やっと二人きり

「は、葉月!?」


「ちょっと用事があってね。志帆ちゃんにも会いたいし!」


「え、えっと……」


「ダメ?」


 ダメ、かと言われると、ダメとは言えない。

 今でも俺は葉月に好意を持っているのだから。


「入るね?」


「えっ……」


 葉月はうちの合鍵を持っている。家族ぐるみの付き合いということで、俺も葉月の家の鍵を持っている。

 自宅にいることが少ない弥生さんが、俺に葉月を助けてくれるように頼んでいるという事情もあった。


「おじゃましまーす」


 あっという間に葉月はリビングまで来てしまった。葉月はセーラーの制服姿で登場し、そして目を点にした。


「お、女の子がもう一人いる……! し、しかも一宮実菜さん……!?」


 一宮さんもびっくりした様子だった


「え! 小牧くんって彼女がいたの? い、家に来るなんて……もしかして……」


 一宮さんはけっこうむっつりすけべなのかもしれない。

 葉月も一宮さんの言葉に顔を赤くして、「か、彼女じゃない……」とつぶやいている。


 俺は葉月と一宮さんの両方に事情を説明した。

 葉月はふむふむとうなずくと、嬉しそうな笑みを浮かべた。


「エトワール・サンドリヨンの実菜さんに会えるなんて、すごくラッキー! わたし、ファンなんです!」


「ありがとう。同い年だから、気楽に話して」


「うん! アイドル二人だあ……」


 葉月の目がきらきらと輝いていた。

 逆に志帆は居心地が悪そうにしている。


「あ、あたしはもうアイドルじゃありません……」


 だけど、メンバーの実菜もファンの葉月も志帆の復帰を望んでいる。

 いや、あの伝説のアイドル、羽城志帆がステージに立つ姿を全世界がふたたび見たいと思っているだろう。


 俺も本心ではそういう思いもあるのだけれど。エトワール・サンドリヨンのことは好きだったから。

 でも、一人ぐらい志帆の味方がいてもいい。


「俺は志帆の意思を尊重するよ」


 静かに言うと、志帆は驚いたように俺を見上げ、そして安心したように「ありがとうございます」とうなずいた。


 もちろん、一宮さんは納得していなさそうだ。

 ただ、先に口を開いたのは葉月だった。


「やっぱり、コウ君と志帆ちゃんが二人きりで暮らすのはわたしも反対だな」


「どうして?」


「だって、高校生の男の子と女の子が同棲なんてダメだもん。それに……コウ君と一緒にいるのはわたしだけだったのに」


「え?」


「な、なんでもない。だからね、一宮さんの代わりにわたしが一緒に住むのはどう? わたしがいれば、コウ君も志帆ちゃんも変なことはできないでしょ?」


 とんでもないことを葉月が言い出した。

 たしかにそれはそうだけど……葉月は俺を振ったのにそんなことを言うのはよくわからない。


 志帆が俺の服の袖を引っ張る。


「兄さんはあたしの意思を尊重してくれるって言いましたよね?」


「もちろん」


「あたしは兄さんと二人きりがいいです」


 志帆は小声で甘えるように言う。

 その言葉で俺の意思は決まった。


 もちろん俺は葉月が好きだ。その葉月が俺と同居してくれるなんて、夢見たいだけれど。

 でも、今の俺に大切なのは、妹の志帆だった。


 葉月に俺は微笑む。


「ごめん、葉月。心配は嬉しいけど、必要ないよ」


「え?」


「俺と志帆は家族だし、二人で暮らすのは自然なことだと思う。何も問題はないよ」


「で、でも……」


 葉月はもちろん、一宮さんも口を挟もうとした。

 けれど、俺はそれより先に言葉を重ねる。


「万一、何かあっても帝急グループの力で事態は解決できるし」


「私は反対。志帆が――」


「一宮さん。これは俺と志帆の問題だ」


「そ、そうだとしても私だって志帆の仲間なのよ!?」


「どうしても反対するって言うなら、俺も帝急の力を使うしかない」


 言いたくなかったことだけれど、仕方ない。

 俺は帝急という日本有数の企業の経営者一族だ。その力は政財界はもちろん、芸能界にまで及ぶ。


 いくらエトワール・サンドリヨンが人気でも、その四番人気のメンバーなんて吹けば飛ぶようなものだ。

 実際、帝急の幹部には有名女優や元アイドルを妾にしているケースもある。俺の父がレティ・ポートマンを妻としたように。


 俺は一宮さんを業界から消すことも、何なら一宮さんを無理やり愛人にすることだってできるかもしれない。

 もちろん、そんなことはしないけれど、志帆との同居ぐらい押し通せる。


 一宮さんはそこまでは想像できていないだろうけれど、結局、しばらく考えて素直にうなずいた。


「わかったわ。そこまで言うなら、今日のところは認めて上げる。でも……私の代わりに志帆をちゃんと守ってね、小牧くん」


「ああ、もちろん」


 俺はうなずいた。一宮さんはくすりと笑う。

 葉月は不満そうに頬を膨らませていた。一宮さんはともかく、俺には葉月の考えがよくわからなかった。


 葉月にも何か俺に言っていない事情があるのだろうか。


 ただ、二人はすぐにいなくなった。俺が一宮さんを駅まで送ろうかと申し出たが、葉月が「わたしが行く!」と手を挙げた。


 せっかくのアイドルと仲良くなる機会だから、葉月にとってもうってつけなのだろう。

 こうして家には俺と志帆だけが残された。


 志帆はほっとため息をついた。


「やっと二人きりですね。兄さん」


「嵐が来たようだったね……でも、いいの? 一宮さんが心配していたようなことは起こるかもしれない」


 俺だって健全な男子高校生なのだ。志帆はもっと危機感を持ってもいい。

 だけど、志帆は首を横に振った。


「優しい兄さんがそんなことしたりしないって、知っていますから。それに兄さんになら、ちょっとぐらい……そういうことをされても平気ですし」


「へ?」


「じょ、冗談です! そ、それより……今日の夜ご飯もとっても楽しみにしています!」


 志帆はそう言ってとても楽しそうな笑みを浮かべた。





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