志帆のシたいこと

 

 俺は一歩後ろに下がるが、志帆もさらに一歩を踏み出して俺に迫る。


「し、志帆……ダメだよ。兄妹なのに……一緒にお風呂なんて……」


「まるで『恋雨』の春人みたいなことを言いますね。あの兄のように……あたしを襲っちゃいますか?」


「そんなことしないよ! 俺は志帆を大事にしたいから……」


「なら、一緒にお風呂に入っても平気ですよね?」


「いや、それは……そうなんだけど、やっぱり俺が平気じゃないというか……」


「兄さんはあたしとお風呂に入るの、嫌ですか?」


 上目遣いに志帆に問われ、俺はうっと言葉に詰まる。

 志帆がとても寂しそうな表情をしていたからだ。


「嫌なわけないさ。志帆が俺とお風呂に入りたいなんて言ってくれるなんて、嬉しいよ」


 その言葉を聞いて、志帆は顔を赤くして、はにかむ。


「なら問題ないですね。あたしは兄さんと一緒のお風呂に入りたい。兄さんもあたしと一緒のお風呂に入りたい。誰も困りません」


「理屈ではそうだけど……」


「兄さんがあたしが嫌がるようなことはしないって、わかっていますし」


 志帆はふふっと笑い、俺を見つめる。

 それは買いかぶりだ。俺は普通の男子で、衝動に駆られて志帆を傷つけてしまうかもしれない。


 それに、「志帆が嫌がること」とはなんだろう?

 今の志帆なら、何をしても許してくれるんじゃないか?


 そんなふうに考えてしまうこと自体が危険だ。

 志帆を見つめ返す。志帆はその白い肌を赤く染め、恥じらうように胸を手で隠す。

 

 それでも、胸の谷間は見えてしまっている。

 さすがアイドルというべきか、小柄なのにスタイル抜群で胸も大きいんだな、というのを感じる。


 バスタオル一枚姿だから、身体のラインがはっきりとわかってしまう。そんなふうに志帆を見るのは初めてだ。


 いや、違う。アイドルだった頃から……テレビの画面で見る志帆のことを、エッチな目で見ていなかったといえば嘘になる。

 

 男女を問わず、異性の美少女アイドルに対して性的な関心を持つこと自体は普通のことだと思う。

 それ自体は恥ずべきことでもないとは思うのだけれど。


 今の志帆は義妹なのに。そういう感情を抑えようとしてきたのに。

 このままだとまずい。


「……兄さん? あ、あまり見つめられると恥ずかしいです……」


「あ、ごめん」


「お背中流しますから、座ってください」


「う、うん」


 俺は風呂場の椅子に素直に座ってしまう。すると志帆が手に洗剤を取ると、俺の背中を素手で洗い始めた。

 ぬるぬるとした感触に俺はどきりとする。


「な、なんで素手なのさ……?」


「その方が気持ちいいかなって思ったんです。ダメですか?」


「いや、たしかに実際その方が心地よいけど……」


「なら、いいですよね?」


 志帆がいたずらっぽい口調でささやく。耳元に志帆の吐息がかかり、俺はドキドキさせられた。

 そのまま志帆の手がまんべんなく俺の背中を洗う。


 目の前に鏡があって、俺も志帆も写っている。志帆が俺の背中を洗うたびに、その胸が揺れて俺は慌てて目をそらす。


「兄さんの背中、暖かくて大きいです」


「ちびの俺の背中が大きいことなんてないよ」


「そんなことないです。あたしには……大きく感じられるんです。兄さんは頼りがいがありますから」


「そうかな? 俺なんかでよければ、いつでも頼ってよ」


「ありがとうございます。でも、あたし、いつも兄さんに甘えてばかりです。住む場所をもらって、料理も作ってもらって、デートに付き合ってもらって……」


「さっきも言ったけど、そんなの普通のことだよ。志帆は気にしなくていい」


「でも……あたしは……」


 志帆は小声でなにかを言おうとする。

 俺は迷った。でも、ここで本心を伝えないと志帆はこのさきも遠慮してしまうかもしれない。


「志帆みたいな可愛い女の子がそばにいてくれるだけで俺は嬉しいから」


「え? か、可愛いですか……?」


 志帆が照れたように言う。

 俺はうなずいた。


「一緒に楽しく暮らせて、俺の料理を美味しく食べてくれる志帆がいるだけで、俺はたくさんのものをもらっているから。だから、志帆はもっと俺に甘えてよ。遠慮なんてしなくていいから」


「は、はい! ありがとうございます……そう言ってくれて……あたし……嬉しいです」


「だから無理して俺の背中を流すとか、そんなことしなくていいよ」


「無理なんかじゃありません。だって……ごめんなさい。これは……あたしがしたかったことですから」


「え?」


 突然、志帆は俺の背中に抱きつき、ぎゅっと両手を俺の身体に回した。

 洗剤まみれの俺の背中に志帆の胸が密着する。柔らかい感触がたわみ、なにか小さな突起のようなものが背中に感じられる。


「志帆!?」


「ずっと……こうしたかったんです」


 志帆は甘い声で俺の耳元にささやきかけた。





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