第4話 Express while the heart is hot

 ようやく服屋から解放された俺は、活力を取り戻していた。ちゃんと会計は自分で払ってくれたし、荷物を待たされることもなかったから。


「次は一条の行きたいところ行っていいぞ」

「本屋」

「ああ!  私漫画めっちゃ好きだぞ!」


 二階堂さんは意外にも漫画が好きだった。


「それじゃ、三階だな」


 そう言って、俺たちはエレベーターに乗りこんだ。


 ☆


 三階に着くと、二階堂さんは真っ先に漫画コーナーに向かった。


「あー! 『青春ロック』だ!」


 二階堂さんはそう言いながら漫画を手に取った。これは今人気の音楽系漫画。ロックが題材だが、美少女たちが登場するので、二階堂さんが好きなのは意外だった。


「お前もこれ読んでんのか?」


 二階堂さんが聞いてきた。


「ああ」

「やるじゃん」


 なぜ上から目線なのかは分からないが、ようやくギャルと趣味を同じくすることができた。


「他にも面白そうな漫画探そうぜ!」

「よし」


 ☆


 その後、しばらく漫画コーナーにいると、二階堂さんがこう言った。


「私そろそろ喉が渇いたんだけどー」


 時刻はちょうど正午。たしかにお腹がすいてきた頃合いだ。俺も喉も渇いてきたし……。


「飯行くか?」


 と俺が尋ねると、二階堂さんは大喜びで返事した。


「うん! フードコート行こう!」


 こうしてみると、意外と可愛い……いやいや、そんなわけない。


「何が食べたいんだ?」

「やっぱハンバーガーっしょ」

「そうか」


 俺たちはフードコートのハンバーガー屋で昼食をとることにした。


 注文を終え、席に着く。すると、二階堂さんがニヤニヤしながら俺に近づいてきた。何か良からぬことを考えているのだろう。


「お前さ……意外と楽しんでるよな?」

「別に」


 そう否定したが、実際のところその通りである。二階堂さんのいじりはウザいが、それを除けば案外楽しい時間だと思っていた。


「ふっ……そうかよ」


 二階堂さんは笑いながら言った。これ以上話すとボロが出そうだから黙ることにした。


「おっ、そろそろ取りに行くか」


 飯が冷めるといけないので、席を立ち、ハンバーガーを取りに行った。


 俺が戻ってくると、二階堂さんは独り言を呟いていた。


「あいつ……意外と……」


 それがどういうつもりかは分からないが、きっといい意味ではないと悟った。


「ほら、取ってきたぞ」

「うわぁ! びっくりさせんなよ!」


 独り言を聞かれてびっくりしたようだ。顔が赤くなっている。


「なんで照れてんだよ……」

「お前が話しかけてくるからだろ!」


 二階堂さんは俺から視線を逸らしながら話した。俺が悪いのか? まあ、ここで言い争うのはよそう。せっかくの昼飯が不味くなってしまう。俺は黙ってハンバーガーを食べ始めた。


 ☆


 昼食を終えた俺たちは、次の行き先を相談する。


「ゲームセンター行こうぜ! あそこなら一条も楽しめるだろ!」


 二階堂さんはそう提案した。異論はないので、それに賛成する。


「いいな」


 そうして俺たちはゲームセンターへと向かった。


 ゲームセンターについた俺たち。ゲームセンターといったらクレーンゲームだが、俺の実力を見せつけるために格ゲー筐体の前に立った。


「俺の実力を見せてやる」

「オタクがイキんな。キモい」


 俺の隣にいた二階堂さんが小馬鹿にしてくる。さっきまで上がりかけてた好感度は一気にマイナスに転じた。


「始めんぞ」


 百円を投入する。このゲームは家で何度もプレイしているから、アーケード版も余裕……のはず。隣では二階堂さんが口を半開きにして俺を見ていた。


「ほら、やってやるよ」

「おう……」


 結局俺は二階堂さんをボコボコに叩きのめした。


「お前……嫌い……」


 やっちゃった。せっかくのフラグをぐちゃぐちゃに壊してしまった。


「だけど、分かったことがある。お前にも得意なことがあるんだな」

「えっ?」

「一条にもいいところはあるってことだよ」


 二階堂さんは突然そんなことを言った。こんな俺を褒めてくれるとは、ギャルのくせに意外と良いやつなのかもしれない。


「そろそろ帰ろうぜ。もう五時だから」


 時間が過ぎるのはあっという間だった。俺たちは帰路についた。


 ☆


 家に着く頃には、太陽もすっかり沈んでいた。俺は二階堂さんと共に家の前に立つと、思わず呟く。


「今日は楽しかった」


 そう言うと、二階堂さんは俺の方を見てニカッと笑った。


「そうかよ!」

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