第3話 退屈はスパイス

 帰り道のこと。俺はデートのことについて尋ねてみた。


「あの……デートってどこ行くんだ?」

「男が決めるもんだよ、そんなの」

「そうか……」


 俺は男女差別に断固反対である。こいつの場合、男が払って当然だと思ってそう。


「えっと……それじゃあ今週の日曜日だな」

「ああ」


 帰宅後は、デートの行き先を考えるだけで一日が終わりそうだ。俺のオタ活タイムが……。


「それじゃ、日曜日な」


 いつの間にか家に着いていた。去っていく二階堂さんの背中を見ながら思った。


(わがままな女は嫌いだ)


 ☆


 デートのことなんて、全く分からない。どこに行くのか? 何をするのか? とにかく、インターネットで検索してみよう。


【デート おすすめ】


 水族館、繁華街、公園……。


 うーん、ギャルの二階堂さんが喜びそうな場所は……。


 そんなことを考えながら画面をひたすらスクロールしていたところ、突然メッセージが届いた。二階堂さんからだ。


『早く』


 デートの場所を早く決めて教えろ、ってことか? 文脈無視の文章を送ってくるとは、さすがギャルである。


『今考えてんだよ。そっちから希望はないのか?』


 と返す。すると、すぐにメッセージが来た。


『カラオケ』

『俺はカラオケ苦手』

『おもんな』


 失礼極まりない。俺はパリピじゃないからカラオケ苦手なんだよ。それに、俺って音痴だし。


『じゃあ、GENSHIは?』


 GENSHIモール。それは大手のショッピングモールであり、家族連れから高校生まで万人向けの商業施設。こんな解説じみたことを言いたいのではなく、俺と二階堂さんの両者が楽しめそうだということだ。


『りょ』


 そう返信が来た。


 ☆


 来たる日曜日。俺の家の前で待ち合わせである。


「おせーよ」


 二階堂さんはすでに家の前にいた。偉そうだな……。


「ごめんな」


 二階堂さんはいつも通り金髪であるが、制服の時とはかなり違う印象を受けた。私服はオシャレなんだな。


 胸を強調した黒の服に、限界まで短くされたスカート、そして茶色のブーツという完全なギャルである。胸デカいんだな……。


「お前だっさ」


 二階堂さんは俺の服装を見るなり言った。


「いいじゃん、服なんてどうでもいいし」


 俺は渾身の青ジャージだ。服なんてどうでもいい。


「ジャージがダサいんだよ。もっとオシャレしろよ」

「やだよめんどくさい」

「こんな奴の隣歩きたくねぇ……」


 相変わらずの失礼さ。ジャージの何が悪い。


「じゃ、電車行くぞ」


 俺は二階堂さんに導かれて、GENSHIモールにやってきた。本当に久しぶりである。最後に行ったのは……小学生の頃か? あまり覚えてないが。


 館内に入ると、それなりに混雑していた。日曜日だしな。二階堂さんはいつもより楽しそうに見えた。もしかしたら友達とはよく来ているのかもしれない。


「まずどこに行く?」


 そう尋ねると、光の速さで返事された。


「服! 服見たい!」


 ギャルはどうしてそんなに服が好きなのか。俺にはさっぱり理解できない。


 二階堂さんに連れられ、レディースファッションのフロアに来た。女性向けブランドのお店がたくさんあるが、違いが分からない。


「おい一条! これどう? これよくない?」


 俺の意見を参考にするようだ。しかし、俺はファッションについてはよく分からないので、ただ好きか嫌いか言うだけである。


「良い」

「ああ! 絶対適当じゃん!」


 二階堂さんは怒鳴り散らした。目立つからやめて。


「ちゃんと見てよ! 試着してくるから」


 そう言って試着室に駆け出す。その後、試着室から姿を表した二階堂さんは、ミニスカートを穿いていた。


「どう?」

「いいんじゃないか? 似合ってる」


 その言葉を聞いた二階堂さんは顔をほころばせた。適当に言ったのはさっきと変わらないのに、どうして言い方一つで反応が大きく変わるのか。日本語の神秘である。


「でしょー! 私は何着ても可愛いから!」


 しまった。調子に乗らせてしまった。


「これも見て!」

「ああ……」


 その後、服屋には一時間滞在した。

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