ラーメン!
志帆の輝くような笑顔に俺はドキッとする。
アイドル――妹にそんな顔をさせたのは俺なんだ。
そう思っていたら、後ろから智花さんに肩を叩かれる。
「あはは、公一くんってば照れてるー!」
「照れていません!」
「まあ、こんな可愛い大人気アイドルの妹に懐かれていたら嬉しくなっちゃうよねー。私もそうだもん」
「志帆が可愛いのは事実ですけど……」
「あら、もう妹自慢? 可愛いものねー」
俺と智花さんがそんなことを言い合っていると、志帆が困ったように頬を膨らませている。
「か、可愛い、可愛いって連呼されると恥ずかしいです……」
「だって、事実だし」
俺が言うと、智花さんもうんうんとうなずく。
智花さんが小首をかしげる。
「アイドルなんだから可愛いなんて言われ慣れているでしょう?」
「お仕事で言われるのとプライベートで言われるのは別なんです!」
「そういうものかしら? ね、公一くん。試してみたら?」
「へ?」
智花さんが小声でささやいた内容を聞き、俺はうなずいた。
そして、志帆にそっと近づき、耳元に口を寄せる。
「兄さん……?」
「可愛い、可愛い、可愛い!」
俺は言われたとおり、
智花さんが志帆の耳元でわざわざ三回言ってみた。智花さんの提案だ。
志帆がぼんっと湯気が出るように顔を真っ赤にする。
「に、兄さん!」
「ほんとに照れてる……」
「からかわないでください」
「志帆が可愛いと思っているのは本当だよ」
「アイドルとして、ですか? それとも妹として?」
志帆に尋ねられ、俺は困った。
その両方でもあり、どちらも違う。一人の異性として志帆を可愛い、と思ってしまっている自分がいる。
これではこのさきの同居生活が思いやられる……。
「もちろん、妹としてだよ」
「ふうん。パーティでは、あたしもかっこいいタキシード姿の兄さんを見られるわけですね。楽しみです!」
「あ、あまり期待しない方がいいよ……」
「仕返しにかっこいい、かっこいいって連呼するんですから」
志帆がくすくすといたずらっぽく笑う。
そして、ぽんと手を打つ。
「えっと、ドレスは……」
「そうだった。智花さん。すみませんが、支払いの手配を」
俺が言うと、智花さんはうやうやしく手を胸に当てる。
「かしこまりました。公一様♪」
「急にかしこまらないでほしいんだけど……」
「公一くんは私の仕えるべき主だもの。こういう場面ではちゃんとしないとね」
智花さんがふふっと笑って言う。
もちろん志帆のドレスは小牧家のお金から出す。百貨店は帝急が経営していても、経営者の一族と会社は別物だ。上場もしているし。
俺は個人用の生活費とは別に、小牧家として使うべき金についてはクレジットで支払いを行うことを許可されているのだ。
ただ、高校生はカードを持てないので、代わりに智花さんの社用カードで払うわけで。
志帆は慌てた様子で手を横に振る。
「あ、あたしのお金で買いますよ! あたしだって、アイドル活動でお金がたくさんありますし……」
そう言ってから、志帆は値札を見て絶句する。思っていたより、ゼロがいくつか多いんだろう……。
「志帆はもう小牧家の人間なんだし、しかも小牧家のパーティに出るためなんだから、当然経費で出すよ」
「で、でも……」
言うつもりはなかったのだが、志帆が気にしているので、俺は一つ事実を挙げる。
「それに、志帆がいるっていうだけで、小牧家にとってはメリットはすごく多いし」
「え?」
「父さんは、元大人気アイドルの志帆を小牧家の宣伝塔に使うつもりかもしれない。俺は反対だけど……」
そんな形で志帆を利用されたくはない。
けれど、志帆は首を横に振った。
「アイドルは引退しますけど、そのぐらいなら協力します!」
「あ、ありがとう……」
「兄さんたちのためですから」
志帆はふふっと笑った。
さて、これで一つ問題は片付いた。
俺は腕時計を見る。
「そろそろお昼か……今日は外で食べていこうと思うけど、なにか食べたい物ある?」
俺の問いかけに志帆は少し迷い、それから俺を上目遣いに恥ずかしそうに見つめた。
「あの……実は……ラーメンが食べたいんです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます