第8話 最善の一手
二階堂さんと出会った日から人生が大きく変わった。学校と家を往復するだけのつまらない人生だったはずなのに、彼女が俺を変えた。彼女も俺の影響で少し変わったかもしれない。悪い方向にも。
「一条の悪口言う奴は許さねえ」
二階堂さんは一人でそう呟くようになった。俺と仲良くしているせいで、彼女もまた孤立してしまってたのだ。俺なんかと付き合ってたら目立つに決まってる。
「一条、学校行くぞ」
「ああ」
いつものように家で待ち合わせし、登校する。学校に入ると、指を指して笑われるようになった。それが俺のせいだと思いたくない。
教室に入ると、二階堂さんはクラスのギャルたちからゴミを投げつけられた。俺は思わずやつらを睨みつけるが、彼女は穏やかな声で俺をなだめた。
「大丈夫だから……」
二階堂さんは優しいな……。でも、自分のせいで彼女が傷つくのは耐えられない。
「もう俺に関わらない方がいい」
「え?」
二階堂さんは驚いた表情を見せた。俺は続けて言う。
「俺のせいで、二階堂さんまで嫌われるようになったじゃないか。こんなことなら別れよう」
「い、嫌だ! 別れたくない!」
二階堂さんは必死に俺にしがみついてきた。周りの生徒たちはそれを見てニヤニヤと笑っている。
「うわ……キモ」
「またイチャイチャしてるよ……」
こんなやつらに屈してはいけない。
「一条が責任感じる必要はない! 何か他にないのか!?」
「他に……? そうだな……」
「一条がイケてるやつだってみんなに分かってもらえればいいんだろ? 何かないのかよ?」
「そう言われても……」
俺にできることなんて、格ゲーくらいしかない。勉強もスポーツもできないからイケてないって言われるんだ。
考え初めて5分も経たないうちに、チャイムが鳴った。
「席ついてねー」
担任の先生が出席を取る。そして、今日の連絡をするのだが……。
「もうすぐ夏休みですね。夏休みになる前に、体育祭の出場競技と、文化祭の……」
夏休み明けには学祭がある。その準備が始まる時期か。
「体育祭で目立てばいいんじゃね?」
二階堂さんが横から口を出してきた。
「なんで体育祭なんだ?」
「私と一条がコンビ組んで勝ったら、誰も文句言えないだろ? 二人三脚出ようぜ」
「二階堂さんはそれでいいのか?」
「うん、一条と二人三脚したい」
「なら……やろうか」
俺は体育祭で目立とうと決めた。二階堂さんのためだ。
☆
「夏休み、毎日私の家で練習な」
「えっ、いいのか?」
「その方が効率良いだろ? それと……」
二階堂さんは俺にくっついてきた。
「毎日会えるのも嬉しいだろ?」
「ま、まあ……」
二階堂さんは毎日俺と会えるのが嬉しいのか。俺も嬉しいけど……。
「照れてんのか? 嬉しいのか?」
そう言ってニヤニヤしている。
「うるさい」
「また照れてるし……」
二階堂さんはニヤニヤした後、教室を出て行った。俺もそれを追いかけようと席を立つ。
「心配すんなって。職員室の場所くらいわかるから」
「そうじゃなくて……。俺もついていきたいというか……」
「寂しがりなんだな」
二階堂さんは楽しそうに笑う。
「可愛い」
思いがけない言葉に顔が熱くなってしまう。
「可愛くねえし……」
「照れてるのも可愛いぞ」
「うるせぇ……」
職員室の前に着くまで、二階堂さんはずっとニヤニヤしていた。普段はクールなのに、二人きりになるとすぐこうなるな……。
「二階堂さん、俺、体育祭頑張るよ」
「私も頑張る!」
二階堂さんがそう言ってくれて嬉しかった。俺たちは拳をぶつけ合った。
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