は瞬く間に闇に染まり、そして消えた。
「これで3人目………」
「元気ぃ?」
「何者!?がっ!」
煽るような口調が聞こえたと思えば、影の男はなんの前触れもなく頬を殴られた。遅れて「ぱぁん!」と音が鳴る。
「ぶっ、がっ、だっ」
影の男は二転三転しながらガシャーンと商店街のゴミ箱に体を打ち付ける、衝撃で飛び出たゴミ袋を頭にかぶる。
「くっそ一体何が………」
痛む頬を左手で抑えながら右手で頭に乗っかったゴミ袋をどける。殴られた方を見るともう夜だというのにサングラスとマスクをつけた青年?が立っていた。
「君さぁ異端者集団の革命軍でしょ?こんな夜に何してんの?」
「お前は誰だ?」
「質問してんのはこっちなのに、まぁいいや俺名前はこくう、以後よろしく」
さっきの問答無用の殴りとは打って変わって、まるで執事のように綺麗で丁寧な所作のお辞儀をする。
「ところで君は一体何をしてたの?」
「お前に言う必要はないだろ」
「そ、ならさっきの黒い雲みたいな能力、俺に当ててみてよ」
大仰に手を広げ、さぁどうぞとでもいわんばかりの余裕を見せる。
(………挑発だ乗るな俺、こいつはなんかやばい、俺の全神経が全力で逃げろと警鐘を鳴らしている)
体をこわばらせ、ひそかに黒の雲を背後に作り出す。
「ん、どうした?やらないのか?なら逃げてみろよ、その黒い雲でさぁ」
「はっ、なんだ随分と俺のこと知ってるみたいじゃねぇか」
「知ってるさ、君は革命軍第八支部秘書”
「光栄なことだなぁ、そんなに知ってるなんて」
「そして出生体重3000グラム、出生時の言葉は「はがっ!」、イチゴのショートケーキ好きでありながら、「自分は影だ」という謎の理由であまり食べない、さらに我々が行った独自の調査では好きになった由香ちゃんにかっこつけたくて飲めないブラックコーヒーを無理やり飲んでいる、と………」
「そこまで知ってるの!?」
この急なカミングアウトに影野は動揺を隠しきれない。
「あぁ、独自の調査でな」
「独自の調査の汎用性多分そんなにないぞ、というかお前一体どこまで知って………」
「え、聞きたい?」
「………いやいい」
少しむんつけたように口をすぼめて答えた。中学生である影野はまだまだ多感な時期である、恥ずかしい話をこれ以上されたらたまったものではない。
「ところでお前はヒーローなのか?」
影野は心を落ち着かせ、もう一度黒の雲を生成しだす。
「いや違うぞ」
「じゃあなんなんだよ」
「え、なんなんだろうね」
「はぁ?」
サングラスの男はとぼけたような顔をして首をかしげた。
(あと少し、あと少しだけ時間を稼げ)
「じゃ、じゃあお前はヒーローに憧れてたりすんのか?」
「いんや別に人助けに興味があるわけじゃない、俺がここにいるのもただ君がいたからっていう理由だけさ、さっきのおじさんも助けるつもりはないよ」
「………じゃあお前の目的は………」
「うん、第八支部への襲撃さ」
「っ!」
完成した黒い雲に向かって地面を蹴り、急いで入る。
(まずっ!)
急ぎ黒い雲を閉じようとしたが、次元を超えた超スピードによって接近された影野は対応できずに雲の中にサングラスの男をいれさせてしまった。
「くっそ!」
「お邪魔しまーす」
・
革命軍、改造人間にする技術が確立され、一般化されてまもないころに発足した集団のことで、改造によって異形の姿になってしまった人間が社会への反発のためにデモ活動やもっと悪いことを行っている噂もあるという。
支部は東京だけでも八個と本部が一個建設されており、1支部ごとにそれぞれ幹部がその場を仕切っている。
そしてここは第八支部、どうやら今日は大変なことになっているみたいです。
「くっ、一階の罠はちゃんと起動しているのか!?」
長い髪の毛にゆるふわ縦ロールをばねのように跳ねさせながら、狐の耳を左右にゆらす。
彼女は第八支部幹部ポン・カーネ、普段はお嬢様口調で話しているものの今回だけはその余裕はなかった。
2分ほど前に帰ってきた影野が連れてきた対象H,影野の機転でワープ位置を一階にすることに成功できたのはいいものの、その強靭な力は侵入者を殺すために設置した罠の数々を次々に壊していった。
全階に取り付けられている監視カメラがとらえている映像を見れるモニターには電動ドリルなどを素手で破壊しているサングラス男の姿があった。
「起動しているようですが、対象Hは全く意に介していません!」
モニターを監視していた職員がそう答えを返す。
「クッソ!化け物め!」
「対象H、二階に到達!”ハサミギロチンの間”に入りました!」
「この八階に来るまでどれほど時間が稼げるか」
ポン・カーネは人差し指を噛み、これからの展望を考える。
(本部への救援要請は済ませた、救援が来るまでおよそ20分、耐えられるか………)
「ハサミギロチンの間の様子はどうだ!?」
「はっ!対象Hは現在、100個のハサミギロチンを全て起動させながらほふく前進で進んでいます!ハサミギロチンは対象Hの形に会わせてひしゃげてしまっています」
「はぁぁぁぁ!?」
信じられない報告にポン・カーネは今までにだしたことがないほど大きな声を出した。
「対象H!三階”毒沼の間”に侵入!」
「次こそは止まるといいが………」
ポン・カーネは心配になりながら震える瞳でモニターを眺める。
「対象H!服を脱ぎ捨て毒沼の間をまるでプールかのように泳いでいます!」
「っ!毒をたせぇ!!!」
ポン・カーネが怒声を効かせそう叫ぶ。命令通りに毒を足すボタンを押す職員達。
「ダメです!大きく口を開けて、毒の噴出口を口で抑えています!毒がぶ飲みです!」
「もうなんなのあいつぅ」
相対する化け物を見て腰を抜かしてしまう。
「対象H!次は四階”イカ墨の間”にはいり………「ちょっと待ちな」………あなたは!」
職員の報告を遮りながら八階”指令者の間”のドアを開けたのは大柄な男だった。
「その化け物の始末、この俺が引き受けようか?」
「闇の傭兵”ヨー・ヘイね」
「あぁ金さえ出してもらえればどんなやつでも始末するぜぇ?」
闇の中でもわかるほど強い殺気と妖しく光る赤い瞳は彼の不穏さを際立たせていた。
「あなたの噂は聞いてる、どんな改造人間でも真っ二つにするその手刀は多くの強者たちを殺してきたんでしょ?」
「あぁ俺のこの赤い
「………今はあなたに賭けるしかないようね、いける?」
「あぁ能力者であれば全員殺せるぜ」
「ふっなら頼むわ」
ヨー・ヘイの魔の手が迫る!!!!!
次回”ヨー・ヘイ死す!”
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