兄さんも胸が大きい方が……

 志帆の身体の感触に俺は完全に冷静さを失っていた。

 なんとか言うべきことを思いつく。

 

「『ずっとこうしたかった』って……いつから?」

 

「最初にこの家に来た日から、です」


 そういえば、志帆が最初にこの家に来た日、俺は風呂場を案内したっけ。

 あのとき、志帆は「二人でも余裕で入れそう……」なんてつぶやいて、それから顔を赤くして俺を見つめた。


 あのときは俺のことを警戒して、覗かれたりするのを嫌がっているのだと思っていた。

 でも、違ったのだ。


 あのときから、志帆は俺と一緒の風呂に入ってもいい、いや入りたいと思っていた。

 ただ、さすがにいきなりそんなことを言うのはためらわれたのだろう。


「志帆……」


「あたしのこと、はしたないって思いました? 同い年の男の子と一緒のお風呂に入りたいって思っていて、ずっとそういうことを想像しているなんて・・・」


「全然。そんなこと思うわけないよ。だって、志帆がこの家に来た日、志帆と一緒のお風呂に入るところを想像したからね」


「そ、そうなんですか。兄さんのえっち……」


「そうそう。俺も健全な男子だから。志帆も遠慮しないでいいよ」


「じゃあ、これから毎日、一緒にお風呂に入ってくれますか?」


「そ、それは……」


 ダメだと言おうと思った。そうでないと俺の理性が持たない。

 けれど、俺は考え直した。

 志帆は勇気を出して言ってくれているのだ。


 なら、俺もその気持に応えないといけない。


「いいよ。俺もそうしたいから」


 志帆はぱっと顔を輝かせる。


「ほ、本当にいいんですか……!?」


「もちろん。俺もそうしたいからね。まあ、その、俺が志帆をちょっぴりエッチな目で見ちゃうかもしれないけど、許してほしいな」


「兄さんになら、いくらでもエッチな目で見られても平気です。ううん、そのために、あたしはここにいるんですから」


 ふふっと志帆は笑う。

 毎日一緒にお風呂に入ってもいい、なんて軽率に約束するべきではなかったかもしれない。


 今、この時点で俺はいっぱいいっぱいで、下手したら志帆を襲いかねない。密着状態がこのまま続けばどうなるか……。


 だが、志帆は俺から離れてくれた。そして、俺の背中の洗剤をシャワーで洗い流してくれる。

 た、助かった……。


 なのに、志帆はシャワーを止めると、さらに爆弾発言をする。


「ねえ、兄さん。遠慮しなくていいって言ってくれましたよね?」


「もちろん。志帆がしたいことがあれば、何でも言ってよ」


「なら、もっと甘えさせてください。一緒に湯船にも入りたいんです」


「え!? そ、それはさすがに……」


「ダメですか……?」


 志帆に甘えるように見つめられて、ダメだとは言えなくなった。

 俺は結局、うなずいてしまう。


 志帆はくすりと笑う。


「あたし、軽く身体を洗いますから。先に湯船に浸かっていてください」


 言われるがまま、俺は湯船に入る。湯は張っている。

 ええと……。


 ど、どうすればいいだろう? さすがにこれはまずいのでは……?

 志帆がバスタオルをしゅるりと脱ぐ。そして、シャワーを浴び始めた。


 白い肌が俺の脳に焼き付く。赤い綺麗な髪が水に濡れて胸元に張り付いていて扇情的だ。

 横を向いているから、大事なところは見えないけれど、それでも一糸まとわぬ姿だ。


 俺の視線に気づいたのか、志帆が恥ずかしそうな顔をする。


「た、タオルをしたままでは身体を洗えませんから……」


「そ、そっか」


「兄さん、あたしのこと、見すぎです……」


 俺は慌てて目をそらす。

 しまった……。いや、志帆は俺にエッチな目で見られたい、と言っていたのだから問題ないのでは……?

 それに、俺だって裸を見られているわけだし。


 俺は首を横に振った。

 そんなわけない。このままだと志帆に流されてしまう。


 だが、結局、俺はちらっと志帆を見てしまう。


「~♪ ~~♪」


 志帆が鼻歌を歌いながら、身体を泡の洗剤で洗いはじめる。

 国民的アイドルの美少女。そして義理の妹。俺とずっと昔会ったことがある女の子。


 その志帆が目の前で無防備に裸で身体を洗っている。

 細い腕を、白くて綺麗な脚を……。そして大きな胸を泡で包み込み、引き上げるように洗う。


 志帆は俺を見て、くすくすっと笑う


「こうするとバストアップに効果があるんだそうですよ。本当かはわかりませんけど」


「それを俺に教えてどうするの……?」


 俺は照れ隠しに言ってしまう。


「兄さんもバストアップします?」


「俺はできないよ!?」


「そうでした。残念」


「何が残念なのかよくわからない……」


「ふふふ。でも、あたしはこうやって見かけに気を遣っているんです」


「アイドルだものね」


「もちろん、それもありますけど……。もう一つ理由があります」


「別の理由……?」


「はい。きっと兄さんは……胸が大きい方が好みだろうって思いましたから」


 志帆は自分の胸を強調するように手で持ち上げてみせながら、シャワーで胸の泡を洗い流した。




<あとがき>

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