第6話 綺麗な海と綺麗な君

 夕焼けの中を二人で歩く。なんとなく恥ずかしさが込み上げてくる。二階堂さんの顔を見ると、夕焼けで分かりにくかったが、赤く染まっていた。それはきっと俺も同じ。


「なに赤くなってんだよ?」


 二階堂さんは俺の顔を覗き込んで尋ねてきた。


「いや、なんでもない」


 俺はそう答えたが、二階堂さんの追求は続く。


「一条はさ……いつから私のこと好きだったんだ?」

「さあな」


 気がつけば、二階堂さんと会いたいという気持ちが生まれていた。いつからかなんて分からない。


「そうか……。私も同じだな」


 二階堂さんは照れくさそうに笑いながら言った。俺もつられて笑いそうになる。


「その……私、またデート行きたいんだけど……」

「じゃあ、どこ行くんだ?」

「海行きたい!」


 二階堂さんは俺に迫りながら言う。積極的な姿に俺は照れて顔を背ける。すると、二階堂さんは俺の顔を両手で掴み、自分の顔の方に向かせた。


「それじゃあ、日曜日な」

「おう……」


 そのまま手を離さずに、二階堂さんは話を続けた。


「水着姿……見せてやるよ」

「おっ、おう!」


 お互い照れながら見つめ合う。夕日が俺たちを照らす中、しばらく無言のまま歩くのだった……。


 ☆


 ついに日曜日。いつものように家の前で待ち合わせだ。


「一条、早く行くぞ〜」


 二階堂さんが家の前にいた。彼女はこの前と違うおしゃれな服を着ていた。上はパステルカラーのTシャツで、下はベージュのパンツだった。


「可愛いな」


 俺がそう言うと、二階堂さんは顔を赤くして照れた。


「バカ……」


 ☆


 電車に乗っている最中も、二階堂さんはいつもよりも饒舌で、とにかく俺と話を続けたがった。話題は尽きず、あっという間に目的地に到着した。

 綺麗な海。ここは有名な海水浴場だ。さざなみの音が心地よい。


「よし、海入るぞ!」

「ええっ……! ちょっと……」


 二階堂さんはいきなり服を脱ぎ始めた。人前でそれは……。


「一条、なんで顔赤くしてんだよ! 下に水着着てきたの!」

「そ、そうか……。てっきり脱ぐのかと思った」


 俺は心臓の鼓動を悟られないように、浜辺の方へ歩いた。

 二階堂さんは履いていた靴をビーチサンダルに履き替えて、俺について来る。波打ち際で彼女は言った。


「冷たーい! でも気持ち良いー!」


 はしゃぐ彼女に思わず見とれてしまった。子供っぽい姿もまた可愛いな……。波の音は心地良く、時間がゆっくり進んでいるような気がした。


「おい、一条も早く来いよ」


 二階堂さんは手を振りながらそう言った。俺も靴を脱ぎ、ズボンを濡らさないようにしながら海へ入る。冷たい水の温度が足元から体へと染み渡るようだった。二階堂さんのいるところまで歩くと、彼女は言った。


「一条も水着に着替えてこいよ」

「俺はいい」

「なんで?」


 俺が答えると、二階堂さんは不満そうだった。


「いいからさっさと着替えてくる!」


 しょうがないなー。俺はいったん陸に上がり、適当な場所を見つけて着替えることにした。


 ☆


 着替えを終えると、二階堂さんは俺の所に走ってきた。


「一条! 早く泳ぐぞ!」

「わかったから……走るなって」


 二階堂さんは本当に元気だ。海にテンションが上がっているのか、俺を引っ張って沖の方まで連れて行ってくれた。確かに、綺麗な海の中を泳ぐのは気持ちいいものだな。

 それにしても、二階堂さんの体はなかなか……。いやいや、何考えてんだ俺は!


「一条! 追いかけっこしようぜ! 負けた方がジュース奢りな!」

「いいけど……」

「よーい、スタート!」


 俺は二階堂さんから必死で逃げた。しかし、俺の引きこもり同然運動能力では勝ち目はない。二階堂さんは俺の背中に飛び乗ってきた。


「捕まえた!」

「うわー!」


 二人で海に沈んでしまった。俺は慌てて彼女の手を引き、陸まで戻った。


「ふー……疲れた」


 俺が砂浜に座り込むと、二階堂さんが海から出てきた。彼女は笑いながら俺に言う。


「一条は体力なさすぎ!」

「うるさい」


 少し息が切れているものの、二人とも笑っている。なんだかんだで楽しいものだなと思った。


「ジュース奢れよ〜」

「仕方ないな……」


 俺は自販機まで走った。


 ☆


 時間はすぐに過ぎてしまうものだ。夕焼けを眺めながら、俺たちは帰り道を歩いていた。


「また一緒に来ような」

「ああ」


 俺がそう言うと、二階堂さんは嬉しそうに笑った。ギャルと遊ぶのも悪くない。そんな風に思った日だった。

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