志帆の家
結婚する? 俺と志帆が?
記者の方見さんもさすがに固まっている。
「ど、どういうこと?」
俺が困惑して志帆に尋ねると、志帆は悲しそうな顔をする。
「ずっと黙っていてごめんなさい。兄さん。あたしが兄さんの家に来たのは、もう一つ理由があるんです」
志帆は俺の義妹になった。家族になった。
それが彼女が俺の家に来た理由だと思っていた。
でも、同時に本当にそれだけなのだろうか?とは疑問に思っていたんだ。
やっぱり何か他に理由があるらしい。
志帆が決然とした様子で俺に歩み寄る。
そして、ささやく。
「あたしは兄さんの婚約者なんです」
「こ、婚約者? そんなこと聞いたこともないよ」
たしかに小牧の後継者は政略結婚してもおかしくない。
父さんだって、俺の母とは家の事情で結婚したと聞く。
けれど、俺に限ってはそんな話はないと思っていた。だからこそ葉月に告白したのだ。
でも、違ったらしい。
「……それは羽城の家が関係ある?」
「やっぱり、兄さんも気づいていたんですね」
「まあね。志帆はあの財閥家・羽城の家の人間なんだよね?」
「はい。ですが、あたしは羽城の本流ではありません。現当主の娘……それも私生児なんです」
なるほど、と思った。
女優レティ・ポートマンは羽城家当主の愛人だったらしい。それで志帆を産んだ、と。
志帆は自嘲するような笑みを浮かべる。
「羽城の家はあたしとママを冷遇してきました。当然ですよね。どこの馬の骨ともしれない外国人とその娘なんですから」
「けれど、志帆はアイドルとして大人気になった」
「そうですね。でも、だからこそ本家の人間たちはあたしのことが目障りだったみたいです。そこで考えたのが、あたしとママを小牧の家に売り払うことでした」
小牧家と羽城家の同盟。そのために、レティ・ポートマンと志帆は差し出された。
もともと俺の父はレティさんにご執心だったらしい。それで羽城の当主は厄介払いを兼ねて、小牧の家に渡したのだ。
小牧勇一とレティ・ポートマン、そして小牧公一と羽城志帆の二重の婚姻を条件に。
「そっか……。大変だったね」
俺は言うが、つまり、俺たちが家族になることはレティさんも、そして志帆も望んでいないことだったということになる。
けれど、志帆は首を横に振った。
そして、潤んだ瞳で俺を見つめる。
「ママがどう考えているかは知りません。でも、あたしは本当に兄さんの妹になりたかったんです」
「どうして? 志帆が会ったこともない俺にこだわる理由がある?」
俺は誘導するように志帆に問いかけた。
案の定、志帆はその流れに乗った。
「違うんです。あたしは兄さんと昔会ったことが……」
そこでパシャっというシャッター音がした。
はっと気づくと、方見さんが俺たちを写真に撮り、満面の笑みを浮かべていた。
「アイドル・羽城志帆が男の子と同棲。しかも義理の兄で、結婚の約束までしているなんてスクープね」
状況は危機的だ。
まず、この記者をどうにかする必要がある。
俺は方見さんに言う。
「小牧と羽城の力があれば、あなたの出版社を潰すことぐらいできますよ」
「いまの日本にそんな力のある家はないわ。おとぎ話のせかいじゃないんだし」
「少なくともあなた自身をクビにできる」
「やってみればいいわ。こんなチャンスをふいにするなんて……」
ところが、そのとき突然、黒塗りの車が近くに乗り付けた。
俺も志帆も方見さんもそちらに視線が釘付けになる。
車から降りてきたのは、屈強な男たちだった。
そして、彼らは方見さんを掴む。
「な、なにするの!? 放しなさい!」
「小牧の家に逆らったのを後悔しろ」
彼らはあっという間に方見さんを車に押し込み、どこかへと連れ去った。
彼女がどんな目に遭うのかは知らないが、これで記事が表に出ることはないだろう。
改めて俺は自分の家の恐ろしさを感じ、足がすくむ思いだった。
あの力は外部の人間に向けられるだけじゃない。
俺や智花さん、そして志帆も小牧に逆らえば、同じように粛清される。
思わず、俺はぎゅっと志帆の手を握った。
志帆が俺を見上げ、顔を赤くする。
「に、兄さん……?」
「志帆にどんな事情があっても、俺は志帆の味方だから」
「……はい」
志帆は微笑んで、俺の言葉にうなずいた。
<あとがき>
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