第2話 類は友を呼ぶ?

「えっと……」

「早くしろ!」


 二階堂さんに引っ張られて校門を出る。歩いている最中も罵倒の嵐だ。


「歩くの遅いな」

「えー……」

「はあ……陰キャってマジ体力ねえのな。嫌い」


 好きだから付き合うんじゃないのか? しかし、これが罰ゲーム告白であることを忘れてはならない。


「おっ!  あそこにいるの一条じゃね?」


 と、誰かが言った。注目されてる。まあ、俺のような陰キャとスクールカースト最上位のギャルが一緒にいたら目立つからな。


「はあ……マジ最悪」

「ご、ごめんなさい」

「……チッ!!」


 ああ……怖い。さっきからずっと睨まれてるし、舌打ちされるし……。怖くて足がすくむが、何とか人通りの少ないところまで来た。


「正直なこと言っていい? これ、罰ゲームだから。あんたなんか本気で好きになるわけないからな?」


 彼女の口からはっきりと言ってくれて、逆に救われた気がした。


「ああ、なんとなく分かってた」

「チッ……ならいいけど」


 ☆


 緊張しながら帰宅するも、なんとか家に着いた。肩凝った。


「それじゃ」


 それだけ言ってあっさり帰る二階堂さん。こちらとしてもイチャつくのは無理だからありがたい。


「ただいまー」

「お兄ちゃんおかえり」


 ああ……妹の京子きょうこはあんなやつと違って可愛い……。黒髪は清楚の象徴である。崇拝すべき存在。金髪に染めるギャルとは対極なのだ。


「お兄ちゃん、彼女できたの? 玄関まで来てた人誰?」

「彼女じゃない……罰ゲーム告白とかいうものを受けたんだ」

「そう、よかったね」


 いいわけあるか。京子は無邪気だからそんな風に言えるが、俺にとっちゃ面倒臭いだけだ。二階堂さんはかなり気が強いし怖いからな。さっきもずっと睨まれてたし。ああいうのは苦手。


「それよりお兄ちゃん、私ね、テストで100点取ったんだよ」


 中学生の京子は成績優秀で、真面目なのだ。俺と違って……。


「さすが京子。俺の妹なだけある」

「それはないかなー」


 と、京子は苦笑い。


「あ、ごめん」


 ☆


 夕食が終わり風呂も入ったのでもう寝る準備は万端だ。まだ眠くないのでゲームでもするか。


 今は格闘オンラインゲームにハマっている。かなり上達してきて、実況者の配信に参加すると賞賛されるほどだ。今日も配信に入る。


『うまいね!』

『動きが半端ない』


 俺はゲームでは神になる。それで承認欲求を満たし、明日の苦しい現実に備える。しかし、その苦しさは以前とは比べ物にならないだろう。二階堂さんのせいで。


 ☆


 朝は眠い。起きるのは苦手だ。


「お兄ちゃん、起きて」


 毎朝京子に起こされる。これも日常の一部になりつつある。


「はい、お弁当ここ置いとくからね」

「んー……」


 弁当は京子が作ってくれる。妹は完璧人間だと思う。唯一の欠点は、兄がクズだということだ。


 グダグダしながらベットから出て、朝食を食べ、登校する。だいたい準備が整ったところで、インターホンが鳴った。朝から何の用だよ。


「一条、行くぞ」

「え……あ……」


 二階堂さんは何も言わずに先に行ってしまった。俺は急いでカバンを持ち、駆け足で追いかけた。しかし、背は小さいのに歩くの速いな。いや、小さいから早いのか。昨日の格ゲーを思い出した。


 そんな彼女の後ろに付いていたせいか、やや早く学校に到着した。教室にいたのはまだ五人程度であった。


「一条、連絡先交換しろ。どうせやることなくて暇だろ? メッセージくらい送ってこいよ」

「あ……う、うん……」


 失礼な。俺はオタ活に忙しいんだよ。とはいえ、そちらから申し込んでくるとは思わなかったので妙に嬉しかった。

 しばらく無言でいたが、その静寂を打ち破る存在が二名現れた。


「やっほー、未奈美」

「彼氏と仲良ししてる?」


 二階堂さんのギャル仲間、三橋凛みつはしりんさんと四宮結衣しのみやゆいさんだ。こんな風に煽ってくるということは、罰ゲームはきっと彼女らが企画したのだろう。


「うるさい」


 そう言って二階堂さんは彼女らをあしらった。


 それにしても、ケバケバしてるよな、ギャルって。二階堂さん、三橋さん、四宮さんと全員が全員同じような見た目してる。顔は整っているが、化粧のケバさがその可愛さを台無しにしている。


「一条ってどんなタイプの女の子が好きなの?」


 唐突に三橋さんが言った。少なくとも、お前らみたいなやつではないよ、というのが本音だが、こんなことを言ったら殺される。


「清楚な人が好きだよ」


 殺されないかドキドキしながら言った。


「ああ、じゃあ私たちみたいなのは無理ってことねー!」

「あははは!」


 何がおかしいのかよく分からないが、三橋さんと四宮さんは笑った。笑いが止んだところで、二階堂さんは口を開いた。


「てか、凛と結衣はなんで来たんだよ」

「未奈美が彼氏作ったから見に来たのよ」


 こいつらマジで余計なことしかしないな。友達同士で煽り合いなんて、醜いにもほどがある。


「凛と結衣は分かってると思うけど、これは罰ゲーム! こんなやつ好きじゃねえよ!」


 いや、俺の前で言わないで。せめて見てないところで頼む。


「未奈美が一条を好きになるわけないか。未奈美はイケメン好きだもんねー」

「ああ」


 二階堂さんはそっぽを向いて言った。それにしても、二階堂さんには好きな人がいるのか? ギャルというのは、本気で好きでなくてもすぐに付き合う。やはりギャルは理解できない。


「凛と結衣も同じだろ」

「まあね。私はK-POPアイドル大好きだから」


 と四宮さんは言った。


「私はまぁ、顔よければいいかな。性格はどうでもいいし」


 と三橋さんが言った。改めて思うが、ギャルってクズしかいないな。しかし、そんなクズを好きになってしまう男がいるからギャルたちの恋愛経験は増えるのだ。さらに、それを見て女の子たちは恋愛に積極的になる。悪循環だ。


「ああ、そんなことよりさぁ、一条、未奈美。

 日曜日にデート行って写真撮ってきてよ」

「ラブラブ見たいんだよねー」


 三橋さんと四宮さんはそう言った。こいつらはギャル特有のウザさを持っている。


「それはさすがに……」


 二階堂さんは露骨に嫌がっている。俺とデートなんて、最悪の罰ゲームだよな。

 こうしてみると、この三人は仲がいいのかどうか分からなくなってきた。仲間を貶めてからかう。それが仲間と言えるのか?


「それで、お前はいいの?」


 二階堂さんは俺の方を向いて言った。はあ……分かったよ。俺はため息をつきながら答えた。


「いいけど……」


 俺の一言で二人は喜んだ。二階堂さんも嫌そうな雰囲気を出しつつも、なんとか受けてくれたみたいだ。デートって何をするんだろうか?

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