第7話 対立と混乱

 楽しかった休みも終わり、学校に行く。俺と二階堂さんが付き合っていることは、みんなには秘密にしている。表向きには、罰ゲーム告白は終わっているからだ。


「おはよう……」


 教室に入ってくるなり、二階堂さんは俺に駆け寄ってきた。しかし、声には元気がなく、ボソボソと話していた。


「ねぇねぇ一条……みんなから色々言われたんだけど……」

「なんて?」

「……まだ一条と距離近いとか」


 二階堂さんは不機嫌そうに言った。


「誰を好きになったってもいいよな? 一条もそう思うよな?」

「いや、俺は……」


 二階堂さんのことは好きだけど、クラスのみんなとも仲良くしたい。そういう考えが俺の中にあった。すると、二階堂さんは今にも泣き出しそうな声で言った。


「私は一条と距離あるのやだよ……もっと一緒に遊びたいよ……」


 抱きしめてあげたいところだが、この状況では難しい。


「まあ、目立ってしまうのも無理はないと思うぞ。みんなにバレないように仲良くしよう」

「うん……」


 二階堂さんは寂しそうに頷いて、席に戻って行った。なんだか悪いことをしてしまった感じがするな……。


「一条〜、最近未奈美と仲良いね〜」

「まだ罰ゲームしてるの?」


 三橋さんと四宮さんだ。こいつらはいつも余計なことしかしない。


「何の用だよ」

「この写真見てよ」


 三橋さんのスマホの画面に映し出されていたのは、日曜日に二階堂さんと遊んだ時の写真だった。誰かが隠し撮っていたようだ。


「お前ら……趣味悪いな」

「これ撮ったの私たちじゃないし。まあ、かなり拡散してるけど」

「これ未奈美だよね〜?」

「……何が言いたいんだ?」


 二人はニヤニヤと笑っていた。嫌な奴らだ。


「私たちにも分かるように説明してよ」

「一条と未奈美がデートしてたってこと?」


 この写真を撮られては言い逃れできない。俺たちが付き合っていることがバレたら、もう今まで通りではいられないだろう。俺は孤立に慣れているが、二階堂さんまで巻き込みたくない。どうしたらいいんだ……。


「お前らには関係ない」


 俺は三橋さんと四宮さんから離れようとした。しかし、二人は俺の前に立ち塞がる。


「ねえ一条……私たちにもちゃんと説明してよ」

「説明って……?」

「この写真見て動揺してるでしょ〜?」


 ダメだ。コイツらには誤魔化しきれないな。素直に言うしかないか……。


「……付き合ってる」


 俺が言うより早く、二階堂さんが宣言した。


「え……?」


 三橋さんと四宮さんはポカンと口を開けていた。そりゃそうだ。仲の良いギャルとオタクが付き合ってたんだから。


「付き合ってるってどういうこと?」


 三橋さんが尋ねた。


「そのままの意味だよ」

「未奈美……一条のことが好きなの……?」

「ああ」


 二階堂さんは堂々と答えていた。彼女の中で何かが変わったのだろう。


「ねえ未奈美、どういうこと?」

「一条はいいやつだよ。最初は罰ゲーム告白だったけど、段々好きになっていったんだ。もう、一条しか見えなくなってしまったんだよ」

「はあ……?」


 三橋さんと四宮さんは呆然としていた。当たり前だ。オタクの陰キャとギャルが付き合ってるなんて……信じられないだろう。俺はこのことをどう受け取れば良いのか分からず、ただ黙っているしかなかった。


「未奈美ってバカなの? こんなやつと……」

「好きになったら関係ないだろ!」

「よく分かんないけど、オタクと付き合うとかありえないんだけど……」


 二人が話し終わる前に二階堂さんが叫んだ。


「そんなのお前らに関係ないって言ってんだろ!」


 その勢いに圧倒されたのか、二人は黙り込んでしまった。これ以上話していても仕方がないので、俺は席についた。


「一条! なんで勝手に座ってんだよ! 悔しくないのか!?」


 二階堂さんは涙目になっていた。俺のために怒ってくれているのだろうか? その優しさが心に染みた。俺は彼女を抱き寄せ、頭を撫でる。


「大丈夫だよ……ありがとう」

「一条……」


 俺たちを見ていた三橋さんと四宮さんは何か言いたそうにしていたが、結局何も言わなかった。教室の中は不穏な空気に包まれながら、ホームルームのチャイムが鳴った……。


 ☆


 俺のせいで二階堂さんの孤立は確実なものになった。付き合わなければこんなことにはならなかっただろう。しかし、あのとき断るのも悪い気がして、心の中がもやもやしていた。

 二階堂さんとは今まで通り接していこうと思った。それが彼女にとって一番良いはずだ。


「二階堂さん、一緒に帰ろう」

「ああ」


 下駄箱で靴に履き替え、二人で校門を出る。なんだかいつもよりも距離が遠く感じた。


「その……ごめん。俺のせいで友達との関係が壊れちゃって」

「一条のせいじゃないさ」


 二階堂さんは俺の顔を見て笑った。こんな時でも彼女は優しく笑っているのだ。その笑顔を見て、俺の心はさらに痛くなった。


「それに……」


 二階堂さんが下を向いて呟いた。


「私は一条のこと好きだからな」

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