罰ゲームで告白してきたギャルにガチ恋される話

烏丸ウィリアム

第1話 偽りの愛

 俺は一条海斗いちじょうかいと。陰キャの高校生。友達はこの1年2組にはいない。皆無ではないぞ! 他のクラスにはいるけど……。うん……。まあ、スクールカースト最底辺に変わりはない。


 ぼっちといえば、休み時間の苦痛だよね。みんなの話し声を聞きながら寝たフリをするのだ。


「でさー、凛がまた新しい彼氏できたって話」

「別にいいじゃん、前の彼氏面白くなかったんだもん」


 ギャルは声がデカいな。それに、話す内容も低俗だ。だけど、声のデカさに比例して容姿もいいからこれがまた困る。特に、二階堂未奈美にかいどうみなみさんはなかなかの美少女だ。


 彼女はスクールカースト最上位に君臨する。陽キャ女子の中心にいて、誰にでも優しい……というのはラノベを読みすぎたオタクの妄想だ。二階堂さんは陰キャをかなり見下している。キモい、臭い、汚いという3Kであしらってくる。


「そーいう未奈美の前の彼氏ってどんなやつだっけ?」

「えっとね、あー……なんだっけ? てか、あんまし記憶にないかな」

「まぁーじぃ~?? 最悪じゃん」


 そう言ってゲラゲラと笑う二階堂さんのグループ。騒がしいやつらだ。カーストトップでここまで傲慢になれるのか。スクールカーストなどというものが存在する限り、この学校に俺の居場所はない。


 ☆


 昼休みになった。俺は決まって階段下の、暗く狭いスペースに移動する。そこには、中途半端な長髪が目立つ男が先にいた。


「よう、一条殿。朕は待ちくたびれたぞ」


 喋り方がウザいし、髪型もダサいこの男は五十嵐始いがらしはじめ。俺の唯一の友達。俺なんかと友達になってくれるのはこの男くらいだから、一応感謝している。


「それで、今日のメシはなんじゃ?」


 こいつは毎日弁当を持ってきている。俺はというと、昨日買った菓子パンだ。袋を開けると、あたり一面にイチゴクリームの匂いが漂った。とても美味しそうな匂いがした。


「本当に美味しいのか?そのパン」

「おい、『パン』って設定的に大丈夫なのか? 『小麦練り』とかじゃなくていいのか? 知らんけど」

「あ……うむ小麦練り」


 こいつは名前に『始』と入っているせいか、自称始皇帝の生まれ変わりを名乗る。一人称が朕だし、古典語みたいな喋り方をする。それに、態度がデカくて若干イラつく。


「朕が最近読んだ書物では、オタクに優しいギャルというものが存在するようだ」


 こいつがいう『書物』とは、大抵ラノベか漫画だ。


「オタクに優しいギャルなんているのか? 現実に存在するなら是非会ってみたいよ」

「はっ、朕たちには関係ないことさ」


 一緒にするな。と言いたいところだが、反論できない。事実だから。


「さて、昼食も済んだし、そろそろ時間だから教室帰る」

「朕はこんな埃臭いところもう勘弁なり」


 ☆


 教室に帰ってきた。俺はすぐに席に着き、窓の外で飛ぶ鳥を見ていた。授業が始まっても同じ。カラスは可愛いなー。


「おい、一条。ちゃんと授業聞いてるのか?」


 こうして先生に注意されるのにも慣れた。慣れは本当に恐ろしい。


 ☆


 ようやく授業が終わった。さっさと帰ってゲームでもしよう。昇降口に駆け出し、下駄箱を開けると、一枚の手紙が入っていた。あまり綺麗ではない紙に包まれていた。


『放課後、中庭に来て』


 とだけ書いてあった。差出人は不明。可愛い字で、字体も若干丸っこく、女の子らしさが滲み出ている。


 俺は急いで中庭に向かった。これは何か良い予感! 美少女から告白とかそういうのを考えながら走った。


 到着すると、数人の女子生徒がいた。誰かな? そう思って見回していると、一番目立つやつに声をかけられた。


「私だよ。早く来いよ」

「あ、あの……二階堂さん?」

「なんだよ。ちゃんと目見て話せよ」


 口調が強いなぁ……。それに高圧的だ。それでも顔が綺麗だから美人は得するなぁ。


「私と付き合え」

「えー!?」


 顔だけはいい二階堂さんとお付き合い!? 悪くはないかも……。いやいや、顔以外はあまり好きではない。


 そんなことを考えていたのも一瞬だった。後ろの木の方に、二人の女子生徒が隠れているのが見えてしまった。ああ、これは噂に聞く『罰ゲーム告白』。彼女らはニヤニヤしていた。


「返事だけはして」


 そう言って二階堂さんは俺の顔を覗いた。つい頬が緩んでしまう。


「なにニヤついてんだよ! キモいなー!」

「あ……すいません……」

「それで、答え。早く」

「あ、あの……その……」

「早く!!」

「あっ……はい……お願いします……」

「はいはい、よろしくよろしく」

「う、うん」


 これはやってしまった。でも、俺は女の子とお付き合いした経験なんてないし、これも良い機会だ。ギャルの生態を知り、今後に役立てる。そう思えばいい。あまり期待しない。あちらだってそうだ。こんな陰キャになんて期待してないさ。気楽にいこう。


「それじゃ、今から一緒に帰るぞ」

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